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§020 一次試験②

「レリア! この調子でバンバン魔法を使っていくぞ!」

「はい!」


 俺の決意表明とともに、レリアの熱のこもった声が学内闘技場に木霊する。

 しかし、騒いでいるのは俺達だけで、相手のペアはもちろんのこと、試合を観戦していた生徒、試験官すらも唖然としているのが見て取れた。


 でも、それも当然と言えば当然の反応かもしれない。

 『詠唱魔法』が主流のこの世界で、俺が使用した魔法は『魔法陣』。

 『魔法陣』の存在に疎い者からすれば、俺が()()()で魔法を発動したように見えているはずだ。


「き、貴様ぁぁあ! い、いったい何をしたっ!」


 それを証拠に、ユリウスは何が起きたのかわからずに喚き散らすように声を張り上げる。


「……何って魔法で矢を相殺しただけだけど」


 俺は事実を淡々と伝える。


「魔法……? そんなわけあるかっ! 無詠唱であんな二つもの魔法を展開できるわけがないだろうが。ボルビア侯爵家の嫡男であるオレ様を侮辱しやがって。絶対に後悔させてやるっ!」


 そう言うと、今度は先ほど一本だった矢を三本顕現させると、それを指に挟み込んで弓を構える。


「二つの魔法を同時に発動しようが、三つの矢なら防げないだろう」


「揺蕩う光よ、煌めく一閃となりて闇を打ち滅ぼせ――光の蒼穹(シャイニングアロー)三射乱舞トリプルバレット


 三本の矢が勢いよく射出される。

 それと同時に俺も三つの魔法陣を描く。

 今度は中級魔法を三つだ。


(アドバンスド)陽炎の(ヒート)如く立ち昇る火の壁(オブストラクション)!!」

(アドバンスド)陽炎の(ヒート)如く立ち昇る火の壁(オブストラクション)!!」

(アドバンスド)陽炎の(ヒート)如く立ち昇る火の壁(オブストラクション)!!」


(バチンッ!!)

(バチンッ!!)

(バチンッ!!)


 連続する衝撃音とともに、三本の矢はまたしても炎の壁の前に藻屑となって消えた。


「そ、そんな……」


 ユリウスは貴族。それも侯爵家の人間だ。

 魔法の腕にはそれなりに自信があったのだろう。

 光となって消えた矢を目で追いつつ、唖然とした表情を浮かべる。

 しかし、すぐさま後ろのアイリスの方に向き直ると、大声で叫ぶ。


「おい! 何をボサっと突っ立ってやがる! お前も早く魔法を撃て」


「えぇ……でもわたしは補助魔法の専門で……攻撃魔法は……」


「あん? 言うことが聞かないのかっ! 侯爵家のオレ様がこんなところで負けるわけにはいかないんだっ!」


「……そ、そんな。だってさっきユリウス様は後ろに立ってればいいって」


「うるさいっ! オレ様に口答えするな!」


(ドンッ!)

「きゃっ!」


 ユリウスはアイリスの言葉に激高し、彼女の下へ詰め寄ると、アイリスの身体を突き飛ばした。

 小柄で華奢なアイリスの身体。

 男の腕力には抗う術はなく、小さな悲鳴を上げながら倒れこむアイリス。


「おいっ! お前!」

「ひどい! あんまりです!」


 俺とレリアはユリウスの目に余る態度に思わず声を上げてしまう。

 そんな俺達の言葉に ユリウスは不機嫌そうにこちらを向き直ると、キッと鋭い眼光で睨みを利かせてくる。


「あー鬱陶しい。平民に身分の違いを教えてやっただけだ。それに何の文句がある」


 更に続ける。


「貴様らだって同罪だぞ。オレ様は侯爵家の人間だ。それを平民の分際で歯向かいやがって。さっきは油断したが、今度はオレの最上級魔法をもって、生まれた瞬間から次元が違うことを思い知らせてやるよ」


