こうして私は異世界へ・3
その日も、ありふれた一日になるはずだった。
午後の授業開始時刻になってもエミリーさんは現れなかった。
空席に目をとめた先生が「どなたか理由をご存知?」と聞く。
皆の視線は当然のように私に集まるが、私だって知らない。
「……探してきます」
私はひとり教室を出た。まずは保健室、ひょっとしてランチルーム、自習室、どこも静かで誰もいない。
一体どこに? 職員室で聞いてみようかと思案するところで、雲がおかしな速さで流れていくのに気がついた。どんより重く見ているだけで息苦しくなるような空。
気になって広いところで見てみようと校庭へ出れば、そこにエミリーさんの後ろ姿を見つけた。
「授業が始まっています、こんなところで何を」
掛けた声に角が立ったのは仕方がないと思って欲しい。聞こえないのか返事がない。
「エミリーさん」
先ほどより声を大きくすると、振り返りもせず「待っていたの」と返された。
なにを? 誰かが探しに来るのを? だとしたら迷惑な話だ。
「見て、来たわ」
腕が示す方向を見れば、遠くに地から天まで通る細い一本の筋が揺れていた。
「あれは……?」
「竜巻」
竜巻は起こりやすい地形や条件があると聞く。私が習った限り、王都で目撃されたことは無い。
こういう時はどうするのだったか。確か堅牢な建物の中に入り、窓からできるだけ離れる、だったような気がする。
ゆらりとしながらこちらへと寄る竜巻が少し太くなったと感じるのは、近づいたせいか。それとも拡大しているのか。
「中に入りましょう、ここは危険です」
「どうして?」
場違いに思える朗らかな声に、困惑する。
「どうしてって。危ないです」
危険だと訴える私と違い、振り返ったエミリーさんの顔は、声とつりあう明るく晴れやかなものだった。
「大丈夫。これは私の見せ場なの」
――意味がわからない。
エミリーさんはどこか得意げに告げた。
「竜巻をおさめて、私はこの国の重要人物になると決まっているの。アリスさんには教えてあげる、特別にね」
気でもふれたか。付き合いきれないと思った。彼女を置いて私だけ戻ろうかと考える。でもエミリーさんが怪我をしたら、間違いなく非難を受けるのは私。長というものは、全てにおいて他者を優先し自身は後回しにするものだ。
私が退避するのなら、彼女を引きずって戻らねばならない。
「お話は後にして、ひとまず室内へ」
伸ばした私の腕は、勢いよく払いのけられた。




