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世界は異能で溢れているが、それがどうした  作者: 猫も犬も猫目である
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貧乳に何か恨みでもあるの?

天使が逃げた後。

その場に残された悲惨な残骸を尻目に太陽は店先にいた生徒に謝罪をして逃げるように萌花と一緒に校門へ向かった。


そして天使を逃がした太陽は萌花の後ろに歩きながら、チラチラと様子を伺っていた。


「はぁ、さっきからうっとおしいけど何か言いことでもあるの?」

無言で歩いていると萌花が端的に尋ねる。

「あ、あぁその、さっきはどうして急に落ち着いたのかと思って」

「直球ね。もう少し遠回しにくるのかと思ってたわ」

「無い胸と一緒でストンと落ちるくらいのストレートがいいと思ったんだ」

「どうして貴方はそこまで貧乳を馬鹿にしないと気が済まないのかしらね」

萌花は目尻をつり上げ拳を握り締めたが、すぐにふっと力を抜いた。

そして呆れるように胸の前で腕組みをした。

「はぁ、とりあえず今は我慢しましょうか」

「そんなことしても無い胸は揺れないぞ」

「いい加減ド突きまわすわよ?」

「悪い。心の声が漏れたようだ」

「あくまで、冗談とは言わないのね」


手を出すかと思ったが、萌花は疲れたように再度ため息をついただけだった。

「あ~ぁ、やってらんないわね。アンタのせいで余計に疲れたじゃない……」


(さっきから矛先を俺に変えようとしてるのに、萌花のやつどうしたんだ?)

天使を逃がしてから明らかにテンションが下がっている。

落ち込んでいるとは違うけれど、いつものような元気がないというか、生気がなくなっているようだ。


げんなりとした萌花が目を細め、凄く面倒そうに言った。

「まったく。テンション落ちててダルイから、無駄な気力使わせないでよね」

「それって、さっき使った異能と関係あるのか?」

先ほどの天使に向けた萌花の〝異能〟

あれは素手で鉄串を高温に熱しているようだった。


萌花は太陽の質問に少し考える素振りをし、懐からゆっくりと先ほどの鉄串を取り出した。

「簡単に言うと、アタシは気持ちをエネルギーに変えられるのよ。

さっきのは怒りの熱を物に付属してたの」

そう言って手を振ると持っていた鉄串が手品のように消した。

「あらかじめ細工はしてるけどね。だから使えば反動でテンションが下がるのよ」

「テンションが下がったから、天使を見逃したのか?」

「一番の理由は冷静になって見たら、あの天使……おかしなところだらけだって気づいたからよ」

なるほど、とは思うがそもそも、

「冷静にならなくても最初からヘンテコの塊だったろうに」

「そうなんだけどね。それだけじゃないのよ」

妙に真剣な瞳で虚空を見上げた。

その顔はどこかに思いを馳せているのか、あるいはテンションが落ちてボーっとしているのか。

付き合いの浅い太陽には分からないが、きっと後者だろうと勝手に納得している。

「今は話すの面倒だから後日にしておいて」

それ以上話すつもりはないようなので、太陽はそうだなとだけ返した。

 

暫らくの間、どちらも喋ることなく沈黙が続いた。

いつものように騒ぐ萌花がこうも静かだと逆に辛いものがあるな。

凄くいたたまれない。

その沈黙が苦しく、それを破るため太陽は萌花の異能の話を再開させた。

「ところで萌花はテンションが低いと異能は使えないのか?」

「ん。使えることはできるけど、同じじゃなくなっちゃうのよ」

さっきの話で萌花の異能はテンションを使うということは分かった。

けれど今の状態では異なる。

つまりテンションや生気とは違うものを消費して異能を使うということだろう。

異能の中にある魔術や陰陽術などは自身の生気オドと呼ばれる精神力、魔力、神力、霊気などがある。

通常はそれらを媒体と呼ばれる道具を用いて超常的現象を起こす。


しかし萌花はそれらを消費して使った先ほどの発熱とはまた違う効果を持つ異能を使うと言う。

それら以外で自身にある体力や蓄えられているエネルギーを消費するらしい。


そう説明され、

「なるほど。萌花がそこまで落ち込むのもうなずけるな」

「なにがよ?」

(わず)かにある胸部の脂肪を使って、ますます悲しいことになるのか」

「ならないわよ!」

そう言った瞬間、萌花による全力の左フックが頬をかすめた。

「図星だからってそんなに怒らなくてもいいだろうが」

「アンタはどうしてそこまでアタシの胸にセクハラをするのかしらねぇ?」

テンションが低い状態で急に動いたからか、萌花はさっきよりもさらに肩を落とした。


そんなにダルイならしなければいいだろうに。

まぁ原因は俺だから口に出しては言わないけど。

「はぁ、しんどいんだから余計なことさせないでよね。まったく」

「セクハラだなんて誤解だ。俺はただ(かす)かにも揺れない、お前の胸を心配してだな――」

「心の底から大きなお世話よ!」

「それで、テンション低いときはどんな効果があるんだ?」

「絶対に教えないわよ! 今の流れで教えてもらえると思ってるの!?」

そう言われ、太陽は萌花の胸部を見ながら思ったことをポツリと呟いた。

「そうか。胸と同じで人間の器も小さいんだな」

「そろそろ本気で締め落すわよ?」


そして校門へ着くまでの間に、萌花は携帯を操作しタクシーを呼んでいた。

「いつもタクシーなんて使ってるのか?」

「まさか。今日みたいに極端に無気力な時くらいよ」

「テンション下がって、無気力になって疲れてるのか」

「そんなんじゃないわ。極端に何をするのにも億劫になるの。生理のときと似たようなものよ」

「異性に対してその説明は伝わらないと思うぞ」

「男もなればいいのに。……この世の全てを呪いたくなるわよ」

「これが逆セクハラか。初めての体験だな」

「男の初体験なんてどうでもいいわよ」

そうこう話している内にタクシーがやってきて、萌花は後部座席に乗り込んだ。

「そうだ。ねぇ、ちょっと来て」

萌花に手招きされ、途中まで乗せてくれるのかと思い太陽が乗り込もうと扉に手をかけた。

そのとき萌花が上半身だけ突きだし俺に迫ってくる。


突然のことで硬直していると、萌花は鉄串を握り絞め重くした右手を鳩尾に打ち込んだ。


「少しはすっきりした。じゃぁ、またね」

「てめぇ、それ絶対人に使っちゃいけない道具だろ……」

太陽はその場で膝を着き、萌花を乗せ去ってゆくタクシーをただ恨めがましく見送ることしかできなかった。


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