3.1話「入学式」
『あのさ。葵、茜僕ら結婚しようよ。』
…とは、言ってみたものの僕は結婚がどういったものかどれだけ大変なのかさえ知らなかったのだ。それに、その台詞を言ったのは僕が5歳の時だ。二人は今頃どうしてるかなんて、僕は知る由もなかった。けれど、知りたくて知りたくてたまらなかった。僕は本気でその台詞を言ったんだ。マジだったんだ。本気と書いてマジと読むとはよく言うけれど、僕は5歳から高校生の今に至るまで、気持ちは変わらない。二人と結婚したい。そんな他愛もない話を頭に浮かべながら、僕は、高校へと向かうのであった。ちなみに、僕は三好青空。ただの高校生。今日は入学式、高校初日だ。少し緊張しているけれど、どんなクラスメイトがいるんだろうか。不安もあったけれど、僕は一歩ずつ高校へ向けて歩いた。
入学式を終えた僕は、新しいクラスの皆と教室の席についた。僕の高校は少人数でクラスも一つしかない。クラスメイトはたったの10人しかいなかった。右の一番の前の席には、背の高い男子が座っていた。精悍な顔つきで、とても頭が良さそうだった。教室内を見回したが、男子と女子は半々だった。知らない子ばかりだ。そうしているうちに、先生がやってきた。
「みんな、おはよう。よろしく。先生のことは先生と読んでくれ。出席取るぞ〜えー、あいうえお順でいいか。新大地。」
「はい。俺です。」
「みんな聞いて驚くなよ。新君は首席だ。実は、もう一人いるんだが、その子は名前を読んでからの紹介でいいな。では、次…。」
驚くなよ。とは、言われたけれど、驚いた。本当に頭が良いんだ。しかも、首席。信じられないな。僕は特別頭がいいわけではないから。頭の良い人を尊敬しているけど、首席が二人もいるなんて、どれほど頭がいいんだろう。もう一人の子が気になったけれど、先生が次々に名前を読んでいったので。クラスメイトの名前は覚えられなかった。僕は、先生を見ていた。すると、先生の表情が、綻んでいた。
「この生徒も首席だ。榊原秋賢君。君は、お父さんが作家なんだってね。確か名前は、榊原典賢さんだったかい?」
「はい。そうです。父は、寛大で、賢き方です。ご紹介ありがとうございます。僕も、父のように優秀になりたいですね。」
ええ!!作家の息子なんだ!僕はまたもや驚いてしまった。初日から驚いてばかりいる僕だったが、次の先生の発言で僕は耳を疑った。
「ん?早乙女が二人いるな。葵と茜双子か?」
「そうでーす。」
「はい。そうです。」
えっえっえっ、嘘だよね。冗談だよね。早乙女葵と茜、信じられなかった。信じられるわけなかった。僕が婚約した、二人だ…。
今すぐにでも、話しかけたかったが、僕にそんな勇気はなかった。子供のような無邪気さは、僕にはないんだ。でも、でも、名前も名字、顔も成長はしているけれど、そっくりだった。
「あれ!青空君じゃん!おひさ!」
「えっ、覚えてるの?葵…。」
「本当だ。青空君だね。久しぶり。」
「茜…。二人共覚えるんだ。久しぶりだね。また、後で話そうよ。」
感動の再会…以外の言葉が見つからなかった。二人は声もそっくりだ。それに美人だ。唯一違うのは、喋り方ぐらいなんだ。
「三人共、出席確認続けるぞ。えっと次は…。」
先生は、生徒の名前を呼び続け、その作業を終えた。
僕はその間、二人を凝視していた。気持ち悪いかもしれないけど、二人のことが好きなのは今となっても変わらない。よくよく見てみると、二人は髪型も同じだ。葵は青の髪飾り。茜は赤の髪飾りだ。見分けはついた。本当にわかりやすい。これ以上ないほどわかりやすい。僕は、赤色が好きだけど、青色も悪くないなと思えた。だからといって、葵が苦手ってわけじゃない。赤が好きなだけなんだ。何を話そうか。話したいことは、沢山あったけれど、僕は口下手だ。スラスラと言葉が出てこないんだ。そう考えている内に、茜と葵が僕の元へやってきた。
「青空くーん、元気?きゃは!」
「青空君、元気かな…?」
「うん。凄い偶然だよね。まさか、あの日以来、高校で再開するなんて、嬉しいよ。」
僕は、2人を見ながら、笑みを浮かべた。でも、なぜだろうか。頬に、一滴の雫が零れ落ちた。意味が分からなかったけれど、嬉し涙なんだろうと、自分では解釈した。泣いてるのに、嬉しいなんて、自分でも不思議だと思った。
「青空君、大丈夫?」
茜が、ぎゅっと僕を抱きしめた。また、僕を気遣い、心配してくれた。
「ありがとね、大丈夫だよ。」
僕の目から落ちた雫から少しだけ温もりを感じた。また、僕は、そう言うと、ふと、茜の若かりし頃を思い出したので、話を切り返した。
「そういえばさ、茜、猫好きだったよね?」
「う、うん。そうだよ。よく覚えてるね。青空君…。うふふ。」
「今は、猫飼ってるの?」
「うん。サイショウちゃん。飼ってるよ…。」
サイショウか、どんな猫なんだろう。
「茜、品種は、何?」
「クロアシネコだよ。世界でね、一番小さい猫ちゃんだから、サイショウちゃんだよ。」
それは、僕も知らなかった。サイショウちゃんか、茜っぽいな。昔と変わらないな~。
「そうなんだね、この後、どうする?僕の家来る?」
僕は、ふと視線を感じた。その視線は、彼、新大地のものだった。
彼は、僕らに視線を向けたかと思えば、踵を返して、廊下へと出ていった。
「いいよーん。」
「いいよ…。」
学校を後にした、僕らは、僕の家、三好家へと向かった。
次回までどうぞよしなに。