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僕には

僕には好きなことががある。散歩をしてその日の天気だったり、思いったことをメモするというものだ。いつものように散歩をしていた2023年8月2日の昼下がり、あの東屋にくたびれた女の人がいた。酒を飲んで、蝉の声すら聞こえない音量で音楽を流してた。簡単に人を愛す曲を聴いてるなんて。第一印象はそんな普遍的なものだった。話を聞いてみた、これは自傷行為なんだと。

そこから先は聞かずとも答えてくれた。愛されたことがないから幸せを想像するんだと、当たり前のように言う彼女に心が少し引っ張られた。

僕に質問が来た、何か聴いてるんだろ?素直に聴いてたものを教えた。なんで人を想う曲を聞いてるの?わかりやすく答えた。こんなにも人を想えるだなんて僕にはできないから、これが僕は幸せだと思ってるから。こう答えた、彼女は笑ったような安心したような顔になった気がした。

不思議な縁を、魅力を感じたので連絡先を交換した。

次会ったら話そうな、そんなことを笑いながら言って彼女は寝た。僕はそそくさと家に帰った。


それから数日、今日まで彼女のことを思い出さなかった。しかしなぜかふと東屋に行く前に思い出してしまったのだ。東屋では会えずに、連絡もしなかったから、そもそも彼女とは喋った時間が短いし、こんな言い訳を繰り返していつの間にか脳からこぼれおちていたことを恥じなかった。

思考をかき消すかのように音を大きくし音楽を聴いて東屋に着いた。

彼女が倒れていた、既に周りにはもう救急車がいた。心臓が動いてないなんて聞こえてきた。


忘れていたはずの彼女なのにこんなに心に霞がかかるのか、この誰かを想う曲に彼女を重ねてしまうのはなぜだろうか、後悔と疑問が、矛盾が僕を襲う。思考が追いつかない、せめて衝動で動いてしまえ。

誰かを想う曲なんかじゃ足りないんだ、人を愛すのもじゃ違うんだ。

せめて僕にできるのはこの葛藤を、本名すら知らない彼女を忘れないようにするだけなんだ。

この感情を詰めたものを、あわよくば彼女に響く何かを作りたい。

彼女に対する想いを書いた、それはあまりに傲慢だった。

彼女に対して詩を書いた、この心は数行に収められない。


結局僕には作れなかった、彼女を悼むつまらない文字を並べることしかできなかった。

僕にはまだ早かったのかな?そんな思考だけが脳内を駆け回ってしまう。

逃げるように散歩をした。少しだけ忘れようとした。

いつもの癖でかけた曲はこう言ってる、こんな気持ちを知れただけでも幸せだと言えるのだろう

知ったのにその君がいないんだ、これが幸せなんて…。

彼女が聴いていた音楽はこう言ったっけ。もうメロディーに身を任せてしまえ、足りない言葉を探すのはやめて


音楽なんて僕には早い。

言葉なんて僕には足りるわけがない。

僕には小説も早かった

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