太陽と萌花
校門を出たところで萌花が足を止め、校舎を振り返った。
「さて、どこから探しましょうか」
「芹から来たメールの天使を見たって場所は?」
「……そ、それくらわかってたんだからね! アンタを試したまでさ!」
萌花はわたわたしながらポケットを漁りスマホを取り出して確認しだした。
それを見た太陽は冷めた表情で、
「ツッコミ所が多い反応してんじゃねぇよ」
何で必死に言い訳してるんだよ、テンプレのツンデレ台詞をリアルで聞ける日が来るとは思わなかったとか。人生って驚きの連続だな。
「と、とりあえず、目撃情報の多い所へ行ってみましょ」
「ここは敷地内だけでもだだっ広いから、移動が大変だ」
学園は規模も大きく、敷地内には六つの校舎がある。
二つの座学塔と実習塔。
そして食事塔、研究塔、部活塔と呼ばれる専用の校舎がある。
座学塔は言ってしまえばただの教室で、特筆することもない。
実習塔は異能の訓練や実践試験、他にも体を動かすことのできる施設や設備が揃っている。大きめの体育館のようなものがあり運動系の部活が使うことも多く、もっとも汗臭い区画だ。
食事塔は学生食堂だけでなく、料理関係の部が模擬店を出していたりもする。
世界各国からも人が集まるので、メニューの豊富さはもはやカオスと言っても過言ではない。
そんな食堂の、料理長の一押しメニューは〝ボノボとカエルの姿煮。柚とカボス風味~そして限りなくコラーゲンに似たナニカ入り~〟だ。
……ここの料理長は頭がオカシイと思うのは俺だけではないだろう。
研究塔は異能の実験や研究、開発など他にも異能の遺物が収集され保管されている。
代表的なのが世界各地のさまざまな魔術書や魔道書、聖書などの原書が数多く収められている大図書館。
曰く付きの品を集め封印されている倉庫。
噂では新生物の製造機や、未来の出来事が記されている物まであるとされている、いわく付きの場所だ。
俺達の部室がある部室塔。
ここは部室の集まりで、部活塔の周囲には運動部用の体育館や武道場がいくつかある。
余談だがクラスメイトに聞いた話で、探索部の部室がある端のエリアは魔窟なんて呼ばれているそうだ。
何でも変人奇人揃いの集団が押し込められた部の一角。
興味本位で足を踏み込めば、ただでは出られないとか……。
それらの中で、俺達は実習塔にある体育館の一つに来ていた。
通りかかったときに、萌花が聞き込みに行くと言い残し、一人で突貫して行った。
中ではハンドボール部が部活中。
それなのに萌花は気にせずズカズカと中に入って行き、部活中の女生徒に声をかけ談笑を始めていた。
「コミュ力凄なぁ…」
太陽は女子の中に入って行くのは躊躇し、入り口付近でそれを眺めてボーっとしていた。
そんな太陽の元へ萌花がやけに嬉しそうに戻って来た。
「可愛い子の連絡先ゲットしてきたわよ!」
「何しに行ってたんだよ!?」
「ん? そんなの決まってるじゃない」
萌花はビッと体育館にむけ指を指した。
「女の子の運動着姿のうなじや弾け飛ぶ艶めかしい汗をねっとり視姦しに来たに決まってるじゃない!」
「決まってねーよ! 真面目に探す気ゼロか!?」
「まったく、良い? これは人間の三大欲求だから仕方ないことなのよ? 睡眠や食事を取らないと生きていけないのと一緒」
「TPOを少しは考えろよ」
「しっかり考えてるわよ! 本当はすぐにでも連れ出したいとこだったけど我慢した」
無い胸を張る萌花の頭を叩きたくなるのをグッと我慢した。
さっきまで萌花が話していたのは遠目に見ても可愛い子だったが、それにしても少々行き過ぎた視線を感じる。
それは友人に向けるような親愛の眼差しではなかった。
ふと疑問が沸いた。
すぐに可愛い子を性的な目で見る萌花に、果たして同性の友達はいるのかということだ。
「なぁ、お前って友達っているのか?」
「恋人候補や襲いたくなる相手ならいるわよ」
キッパリと言い切った萌花の言葉は段々と熱を帯びている。
そして目を見開いてその続きを力説してくる。
けど萌花の顔が急に近づきドキドキして、その内容のほとんどが入ってこない。
だって言動はアレだがまつ毛が長く、肌も雪のように白くきめ細かい。
見た目は胸を除けば完璧だとは思う。
けれどこの状況はどうだろうか。
今にも涎をたらしそうになりながら可愛い子に何をしたいかと、目を爛々とさせながらはぁはぁ熱く語る女は気持ち悪いとしか言いようがない。
最初とは違うドキドキがして、心臓では無く胃が痛くなってくる。
「――で、あの子は可愛いんだから、いろんな野郎に妄想くらいされてるわよ。その中に女がいたって何も不自然じゃないわ」
「引くほどの変態発言だな」
「これがアタシの魂からの本音 よ!」
「なんでそんなに欲望をストレートに表現できるんだよ」
「それがアタシだからね」
「人と付き合っていくのに取り繕う必要は最低限いるだろ?」
「アタシの美貌にひがんで離れていくほうが人間として悪いのよ」
「ひがみだけじゃないと思うんだけど。人間性の問題だと……あぁ、だからボッチなのか」
「と、友達くらいいるわよ!」
「どこに?」
「乙女のヒ・ミ・ツ」
太陽は無言で萌花の頭をひっぱいた。
ポーズをつけて言う萌花にイラっとして手が出てしまったようだ。
我慢の限界だったのだろう。




