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寝ても、覚めても  作者: 駄犬
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付かず離れず

「またあの店に行ったのかよ」


 友人は常に不機嫌な面持ちで、方々に愚痴や悪態をつき、ストレスの捌け口を探しているようだった。その的に、よもや自分も巻き込まれてしまうとは、不運としか言いようがない。


「またって……いいだろう。別に」


 テーブルの上に頬杖をつき、如何に鼻持ちならない言動であるかを友人に喚起する。それでも、友人の悪態は留まることを知らず、俺がどれだけ搾取されているかについて注進を続けた。


「この世に蔓延る、あらゆる健康法は全て紛い物んだと思ってるからさ。それにお金をかけるなんて、あまりに見ていられない」


 俺は闇雲に喧嘩をするつもりはなかった。同居相手と険悪な関係に至れば、ここを出て行く準備すらままならない間に面倒事が一気呵成にやってくる。故に、耳が痛い友人の悪罵をひたすら聞き入れ、頭に上った血を下ろそうと鼻で呼吸を繰り返す。


「まぁ、それもあるよな」


 そして、機嫌を伺うような言葉でもって、友人との距離感を保った。これはいずれ、関係を著しく損ねる破綻の入り口となり得て、なかなかに扱いづらい題材だ。何故ならば、互いの自尊心を傷つけ合っても破綻しない揺るぎない信頼感は有しておらず、このまま口喧嘩の火蓋を切るなどすれば、憎悪を向ける対象として発展する恐れがあった。


「気をつけろよ」


 新興宗教に傾倒する人間を諌めようとする友人なりの気遣いなのだろう。しかし、それは見誤った見識に違いない。理解し難いものを遠ざけようとするのは、人間らしい感情と言えるが、科学的見地に即した極めて現実的な医療行為なのだから。


「わかったよ」


 それでも、俺は友人の注進を承伏し、如何にも脇を固める準備を整えたような仔細顔をした。テレビの画面に映るバラエティ番組の雑音が、居間の拠り所となって俺達の仲を取り持つように飛び込んでくる。


「冗談じゃないよ! 俺はそんなことしないよ」


 番組を構成する台本から逸脱しない範囲で所作や声を自分なりに形成し、視聴者の気を引こうとする演者の努力は、五秒と満たぬうちに携帯電話などにお株を奪われる。その儚さたるや、俺も同情するところだが、作り手の浅はかな画面構成は極めてお下劣であった。演者が発した言葉を赤く強調した文字としてデカデカと画面を占領させ、杓子定規なカメラの切り替わりに合わせた中身が伴わない会話。記憶に残るものは一つもなく、ひたすら時間が過ぎていくような実りのなさは、視聴率という目に見える形で陰りを見せる。とはいえ、携帯電話に取って代わられて久しい斜陽なテレビ番組も、耳を貸す程度ならとくに邪魔にはならない。


「明日、雨だってさ」


 沈黙を埋め合わせるテレビの雑音の間隙に、友人は携帯電話で有用な情報を探っていたようだ。


「日曜日に降られると本当に憂鬱になるよ」


 週末の限られた憩いの日が天気によって不首尾に終わる口惜しさは、月曜日を迎える為の気力を削る。水曜日に至っては、もはや歩く人形のような気分にさせられるだろう。そんな機運があった。

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