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§016 入学試験

「我が国最高峰の魔導学園の門戸をくぐった才能溢れる若き魔導士達よ。我が魔導学園は難関であることは有名な話だが、決して気負うことはない。日頃の鍛錬の成果を存分に発揮してくれたまえ」


 四方を校舎で囲われた中庭。

 その一辺の渡り廊下から俺達を見下ろすように偉そうな人の月並みな挨拶が続く。


 俺はそんな挨拶を適当に聞き流しつつ、この後に行われる入学試験について考えていた。

 レリアに聞いている情報によると、例年は『筆記試験』と『実技試験』の二種類が行われているようだ。

 『筆記試験』とは、文字通り、魔法の知識を問うもの。

 『実技試験』とは、一定の課題が与えられ、それを自身の得意とする魔法で対応するというものらしい。


 魔法の知識については、レヴィストロース家での勉強の成果もあり、それなりに自信はあった。

 ただ、実技試験については正直なところ全く自信がない。

 俺は魔法が使えるようになって早々に家を追放されているので、実践的な知識は持ち合わせていないのだ。

 それに俺がいま最も自信のある魔法となると『魔法陣』ということになる。

 しかし、『魔法陣』は時代遅れの魔法と評価される可能性が高いため、どうしたものかと頭を悩ませていた。


「えーそれでは、本学園の学園長であるシルフォリア・ローゼンクロイツ様からも一言頂戴しようと思います」


 俺はその言葉にハッと顔を上げる。

 同時に会場でもどよめきが起こった。


 シルフォリア・ローゼンクロイツ。

 俺達の目標であり頂点の登場だ。


 俺やレリアは先日の邂逅があるために皆よりは驚きが少ないことは確かだが、シルフォリア様との約束もあるし、何よりも六天魔導士オラシオン・ディオスからありがたいお言葉を頂けるというのは身の引き締まる思いだ。


 係官に案内されてシルフォリア様が高台へと昇る。

 その瞬間、会場の空気が変わったような気がした。


 彼女はゆっくりと俺達を見下ろす。


 透き通るような銀髪に、宝石のような紺碧の瞳。

 その神々しさは昨日の邂逅から何一つ変わっていない。

 敢えて違う点を挙げるとすれば、服装がローブから胸元のぱっくりと開いた派手めなドレスに変わっていることぐらいだろうか。


 見た目はまだ十八歳の少女。

 それでも彼女の持つ現実感の無さはこの場にいる皆を圧倒していた。

 世界が塗り替わるような、理が全て覆るようなそういう感覚。

 あのセントラル・オルフェーブル公園で彼女に見つめられた時と同じだ。


 きっと他の受験生も同じ感覚を味わっているのだろう。

 皆一様に息を呑んでいるのがわかる。


 そんな受験生達をどこか満足そうに見つめる彼女は一拍を置いて口を開く。


「君達が今日この日、この場所、()()王立セレスティア魔導学園に集まってくれたことに感謝する。今年から本学の学園長を務めることになったシルフォリア・ローゼンクロイツだ」


 俺と三歳しか歳が離れていないとは思えない自信に満ち溢れた演説。

 その声に中庭からは「おおおおっ!」と歓声が上がる。

 それだけでも彼女の人気が凄まじいことが窺える。

 彼女はそれを手で制しつつ続ける。


「見たところ今年は豊作のようだね。これなら過去最高の学年を()()()()だよ」


 彼女はそう言って目を細める。


「私も学園長としてそれなりの祝辞を述べなければならないとは思っているのだが、こう見えて私はまだ十八歳。魔法ばかりを追求してきた人生ゆえにまつりごとはあまり得意ではないのだ。ということで堅苦しい挨拶は抜きにして、ここからは私流に進めさせてもらうよ」


 その言葉に受験生達は期待の眼差しを向ける。


 そんな受験生達とは裏腹に、俺は何となく嫌な予感がした。

 彼女は笑っていたのだ。

 忘れもしない俺を蹴り上げたときと同じ笑みを浮かべて。


 そんな俺の不安を余所に彼女は独善と続ける。


「知ってのとおり、本学は我が国の最高峰の魔導学園であり、完全なる()()()()であることも有名だ。ここでは、富、地位、名誉、身分、縁故、そんなものは一切関係なく、問われるのは魔法の実力のみ」


 しかしだ、と言って彼女は更に続ける。


「そんな本学のはずだが、最近は()()()()だの()()()()()だのという世の流れにてられて、学園全体のレベルが著しく低下しているのが現実だ。私はそんな現状を大変危惧している」


 そこまで言って彼女はニヤリと笑う。


「というわけで、今年の入学試験は、()()()()()()()、例年行われていた『筆記試験』及び『実技試験』を廃止し、公平かつ実践的な試験方式――『模擬戦』――を採用するものとする」



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