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眠れない夜

 眠れない。殿下のせいで眠気が吹っ飛んでしまい、長い夜になっている。

 私は皆の邪魔にならないよう静かに、何度目かわからない寝返りをうちつつ、深呼吸した。



 あの後、ブレンダン殿下は「今日はここまでにしておこうか」とおっしゃり、にっこりとした。


「僕の自制心の強さは、素晴らしいよね。僕じゃなかったら、君は今頃裸だと思う」

「は、裸!?」


 裸ってあのその、服を全部脱いだ状態のことですよね。私が今服を着たままでいられるのは、ひとえに殿下の自制心のおかげだからもっと敬え、と言われているのだろうか。


 そんなことになったら大変と自分の肩を抱いた私の太腿に殿下が手を置く。



 セクハラ! それブレンダン殿下でなければセクハラですから!


 慌てて不埒な手を押さえに向かうと、器用に手を返した殿下に恋人繋ぎにされる。


「あられもない下着姿を見せてくれたのだから、恥ずかしがらなくてもいいのに」

「水着ですっ」


 食い気味になった。殿下はご存知ないでしょうけれど、下着は水に浸かると水着という呼び名に変化するんです。

おわかりですか、おわかりですね。ええ、聡明で知られる殿下がおわかりにならない訳がありませんとも。

心の内で念じる。


 心の声が伝わるはずもなく。その後殿下は、

「君と親密な仲になりたい」


「たい」と言いながら「なる」と決めつけたお顔でとんでもない事をおっしゃり、私を無口にさせたのだった。



 




 健やかに眠るバージニアの隣で、悶々として眠れない私。

暑くなり掛布をめくって冷やし、涼しくなって戻す。それもいい加減飽きてきた。



「おやすみのキスは、ゆるしてくれる?」


 バージニアとケント伯の眠る部屋の扉に手をかけた時のブレンダン殿下を思い出してまた熱くなり、掛布をよける。


 それに対し咄嗟に「そんなことされたら、泣いちゃう」と返した私。ない、ないわ。それ可愛いと思って言ってる?


 顔から火が出そうなほど恥ずかしい。ひとり頭を抱えて寝返りをうつ。


 おやすみのキスをお断りした私を、愛おしそうに「可愛いね、アリスは」と頭をポンポンした殿下を思い返す――止めたいのに止まらない。


「小説みたい」

独り言を言ってしまい、慌てて口を押さえる。寝ている人を起こしてはだめ。


 結局、早起きのカラスが鳴くまで、私は寝返りを繰り返した。


 

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