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虹を超えて  作者: 夜宮
第一章 出逢い
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04 官吏候補とのランチ

 エリーゼと私は時間が経過するにしたがってだんだんと親密さも増してきて、都合上ただ一緒にいるというだけではなく、本物の友達に近づいていっているようだった。


 あまり細かいことは気にせずざっくばらんな態度のエリーゼは一緒にいて楽しい人だし、真面目で信頼がおける人だからこれからもずっと付き合っていければいいと思うようになっていた。


 エリーゼのほうもそう感じてくれていたのか学院生活にも慣れてきたある日の昼食時に一人の男性を紹介された。


「彼は男爵家の次男で官吏になるための勉強をしているの」


 親同士の親交が深かった二人は、年は二つほど違うものの幼い頃からの知り合いだそうだ。


 まだ正式な婚約こそ交わしていないが本人達の気持は既に固まっており、エリーゼの成人を待って婚約し、結婚するつもりでいるのだという。


「タイラー=ベネットです」


「ニコール=ロートレックですわ」


 私達はエリーゼに紹介されて握手をした。


 赤毛に緑の目をした可愛らしいエリーゼと、ひょろりと背が高く茶色の髪と琥珀色の目をした優し気な雰囲気の整った容姿をしたタイラーはとてもお似合いのカップルだと思った。


「せっかく学院に入ったのに、タイラーは来年には卒業するから一年しかこんなふうに過ごせないの、とても残念だわ」


「だけどこれまでよりは会えるようになったじゃないか。まだこれから一年あるんだし、卒業してからだって、仕事が忙しくはあるだろうけれど休日なんかは一緒に出かけられるよ」


 私と同じように入学までは領地にいたエリーゼは、王都で官吏のための学校に通っていたタイラーとはこの二年間長期休暇などの機会以外は思うように会えなかったのだという。


 タイラーはエリーゼが爵位を継ぐまで何もなければ官吏として働くつもりでいるため、卒業しても王都に残る予定だから当面の間はこれまでのように離ればなれにならずにすむことが二人とも嬉しくてしかたないみたいだった。

 

 今は二人にとっては念願だった夢のような時間を過ごしている最中なのだ。なんだか当てられてしまって目のやり場にこまってしまう。


「ニコール、それでね、よければ今度タイラーの友人と一緒にお昼をどうかって言われているんだけど、ニコールも一緒にどうかしら? 私一人だけだと緊張しちゃいそうだし」


「ええ、是非仲間に入れてほしいわ」


 わー、早速こんな機会が巡ってきて嬉しい。

 だが、少し気後れするところもあった。


 人脈を築きたいと意気込んではいるものの、実際に私に上手くできるかどうかはまだよくわからないでいたからだ。


 同じ年頃の見ず知らずの男性との交流とはどんなものだろう。仲良くなれるだろうか。そもそも共通の話題をみつけられるかもわからない。上手く会話を続けられるか心配だ。


 だが、自分とは違った環境にいる人たちと知り合いになれるのは嬉しいし、大切な事で必要な経験だ。


 タイラーは穏やかで真面目そうな人だからその友人もきっと悪い人ではないだろう。最初に接するのがそう思える人たちであるのは良いことだ。


 できれば女性がいればいいのだけれど、もし同じ学校に女性の知り合いがいてもタイラーがエリーゼの前に他の女性を連れてくるはずはないだろうからそこは残念かもしれない。


 官吏の学校は三年制だから既に二年間学んでいるはずの、順調にいけば来年には王宮で働くことになるだろう年上の女性と話をしてみたいとは思うけれどそう上手くはいかないよね。


「ねえ、ニコールは婚約者とか誰かお付き合いしている方とかいないの?」


「残念ながら私にはそういう方はいないわ」


 興味津々という顔で聞いてくるエリーゼに首を振って答える。


「じゃあ、僕の友人達にもチャンスはあるかな?」


「それいいわね! そうしたら四人で一緒に遊びに行ったりできるじゃない?」


 タイラーが言うには、彼のように決まった女性と付き合いをしているような友人は今のところいないので仲間が欲しいとのこと。エリーゼは純粋にそうなってくれれば楽しそうじゃない? と続けた。


「ごめんなさい。今はまだそういうことは考えていないの。社交界にでてから考えても遅くはないかなって」


 私の言葉にエリーゼが頷いた。


「それもそうねぇ。社交界に出れば百戦錬磨みたいな素敵な大人の男性もいることだろうし焦ることはないかも……あ、あら、でも、悠長に構えていたら、素敵な人は皆いなくなってしまうかもよ? 私はとっても運がよかったわ。だって幼い頃に既に最高の人に巡り合ったのだもの」


 前半の言葉に反応したタイラーと、それに気が付いて発言を修正したエリーゼ。


 きっと後でこの発言を巡って恋人たちの間では甘いやりとりが交わされるんだろうなと思いながら「そうね」と無難に返しておいた。


 確かに、これぞと思う男性に出会えばそれを逃す手はないとは思う。


 でも、とりあえず今のところは急いでどうにかしようという気持ちはないし、実際には私の結婚相手を自分の好き嫌いだけで選べるものなのか疑問はあった。


 両親は多分に政略的意味合いを持つ結婚だったと聞いている。


 できれば気の合う人と結婚したいとは思うし、政略結婚でないほうがなんとなく面倒なことも少ないのではないかと思うが、政略結婚にも意味があるからやってる人が未だにいるのだろうし、本当のところ今の私にはこういったことを真剣に考える準備すらできていないようなものだというのが正直な気持ちだった。


 恋というものをしたことのない私にとって今はまだ、目の前で見つめあう二人の間にあるものがとても得難いもののようで羨ましくはあるものの、どこか遠いところにある、自分とは関係ないもののように思う気持ちのほうが大きかった。


 それよりも、タイラーの友人たちとの交流を通してとりあえず男性という存在に慣れることができればいいなあとそんなことを考えていた。

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