 そこまで言うと、ユリウスは左手に持っていた弓を消失させ、両の腕を尊大に広げると、新たなる詠唱を開始する。


「揺蕩う光よ、()()()()()となりて、()()()()()()()()()闇を打ち滅ぼせ――光の洋弓銃シャイニング・クォレル装填準備ロードアクション――」


 その瞬間、ユリウスの前には大きな弓の造型が顕現した。

 それはまるで白銀に輝く翼のような形状をしており、弓というよりはクロスボウに近い。

 鳥がそらに舞うように漂うそれを、ユリウスはしかと受け止め、こちらに照準を合わせる。


 装填されたのはもりほどの大きさがある矢。

 一矢いっしというのは適切ではなく、一発とか一弾と表現する方がいいだろう。

 おそらくは光の蒼穹(シャイニングアロー)よりも一段階ほど上級の光魔法。


 俺はゴクリと息を呑む。


「オレは絶対に負けない。負けてはいけないんだ。邪魔するなよ、平民風情がぁぁぁぁああ…………………………………………………………………発射ファイアっ!!」


「アンド…………再装填リロード…………アンド…………発射ファイアっ!!」


 ドンっとまるで大砲でも射出したかのような轟音とともに、二つのもりがこちらに真っすぐと向かってくる。


「ふははは。今の俺の魔力では二発が限界だが、お前の壁魔法じゃ防ぎようがないだろう。何枚壁を作ろうとも貫いてしまえば終わりだからなー!」


 確かにそのとおりだ。

 ここで俺は選択に迫られ、真っ向からの魔法戦を選んだ。

 俺が今、一番自信のある魔法で対抗しようと。


 そう俺が唯一使える上級魔法――『深紅の閃光(レッド・インパルス)』。

 レリアを助けたときに成功した魔法だ。

 この魔法ならユリウスのもりにも対抗できるだろう。

 発動速度なら俺の【速記術】に利がある。


 そっちが二つなら俺は()()発動すればいい。

 俺は二本の指をこちらに向かってくるもりに差し向けて唱える。


「――深紅の閃光(レッド・インパルス)――」

「――深紅の閃光(レッド・インパルス)――」

「――深紅の閃光(レッド・インパルス)――」


 コンマ1秒後、俺の前方に深紅の魔法陣が顕現し、合計で三つの紅蓮弾が超高速で射出された。


(ドゴーンッ!)


 そして、数刻後、ユリウスのもりと俺の紅蓮弾が激しく衝突する。

 激しく粉塵が舞い飛び、視界が一瞬遮断された。

 それと同時にドゴーンという更に大きな衝撃音が聞こえた。


「な、なんだこれ……オレの魔法が……負けた……」


 噴煙が晴れた先には以前にも見たような光景。


 三つ放った『深紅レッド閃光インパルス』のうち、二つはユリウスのもりと相殺し合い、残りの一つがユリウスの少し横をかすめたようだ。

 それを証拠に、俺の魔法の軌道に沿って地面が大きく抉られて轍が形成され、相手ペアの遥か後方にあたる学内闘技場の壁面には大きな穴が空いていた。


 これは一瞬のうちに多数の魔法を発動できるという【速記術】を活かした手数の勝利ともいえるものだった。


 ユリウスは自分の最上級魔法が打破されたからか、はたまた真横を超高速で通過した紅蓮弾に恐れ慄いたのかはわからないが、がっくりと肩を落とし、そのまま地面に膝をついた。

 もうその表情には先ほどまで満ち溢れていた自信は無く、完全に戦意喪失をしているようだった。


 その後、ユリウス及びアイリスに対して試験官から戦意の確認が行われる。

 ユリウスは茫然と頷くだけ。

 アイリスも涙目で首をぶるぶると横に振った。


 こうして俺達は無事に一次試験を『勝利』で締めくくることができた。



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