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寝ても、覚めても  作者: 駄犬
14/19

上塗り

「クソ」


 度重なる飲酒と同窓会という名の社会的体裁を確認し合う所謂、“マウント”合戦によって発汗した身体は、排水溝に比肩する汚らしさがあり、シャワーを浴びて洗い落とさなければ、一日中尾を引く予感があった。汗が乾いた後の湿り気を帯びた洋服を洗濯機へ投げ込み、転がるようにして風呂場の敷居を跨ぐ。暑いお湯を頭から浴び、著しく錆び付いた副交感神経に刺激を与える。瞬く間に血が巡るような感覚を覚え、鏡に映っていた眠たげな両目が開いていくのを目の当たりにした。緩慢な手付きで全身をざっくばらんに這わせ、俺はとりあえずのシャワーを終える。脱衣所にて、ズボンのポケットに入れたままの携帯電話に気付き、洗濯機から脱衣して間もない服を取り出す。日々の習慣となって幾久しい猥雑なネットニュースの題目へ目を向けようとすれば、連絡先を交換したばかりのクラスメイトから既に連絡が来ていることに気付く。


「昨晩は急に話しかけてごめん。一週間後の日曜日に夢クリニックへ行く予定だから、一緒に行かないか?」


 親切にも地図を添付する徹底ぶりは、もはや俺が断る道理にないことを直裁に伝えているようだった。嬉々として返答するほど心構えが出来ておらず、返答を先送りにし、居間へ戻った。


「でも、次の日かな。やけに気になったんだ」


 中身が伴わない話に耳をそばだてる田中氏の視線は俺の口元に向けられ、如何に興味深いかを物語っていた。与太話に生じる綻びを目敏く指摘するような気配はないからといって、脇の甘さを露呈させるような軽はずみなことを言うつもりはない。日時やそのときの心情などをつぶさに語ることで真実味を与え、ひたすら心の接近を図った。


「行ったの?」


 今まで静観を徹底し、口を挟んでこなかった田中氏が、俺の語り手としての稚拙さに痺れを切らしたのだろう。先へ先へと話が進むことを促し始めた。嘘を釣り餌にした竿のしなりから、ふつふつと心地良さが生まれ、俺は嬉々として話を続ける。


「行きましたよ。紹介によって初めて利用できる場所だとは露知らず、厚顔無恥にもドアを叩きました」


 ありもしない記憶を鮮明に思い出すかのように、バツが悪そうに頭を掻いて、面映い経験を語る人間らしい感情を再現した。


「門前払い?」


 乱高下する田中氏の興味の行方に、俺はみごとに振り回されている。それでも、不思議と嫌な気分になることはなく、積極的に先々の展開を予想する節操がない田中氏の態度を喜んで受け入れていた。


「それがね、中村さんの温情で試しに一度だけ、施術をしてくれると言ってくれたんだ」


 もはや習慣となって久しい“夢クリニック”への通院に際して、中村氏への気受けが特別に良くなったことはない。というより、始めの印象から悪化しているようにすら思う。

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