23 アウレの休日
クルタリの町を出て新しい町に着いた時には、もう日が暮れそうだったので、ゼノたちは宿を取って泊まった。
翌日早朝。
「今日はどうしますか?」
宿の中庭で顔を洗いながら、アウレが今日の予定を聞いた。
「今日は休みにしようと思う」
ゼノが言う。
「怪我もすっかり治って、調子もすこぶるいいから、昼寝したいんだ」
「? 前後の文が繋がってないですよ?」
「分かってないなあアウレは」
チッチッチッと舌を鳴らすゼノ。
「たしかにどんな調子でも昼寝はできる。でもベストな日差し、ベストなコンディション、ベストな草原で昼寝をすることにより、最高の幸福を味わえるんだよ」
得意気に語るゼノ。
「アウレも一緒に昼寝するかい?」
「いや、いいです」
「ムスキルは?」
近くにいたムスキルにも聞く。
「遠慮します」
「そうか。じゃあ一人で楽しむよ。じゃあね」
ゼノは昼寝をしに、町の外の草原へ出掛けた。
「今日は自由か……ならダンジョンにでも潜ろう」
ムスキルも一人でダンジョンに向かった。
「二人とも行っちゃいましたね……。うーん、どうしましょう」
アウレは悩む。
「まあいいや。今日は訓練休みです。観光でもしちゃいましょう」
アウレはパパッと身支度を整えて、新しい町の観光に出掛けた。
「フフッ、一人で観光なんて昔では考えられないことです」
上機嫌なアウレは町の景観に目を楽しませ、露店のリンゴを食べたりした。
また酒瓶を避けたり、新しい服を買ったりした。
そうして歩いていると、曲がり角から飛び出してきた子供にぶつかった。
5、6歳の子でフードを被っていた。
「ご、ごめんなさい……」
謝りながら、子供は足早に去っていく。
「こっちこそごめん――――あっ!」
アウレは気付いた。
自分がお金を入れていた小袋を、子供が手に持っていることに。
気付かれた子供は走り出した。
「あっ、待ちなさい!」
アウレも走り出す。
子供は路地裏に逃げ込む。
狭い道を器用に抜けていく子供。
けれどもアウレはゼノと特訓して、身のこなしを身に付けているので、すいすい進む。
「捕まえた!」
アウレは子供の腕を掴み、振り向かせる。
その拍子に子供のフードが取れた。
子供は魔無しの男の子だった。
「君も……」
アウレは驚いて、思わず男の子を掴む手を緩めた。
その時、
「ボサッとしてんな! のろま!」
建物からこれまた子供が飛び降りてきて、アウレの後頭部をおもいっきり蹴った。
「痛っ!」
衝撃で前のめりにこけるアウレ。
「さっさと逃げるぞ!」
赤髪の少年は魔無しの少年を抱き抱えて走り出した。
魔力を纏っていて、とても速かった。
「お金を返しなさい!」
アウレも追っていく。
しかし少年は身軽に建物の上を跳んで逃げるので、道を走るアウレじゃ追い付けなかった。
やがてアウレは少年を見失った。
「ふぅ、ここまで来れば大丈夫だろ……」
アウレを撒いたと思って、路地裏で一息つく赤髪の少年。
「残念でした!」
そこに現れるアウレ。
「なんで……!!」
驚く少年二人。
「さてどうしてでしょう? お金返してくれたら教えてあげてもいいよ?」
得意気に話すアウレ。
といっても特別なことをしたわけじゃない。
ただ少年の魔力を辿ってきただけだ。
「うるせえ! これは俺らのだ!」
赤髪の少年はアウレに殴りかかる。
それを造作もなく受け流したアウレは、少年の手首を掴みながら、少年の後ろに回った。
そして関節を極めながら、地面に押し倒す。
少年は呻き声を上げる。
アウレは小袋を取り返す。
「もうこんなことしたら駄目だよ!」
「じゃあどうしろっていうんだよ!? 俺らみたいなのを雇ってくれるとこなんてないんだ! 死ねっていうのかよ!?」
