暑くてムシムシしてお腹が空いて
二年前、猛暑の日。
前日に大雨が降ったこともあり、
その日は湿度も高く蒸し暑い日であった。
そんな不快指数が極めて高い中、昼休みに事件は起こった。
食堂で注文するために券売機に並んでいた舞の前に、上級生が割り込んだのである。
「消えろ、ゴミ」
開口一番、舞は上級生を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた生徒は五メートルほど吹っ飛び壁に激突して気を失った。
普段であれば、その状況から周囲が退くはずだった。
しかし不運なことに生憎の猛暑と湿気生徒たちの状況判断能力をあやしくさせていた。
その飛ばされた生徒の仲間が舞を取り囲む。
それらは口々に罵倒を浴びせるが、舞はボーっとしながら周囲を見回す。
そしてニヤリとした舞は、そいつらの前へと一歩進み出る。
「ピーチクパーチク囀るな。耳触りですよ、烏合の衆の皆さん。少女1人に寄って集って群れるなきゃ何も出来ない猿なんですか?」
それだけ言うと、正面で立ちはだかる生徒を三人ほどを腕を振るっただけでまとめて吹き飛ばした。
そして残っている仲間へ向け、鼻で笑った。
「群れなきゃ女の子の一人も満足に声をかけられないとか、どれだけ矮小なんですか先輩たち。無駄に年だけ取ってますね」
それだけで残りの生徒達を挑発するには十分だった。
その言葉の二の句にが出る前に周囲の生徒は一斉に舞へ向け異能が放つ。
雷や石つぶて、周囲の椅子やテーブル、さらに金属製のナイフにフォークが飛び交い勢い襲いかかる。
中には自身の身体能力を強化した猛者が直接殴りかかった。
しかし当の舞はそれらをものともせず、自身の強大な魔力を放出して弾き飛ばした。
それだけで相手は倒れ伏してゆく。
挙句に仲間を見捨てて逃げようとした者には、気絶した生徒を石でも投げるみたいに投げつけ昏倒させた。
最後には食堂にあるゴミ箱へ気絶した生徒をから積むように放り込んだ。
「塵も積もれば山となるとは言いますけど、積もっても所詮ゴミ山ですね」
そして事が終わり舞が券売機へ向かおうとすると、今度は教員や警備員が舞を取り囲んでいた。
「お腹空いてるのに……もうっ!!」
空腹の猛獣に近づいてはいけない。
そんな言葉がぴったりだったそうだ。
その教員や警備員がどうなったのかは言うまでもない。
本来なら生徒の鎮圧は風紀委員が担当している。
が、すでに最初にやられた生徒に混じっていたようで、全員仲良く全滅させられていた。
その騒ぎは次第に大きくなり、当時の生徒会の役員であった圭も暴れる舞の鎮圧に駆り出されたそうだ。
そもそも異能とは、その個人が持つ生気をエネルギー源として作用する力である。
大半の異能はそれを使い外界へ働きかける能力が大多数である。
例として、生気を石油に置き換えたとしよう。
石油製品において、ガソリン精製とプラスティック生成では原油の加工方法はまるで違う。
ガソリンならば蒸留する必要があるし、プラスティックならば高温加工になる。
それと同じで異能も魔力や霊術など最終的な使用系統によって生気が加工される種類が違うのだ。
その能力者が魔術を使うならば魔力を精製し霊術を使うなら霊力を精製することになる。
ところが、圭の異能はそれらとは違う特殊なものであった。
それは相手の異能の系統が何であれ、その生気と生気を変換したモノも吸い取とり、自身を強化すること。
だからこそ圭は、異能殺しとも言える異能を使い舞の魔力を吸収し強化して正面から挑んでいた。
それを繰り返して長期戦に持ち込み、魔力の枯渇を狙い大人しくさせる。
だが魔力の許容量が大型プールと紙コップほどの違いがあれば、そんな異能など無力である。
つまり舞が膨大な魔力を蓄えていることもそうだが、圭が一度に吸い取れる量にも限界がある。
当たり前だが無理をして大量に吸い取れば自身がパンクしてしまう。
最終的に圭は吸収した魔力を即座に放出。
これを繰り返して長期戦へ持ち込むことに成功した。
しかしこれが予想以上に長引き、二人の戦いは明け方にまで及ぶことになった。
ところが意外にも、この戦いは呆気ない形で終わりを迎えた。
圭が負傷覚悟で自分の限界以上の魔力を舞から奪い、舞の魔力を一時的に無力化した。
そのとき圭の後輩がパンを舞の口に押し込むと、大人しくなった。
……なってしまった。




