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初めてはアリスの寝台で・2

 これは……身に余る光栄? できることが瞬きしかなくてパチパチしていると、ブレンダン殿下が可笑しそうにする。


「こういうのは、初めて?」


 腕枕なら大学時代の彼にしてもらった覚えがある。ただ、彼の腕が痺れるのではないかと私が落ち着かなくて、早々に外していた。


 あちらも「事後はこうするものだ」という義務感でしていたような感じだ。



 こんな風に頭を浮かせて、下敷きになった腕の負担を少しでも減らそうとする腕枕は――


「初めてです」


 それはもうキッパリと言い切った。十分に大人の男性なのに、殿下の笑顔は昔のまま。


 またエミリーさんを思い出して、心が冷える。それを顔に出さずにいられるくらいには、私も成長した。



「君が身を固くしているのはこの後に期待して……かな?」

「え!?」


間近にあるお顔は悩ましげ。

「人の家でするのは多少ためらわれるけれど、君が望むなら喜んで」

「なんの、お話ですか」


 脈打つ心臓の音が部屋中に響いているような気がする。

殿下がわざとらしく首を傾げる。


「さあ、何のお話だと思ったの? アリスは」


 言わせる!? 意地が悪くていらっしゃる、これはからかわれただけ。

私は頸部から力を抜き、頭の重み全てを殿下の腕にかけた。



「最初からそうすればいいのに」

殿下が笑いを含んで言う。


ふて腐れて答えない私の名を呼ぶ。

「アリス」


 一度くらいスルーしてみてもバチは当たらないんじゃないか。

「何も聞こえませんでした」風にあらぬ方へ目を向けた私の耳に、吐息がかかる。


「君が好きだ」


 まさか! ガバリと起き上がって、食い入るように殿下を見つめれば、非の打ち所のない微笑で。


「もう一度聞きたいの? 」


私が答える前に

「いいよ、何度でも。アリス、僕は君が好きだ」



 こういうのを爆弾発言というのでしたか。でもあれですよね、好きにも色々ございますもんね。「好き」というなら、アリスの方こそ殿下をお慕いしておりました。


 ですけれども、立場とか階級とか。それは「好き」という気持ちを持つ分には自由なんでしょうか。


 あ、そうですよね。別に「結婚しよう」と言われたわけじゃない。「付き合おう」でもない。

私の頭の中が先走っただけ。



 今日は信じられない出来事があって、殿下も平常より気持ちが高揚されていて、通常より私が可愛く見えてしまったのかも。


 待って。絞めあっている二人組のうちのひとり――つまり私――を、可愛いなんて思う?


 あ、可愛いとは、殿下一言もおっしゃっておられませんでした。願望を語ってしまって、私ったら恥ずかしい。



 目は心の窓と申します。先ほどから黙って私の様子をご覧になっている殿下に、これが全部伝わっていたら……穴を掘って埋まりたい。


 そうそう、私はアリスじゃなくてミナミと名乗るほのかでした。


少し冷静になり、適切なお返事を思いつく。


「ありがとうございます」

「――どういたしまして」

 

 首の後ろで手を組み頭を乗せて寛ぐ殿下の表情は「求める返しはそうじゃない」と雄弁に伝えていた。


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