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38 再会

 ビフレアドとクイバイラは国境の平野に陣を構えている。

 互いに数万の軍勢が色とりどりの天幕を張っている様は壮観だ。


「……」


 敵国の陣を丘の上から見渡していた女王プラティネスは自らの体を手で包む。

 この戦争に負ければ国は滅びてしまうかもしれない。

 自分の采配一つに多くの人の命がかかっている。

 そう思うと怖くて体が震えるのだった。

 髪と同じ水色の瞳も不安げに揺れている。


 こんな時ムスキルがいてくれたら、と思う。


 かつては、いつも隣にムスキルがいて、プラティネスが不安そうな顔をしていると、決まって「大丈夫」と自信満々に言ってくれた。

 その言葉を聞くと不思議と不安が消えた。


 でもムスキルはプラティネスの父親が死んだ時にいなくなってしまった。


 始めはムスキルはこの国を見捨て逃げたのかもしれないと思った。

 でもすぐに、国のいたる所で魔物を倒しているムスキルらしき人がいると聞いて、考えを改めた。


 ムスキルは責任感が強い。

 前回の戦争で負けた時、心底申し訳なさそうにしていた。

 子供の時もそうだった。

 きっと約束したのに王を守れなかった自分を許せなかったのだろう。

 だから約束を守れる騎士になるために旅に出たのだとプラティネスは考えた。


 ならば、いずれムスキルが帰ってくる時まで王国を存続させなければいけない。

 そう思うと、父が死にムスキルがいなくなり、魔物が溢れるという絶望的な状況でも気力が湧いた。

 そしてプラティネスは父の跡を継ぎ、母親や側近の手を借りながら懸命に魔物と戦った。

 自ら何度も前線で戦い、なんとか人魔大戦を乗り切った。


 けれども、また王国は危機に陥っている。

 敵は王とムスキルがいても勝てなかった相手だ。

 勇者へ手助けしてくれるようにと使者を遣わしているが、来てくれるか分からない。

 仮に請け負ってくれたとしても間に合うかも分からない。

 もし来なかったら自分たちだけでなんとかしなくてはならない。

 私なんかが勝てるのだろうかとプラティネスは不安になる。


 国が滅びてしまえば、いくら強くなっても意味がないのよ。

 どこにいるのムスキル。


 プラティネスは来るはずもない幼馴染みの騎士に一筋の希望を求める。


 その時、辺りが騒がしくなった。

 何があったのかと振り向くプラティネス。

 すると天幕の陰から人が現れた。

 プラティネスは大きく目を見開く。

 現れたのはムスキルだった。


 兵士に案内されてウスコやゼノ、アウレ、キーラがプラティネスの所へやってきた。

 その先頭にムスキルがいた。

 プラティネスは夢でも見ているのかと思った。

 けれども涙はとめどもなく流れる。


「ムスキル……!」


 無意識にムスキルの方へ足が動く。


「……ごめん……ごめん」


 ムスキルも涙を流してプラティネスに近付く。


「どこにいってたのよ。大変だったのよ」


 プラティネスはムスキルの胸に抱きついて涙を流す。


「ごめん……」


「謝らなくていいわ、帰ってきてくれたんだから。強くなったのでしょう?」


「いや、まだまだ弱いんだ。でも……」


「それでもいいわ。側にいてくれるだけで私は……」


 側にいて大丈夫だと言ってくれるだけで私は強くなれるから、と思うプラティネスはムスキルの胸に体を預ける。

 ムスキルの鼓動を聞いていると、先程までの不安が消えていく。


 ムスキルは体重を預けてくるプラティネスを見ながら思う。

 こんなにも信頼されていたのかと。


 ムスキルは一番大変な時に逃げ出した裏切り者だ。

 プラティネスの父親も守れなかった。

 それなのに彼女は戻ってきてくれると信じてくれていた。

 ウスコにしたってそうだ。

 恨み言の一つくらい言ったっておかしくないのに、何も文句を言わず、ムスキルを受け入れた。

 彼らはずっとムスキルを信じてくれていた。

 そのことをムスキルは今、身に染みて分かった。

 正直まだまだ弱くて自信はない。

 それでも皆の信頼を裏切りたくないと思った。


 だから、もう決して逃げない。

 生涯を通してプラティネスに仕え、この国を守る。

 今度こそ、今度こそは信頼に応える。

 絶対に勝つ。


 ムスキルは心に誓った。


 その後ムスキルやゼノ、ウスコを加えて軍議が開かれ、作戦が練られた。

 それから食事をして人々は眠った。


 そして翌日、戦が始まる。

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