赤髪の少年はアウレに押さえつけられながら叫んだ。
「それは……」
アウレは言葉に詰まり、押さえつけている手の力を緩める。
「分かったら寄越せ!」
少年は起き上がり、アウレからお金の入った小袋を奪い取った。
「それは駄目だよ!」
取り返すアウレ。
「じゃあ死ねっていうのかよ!?」
奪い返す少年。
「それは……」
言葉に詰まるアウレ。
堂々巡りだった。
「よし、分かった! 私が強くなる方法を教えてあげる」
「は?」
「強くなれば冒険者として生きていけるでしょ?」
「俺はできても、こいつは無理だろ」
赤髪の少年は魔無しの少年の方を指し示す。
「あんたも魔無しなら分かるだろ」
少年は冷めた目でアウレを見上げる。
「大丈夫。誰でも強くなれる方法だから」
「……見ず知らずの奴を信じられるかよ」
「信じなくてもいいよ。ただ話を聞いてみない? 君たちよく見たら痣とかあるし、このままじゃ、いつか死んじゃうよ?」
アウレは屈んで、少年と目線を合わしながら言った。
「……分かった。話だけは聞いてやるよ」
赤髪の少年は偉そうに言った。
「ありがとう。私はアウレ。よろしくね」
アウレは手を差し出した。
「馴れ合う気はねえよ」
赤髪の少年はアウレの手をはたき落とした。
「名前くらいは教えてくれてもいいんじゃない?」
「……ティペラだ」
赤髪の少年はしぶしぶと言った様子で答えた。
「君は?」
アウレは魔無しの少年に聞いた。
「……スール」
魔無しの少年はか細い声で答えた。
「よろしく」
アウレは手を差し出した。
スールは迷いながらも、アウレの手を握った。
「ふふっ、よろしくね」
アウレはかわいいなあと思いながら、笑顔で握り返した。
おい!とスールに怒っているティペラの声は無視した。
その後アウレは魔石を取り出し、ゼノに教えてもらったことをティペラとスールに教えた。
「そんなことで本当に強くなれるのか?」
ティペラは怪訝な顔をする。
「聞いただけじゃ分からないよね。見せてあげる」
アウレは二人を連れてダンジョンに向かった。
そして初めてゼノとダンジョンに潜った時のことを思い出しながら、スライムやカエルの魔物を倒していった。
さすがに二人を守りながらボスを倒すのは無理だが、十階層までは難なく攻略した。
「……ほんとに強いんだな」
町に戻ったところでティペラが言った。
「見直した?」
「別に」
「素直じゃないんだから」
アウレは微笑む。
「教えてくれて……ありがとう……」
スールがアウレの裾を引っ張りながら言った。
「別にいいよ」
アウレはスールの頭を撫でた。
それから、
「君はお礼言わないの?」
ティペラに言った。
「いらないんじゃないのかよ!?」
「そうだったね。じゃあね!」
アウレは手を上げて二人と別れる。
「……感謝してはいるよ」
ティペラはそっぽを向いて言う。
頬は赤くなっていた。
「ふふっ、かわいいね」
照れ隠しするティペラがかわいくてアウレは思わず笑った。
「はあ!?」
ティペラは赤くなりながら叫んだ。
「冗談だよ。じゃあね。頑張って強くなってね!」
アウレは手を振りながら二人と別れた。
「うん」
スールは静かに頷きながら、控えめに手を振っていた。
「うっせえ!早く行け!」
ティペラは怒りながらアウレを見送った。
その後アウレが宿屋に帰ってくると、ちょうどゼノも戻ってきたところだった。
「何か良いことあった?」
アウレを見たゼノが声を掛けた。
「分かります?」
「うん、嬉しそうだもん。何があったの?」
「それはですね、今日、私も先生みたいに――――」
アウレは今日あったことを嬉しそうに話し始めた。




