萌花のGW
「誰に向かって口きいてるんですかね。上級生には敬語を使いなさい」
舞は目にも止まらぬ横フックを放ち太陽の横っ腹に寸止めせたした。
それだけでレバーを貫くほどの衝撃が通り、太陽の口からぐべぼぉなんて言葉が漏れた。
痛みで机へ突っ伏すが、舞に頭を掴まれ、
「お返事は?」
と、実に朗らかな笑顔で詰められた。
あぁ、短期間で何度も殺気を感じる学園生活って、どうなんだよ。
「はい……すみません。ぶ、部長……」
息をするのも辛い状態だったが、命の危機を感じ反射的にそれだけを言うと、再び机に突っ伏した。
「じゃあ会議を進めます。圭、司会やってくださいね」
「おう。初参加の太陽もいるから最初から順を追って説明するぞ」
それと、と圭は咳払いして告げる。
「呼び方に関しては部の決まりってか、舞の独断で下の名前で呼び合うのが基本になってる。嫌なら命を賭けて抗議しろ」
こいつらが下の名前を無遠慮に呼ぶ理由がわかった。
この部において、暴君が絶対ルールらしい。
異議があるなら命をかけて抗議って……。
「まず、この部活の名前なんだが、探索部だ」
「探索部?」
「新しい場所や生物、珍しい物を探したりする部って感じだ。
発足時からの最大目標はムー大陸やユーマ、異世界を見つけること。らしい」
悪魔や妖怪、精霊なども存在は確認されているが、生物ではないと言われている。
それらは現象であり、自然現象や天災に近いものであるというのが今の世界の認識だ。
それらと違い生物は新しく進化し成長し繁殖するものである。現に今も世界中では虫や花、新しく発見された動物なども含め様々な新種が確認されているほどだ。
以外にも真面目な部活なのかもしれない。
「けれど、それらは建前で実際は探索と言う名目にかこつけて遊びに行ったり、不法侵入したりしてるだけだが気にするな」
なんてことはなかった。
まぁ、探索部ってネーミングの時点で薄々そんな気はしていたが……。
「今日はゴールデンウィークに見つけたものの報告だ」
そう言って圭は萌花と芹に視線を移す。
「とりあえず二人から発表してもらうか。萌花は何か見つけたか?」
話を振られた萌花は後頭部へ両手を回した。
目をつぶりんー、と唇を尖らせ、
「アタシはこれと言ってないのよねぇ」
なんてことを言った。
「珍しいってことじゃお前がいい例だしな」
「どういう意味よ?」
「珍獣って意味」
「アンタら2人とも後で体育館裏来なさい。丁寧なオハナシが必要そうだわ」
「そういうのは良いですから。何か無かったんですか?」
喧嘩に発展しそうな3人を抑え舞が話を促した。
「発見って言うほどの事じゃないけど疑問に思ったことはあるわね」
少し息をひそめ、実はと続ける。
「街をぶらぶらしてたら、毎日同じところで同じ人が『本日だけ全品三割引き』って言ってるのを発見したくらいよ。あれは本当に不思議だったわね」
あれは不思議だよな。
毎日のように言っているなら、割引きじゃない日はぼったくりの日なのだろうか。
誰も答えを知っている様子がないから、答がない疑問ではあるが。
「それとアシカを咥えたパンダが八百屋に追われていたのを見たくらいかしら」
「おい、話が異次元に飛んだ気がするのは俺だけか? それ絶対ウソだろ!」
「ごめんね太陽、ちょっと誤魔化した。アシカだったかオットセイだったかわかんないのよね」
「アシカやオットセイの違いは趾(足のつま先)や耳介(耳の形)の部分だよ。バカには難しいすぎるかな」
芹がフォローしてくれるが、
「そうなんだ~、って聞きたいのはそこじゃねぇよ!」
「じゃあどこよ?」
「パンダがアシカ咥えて八百屋に追いかけられたって下りからだよ」
そんなことが起きてたらちょっとしたニュースになっていそうだ。
対する萌花は、何事もなかったようにうんうんと何度も頷いている。
「そうよね。八百屋だったか酒屋だったか、はたまた魚屋だったのか」
「前掛けに帽子にって同じような恰好だとは思うけどな。なんだよその異常な光景は!」
それらの業種ってバンダナと前掛けって印象が強いし、パッと見、何を持っているかの違いしかわからん。
シチュエーションがぶっ飛び過ぎてる。
街中で起こった発見なんて騒ぎじゃねーぞ。
「最後はマグロに乗って気球をさばいてたわね」
「だからどこの異次元だ!」
「映画だけど? 強いて言うなら二次元かしら」
「映画かよ……作った奴の頭を疑いたくなるような作品だな」
最初に映画の話って言わなきゃわけわかんねぇって。
作品を観に行ってる萌花もどうかと思うが、上映している映画館の存在が発見ってことなのだろうか。
俺が息を整えていると芹が横から声をかけてきた。
「太陽、さっきから五月蠅い。もしかして高血圧?」
「ほ、萌花の話の内容が突飛すぎて混乱してきたのは確かだな」
「エセ萌女の言うことは、基本的に流して聞くほうがいい」
芹の的確すぎるアドバイス。
それに萌花は帰国子女って言ってたから、日本語を伝えきるのが苦手なだけかもしれない。
それか頭がアレな感じなだけかもしれない……言ったら後が怖いから何も言わないでおく。
「落ち着ける飲み物でも飲みますか?」
スッと舞がガラス瓶に入った真っ黒な液体を机の上に出し、奨めてきた。
言い方からして飲み物なんだろうが、嫌な予感しかしない。
だって匂いからして飲み物と言うよりは、
「部長、それってなんですか?」
「お醤油ですよ。落ち着くにはこれを飲むと良いって」
「……部長、醤油を〝飲む〟のカテゴリーに入れないでくれませんかね」
「え? だって前に、圭が醤油でも飲んで落ち着けって渡してきましたよ?」
「……それ、暗に死ねってことじゃ」
きっと醤油を渡したときの圭は、青筋を立てて笑顔で醤油入りのコップを渡したんだろう。
その表情を鮮明に想像できてしまう。
「どゆことです?」
意味がわからないという顔で、舞は小首を傾げている。
仕草は愛くるしいが、今の俺にそれを堪能する余裕はない。
そんな素直な瞳を直視できず、明後日の方向へ視線を泳がせ、しどろもどろに説明した。
「えっと、つまりですね。致死量の塩分取って永遠に静かにしてろって、ことなんじゃ……ないかなぁ、なんて」
「ジョッキ一杯渡されて一気飲みしたんですけど……」
そこで会話がなくなり、妙な緊張感が漂う。
さっきまではとは、また違う緊張で凍えるほど寒いのに、すっげぇ汗が出てくる。
「あれでも死なないって凄いよな」
「ちょっと、圭! 死んじゃうかもって知ってて渡したんですか!?」
あっけらかんと言う圭に舞は詰め寄るが、
「三日間一睡もさせず、ぶっ続けで遊びを強要させられたら殺意くらい湧くぞ!」
圭は圭で悪びれることなく言い返す。
そして本気で舞を殺しにかかってた!?
それで何で一緒の部活なんてやってんだ、この二人!
「まぁ、特に問題なかったから良いですけど」
舞は圭の殺意に関してあまり気にかけないようだ。
器がでかいのか、本当にどうでもいいことだったの判断はしないでおこう。
「まぁいい。えーと次は芹。連休に何かあったか?」




