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聖女は異世界で徳を積む

 ケント伯の屋敷。聖職者の顔合わせは「異世界の服装で」と指定された。


 この世界では見慣れない服装、見慣れない道具――ボールペンとか蛍光マーカーがせいぜい――を根拠として、私達は「異世界から来た聖女」と認定された。簡単すぎて拍子抜けする。



迎える側も別の意味で気抜けしたらしい。


「文献によりますと、異世界からお渡りになった方は、もっとこう……戸惑われたりなどして、状況を理解し受け入れるのに時を要するというような」


そんなこと。私が答える。

「私のいた世界には、異世界より戻られた方が記した経験本が多く存在します。特に私はかなりの数を読み込んでおります」


 なるほど、そのようなものが。と驚きとともに納得される。


「お戻りについてのご心配などは」


 教会には対聖女の手引書でもあるのかと考える私の隣から、可憐な声がした。


「自分達でなんとでもしますから、お気遣いなく。それよりもお話をうかがいましょう。お呼びになるのにも多大な労力がかかると思います。それでもなさったのは、よほどのお困り事を抱えていらっしゃる」



 おお、まさしく聖女さまの鑑。涙ぐまんばかりに感激した様子の聖職者。


 きっと文献には、異世界へ飛ばされたことが受け入れられず、取り乱したり精神的に不安定になる「聖女」が記録されているのだろう。



 私に言わせれば、思春期の女の子をひとりで渡らせるのがそもそもの誤り。私達と同じく事前に「創造主」と話しても実際に来てみれば、あまりの文化の違いに、聞いた話も吹っ飛んでしまうに違いない。


 その点藤堂様は九十歳超え私は社会人五年目の働き盛りが、十七歳バージニアと私ミナミの中身。

仕事をさせるには、なかなかいい人選だと思う。



「ひとつお尋ねしたい」


 扉の脇に立っていたこうケント伯が発言するまで、私はこの方が同席されているのをすっかり忘れていた。


「協力的である理由をお聞かせ願いたい」

顔つきは厳しい。


 バージニアは少しも臆することなく微笑した。子供に向けるような温かな眼差し。


「私の国には『情けは人の為ならず』という言葉があります。そして『徳を積む』という考え方も。思想ですので、うまく伝わるかどうか分かりませんけれども」


ケント伯の視線が私に移る。


「右に同じです」


 雑な返事の仕方がお気に召さなかったらしい、顔が険しくなる。ケント伯は黙して横を向き、会話はそこで途切れた。


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