身体の熱くなる理由・2
「大丈夫です。平熱より少し高いだけです」
どうにかして掛布による簀巻き状態を解消しようと努める私に、無言のままケント伯が近づいた。
手伝ってくれようというのか。期待したのに、そうではなく、伯は私の頬に触れた。熱をはかりに来ただけらしい。
「ね、大丈夫です」
その手と体温はたいして変わらないと言えば、眉をひそめられた。
「ミナミ嬢は体調不良を隠す」
心配されていただけだった。
「これくらい、わざわざ言うほどのことでもありません。ですからそんなに気を回してくださらなくても」
ケント伯の目元に険しさが滲んだことで、私は余計なことを言ったのだと理解した。慌てて付け加える。
「ありがとうございます」
「……動けるのか」
「もちろん」
日延べしたところで、今日より明日の体調が良いとは限らない。
苦心してようやく掛布から腕を出した私は、ケント伯の手に自分の手を重ねた――と見せかけて、触れることを嫌がって頬から手を離してもらおうという目論見。
ケント伯は一度目を伏せるとすぐに視線を戻した。
「無理だと思う時には、私の判断で切り上げる。必ず従って欲しい」
隊長の指示は絶対。当然です、と良い笑顔を作る私を「胡散臭い」と言わんばかりに見たものの、伯はようやく手を離してくれた。
「思ったより獣が寄ってきませんね。聖女様の御威光に恐れをなして逃げたかな」
ライリーさんが砕けた調子で言うくらい、毒沼の浄化は順調だ。獣が少ないのは、ただ単に先行した狩人が良い仕事をしているのだと思う。
「そうだな」
重々しい口調で返すケント伯は、直轄領についてから慎重さが増した。「任務を完璧にこなし戻る」という責任が重圧となっているのかもしれない。
なんて考えていると、目が合った。このところよく視線がぶつかるのは、私の体調を不安視している伯が絶えず注視しているせい。
安心してもらおうと「元気です」と指先をひらりとさせれば、つられて片手を上げかけて中途半端に止める伯は、大人の男性なのに可愛らしいと感じてしまう。
こういう時、ライリーさんは見て見ぬふりだ。
「明るいうちに、先へ進む。予定より早いが移動する」
気まずそうに私から視線をはがしたケント伯の声が、朗々と響いた。




