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§042 厄災司教

「騎士クラウン。これは一体どういうことですか」


 突如、空から舞い降りるように現れた少女。

 雪のように白い少女は水色の双眸を煤まみれのクラウンに向けて静かに問う。


「私は創造の六天魔導士オラシオン・ディオスは足止めをするのが精一杯ゆえ、迅速にレリア・シルメリア様をお連れするように命じていたはずですが」


 微かに口角を上げ、薄ら笑みを浮かべた少女。

 表情こそ穏やかなものだが、返答次第ではこの場が地獄に変わる。

 そう思わせるほどに彼女の言葉は静謐ながらも、有無を言わせぬ重圧を含んでいた。


「ひょ、氷禍様……」


 あまりにとっさのことにクラウンですら言葉を即座に継げないでいた。

 そんなクラウンを見て、氷禍と呼ばれた少女は目を細めて、小首を傾げてみせる。


「難しいことは聞いてないはずですよ。それに私は貴方を責めているわけではありません。さあ……全てを話し、そして懴悔なさい。騎士クラウン。貴方にはその義務があります」


 丁寧ながらも威圧的なその言葉にクラウンは口の端を震わせながら、恭順なまでに膝をついた。


 俺はその光景に唖然とする。

 結果的に会心の一撃を与えることに成功したとは言え、先ほどまで圧倒的な力を見せつけてきたクラウン。

 そのクラウンを跪かせるほどの力をこの少女は持っているのだと。


 クラウンは自分のことを『厄災司教氷禍・専属護衛騎士』と名乗った。


 ということはこの少女が……厄災司教の『氷禍』?


 当時の厄災司教の生き残り? それにしては若すぎる。

 氷禍と呼ばれた少女の年齢はおそらく俺とそう変わらないだろう。

 そうなると、創世教の復活に合わせて新たに据え置かれた厄災司教ということになる。

 いずれにせよ『厄災司教』という存在が俺達にとってプラスでないことはわかる。


 ただ、俺がどうこうするにはさすがに荷が重すぎる。

 この少女から放たれる雰囲気はまさにシルフォリア様級。


 俺は判断を迫られる。

 『常闇の手枷』が存在する以上、俺とレリアは離れられない。

 仮に戦うという選択を取る場合は必然的にレリアを巻き込むことになる。

 レリアだけを逃すという選択肢がない以上、今この瞬間に逃げるべきではないのか。


 それにさっきこの氷禍と呼ばれた少女は「創造の六天魔導士オラシオン・ディオス」と口にした。

 それはおそらくシルフォリア様のことだ。

 ということは、この少女は既にシルフォリア様と会敵している。

 その上でこの場に赴いているのだ。


 そうなると……シルフォリア様は今、一体どこに……。


「その少年の魔法に苦戦を強いられました。展開速度が異常に速い『魔法陣』で、詠唱による魔法展開が間に合わない状況です。魔法属性は『火』。なお、レリア様の魔法の発動は確認できておりません」


「……魔法陣ですか」


 静謐な双眸が俺に向けられる。


「また、上級魔道具『常闇の手枷』を少年が所有していた模様。その効果により少年とレリア様を寸断できませんでした。それも苦戦の一因となっております」


 そう具申するクラウン。

 同時に少女の視線が効果発動により顕現状態となっていた『常闇の手枷』へと降りてくる。


「……それがどうして苦戦の一因となるのですか?」


「へっ?」


「そんなもの、その少年の手を切り落としてしまえばいいだけの話ではないでしょうか」


 精巧な笑みを浮かべながら、淡々と言葉を紡ぐ少女。


 俺はその言葉……その表情……その雰囲気にゾッと寒気を感じた。

 ……なんでこの女は表情一つ変えずにそんなことを平気で口にできるのだ。


 動機が激しくなり、冷や汗が額に滲むのがわかる。


 俺はこの瞬間、決断した。

 この場から逃げることを。


 そっとレリアに手を添えると、一歩後ずさる。

 あの少女が次に数刻でも目を離した瞬間、(アドバンスド)・|陽炎の如く立ち昇る火のヒートオブストラクションを展開して一気に森を駆ける。

 そんなビジョンを頭の中で描く。


 固唾を飲んで好機を窺う俺の頬に、何か冷たいものが当たった。


「――?」


 気付いたら森には雪が降りだしていた。


「……雪が降り始めましたね」


 それを愛おしげに見上げていた少女は、まるで何かを思い出したようにこちらに向き直る。

 そして、ゆっくりとレリアに視線を向けると、慇懃なまでに頭を垂れた。


「申し遅れました。創世の聖女、レリア・シルメリア様。私は新・創世教――厄災司教『氷禍』――シエラ・スノエリゼ――でございます。本日はレリア様を我が教団にお連れするために参りました。ここからは騎士クラウンに代わり、私が直々にお相手をさせていただきます――全ては世界奉還のために」



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