ポーカーフェイスな必勝だるま
年の初めにだるまを買った。
口がへの字の真っ赤なだるま。
家に帰って筆ペン使って、片目に黒丸願いを込めた。
今は無愛想片目のだるま。きっと最後に笑わせてみせる。
4月になって、桜も散るころ。受験戦争の幕開けだ。
空気は一変、勉強ムード。
周りの空気に背を押され、おろした髪を一つに縛った。
6月今後の予定を立てた。
基礎を固めて苦手をなくす。
問題集は、毎日100問。
日々の授業の予習も忘れず。
だるまは静かに私を見てた。
8月受験の天王山。
夏を制すは受験を制す。
そんな言葉に鼓舞されて、毎日塾で夜まで勉強。
予習、対策、模試、復習。
毎日机にかじりつく。
片目のだるまを見る暇さえない。
10月最近調子が悪い。
模試はD判、予習はおざなり。
夜遅くまでの勉強で、正直寝る間も無いくらい。
なのに周りは結果を出して、私はまだまだ芽が出ない。
目のないだるまとこのままおしまい?
焦りの暗雲がたちこめる。
これからどうなってゆくのだろう。
12月ついに冬が来た。
この寒さは終わりの始まり。
次に暖かくなるころには、全て結果が出てるころ。
かじかむ指を温めながら、私はひたすら机に向かった。
だるまの表情は変わらない。
不安げに見えるのはきっと気のせい…。
1月本番一次試験。
自信はほんとにちっともない。
やるだけやった、どうとでもなれ。
そう思うことしかもうできない。
高まる鼓動を抑えながら、テスト開始の合図を聞いた。
一次はまずまず、なんとかつないだ。
苦労が報われ泣くもつかの間、ほんとのゴールまでもうちょっと。
一切の油断も許されない。
だるまと自分に鉢巻巻いて、最後の試験に二人で挑む。
2月受験の終わりの季節。
長く苦しい戦いも、ついに終わりが訪れる。
不安要素は次から次へと、やってもやってもきりがない。
早く終われ、まだ終わるな。葛藤は心をむしばみながら、
それでも残酷に時間は進む。
ついに最後の最後の時。
今日は片目のあなたもカバンに。
私を見ていて、頑張るから。
無愛想だるまの頷くところが、なんだか見えた、そんな気がした。
3月。
合格発表には現地に行った。前夜はろくに寝られなかった。
受験票とだるまをかかえ、永遠に思える時間が過ぎたころ、
掲示板のシートははがされた。
私の番号は、そこにあった。
かくしてだるまに両目が入った。
真っ赤な鉢巻だるまは今日も無愛想、
だけどなんだか嬉しそう。
あなたとだから、頑張れた。
この一年間、ありがとう。
だるまのおでこに、ちゅっとキスした。
お読みいただきありがとうございました。
受験期は、毎日これでいいのかと自問自答する日々で、とても苦労したことを覚えています。
本作を書いていく中で、あの頃感じた不安や、徹夜で臨んだ合格発表での感動を
また思い出すことが出来、
作者としても、とても楽しく書かせていただきました。
受験生の皆様へ。
無愛想だるまも笑顔になるくらい、素敵な日々の幕開けとなることを、
心より祈っております。