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§015 再会

 翌日、王立セレスティア魔導学園の入学試験が始まった。


 試験会場として指定されている学園内は、多くの受験生でごった返していた。

 俺とレリアもかなり余裕を持って会場に到着したつもりだったが、大半の受験生が既に到着しているように見えた。


 緊張した面持ちの者、余裕な表情で会話を楽しんでいる者、魔導書を熱心に読んでいる者と様々だ。

 それでも、王立セレスティア魔導学園を受験するぐらいだから、皆、各地で天才と謳われた腕に自信のある者ばかりなのだろう。

 そう考えるだけで身が引き締まる思いだ。


 俺達は受付を終えると、中庭に足を踏み入れる。

 すると受験生の視線が一斉にこちらに向けられた。

 まるで品定めをするかのような視線。

 それと同時にひそひそと小声で話す声も聞こえる。


「いま入ってきた二人組、知ってるか?」

「いや知らない顔だな。少なくとも有名貴族ではないな」


 ふむ。どうやらこうやって事前にライバルとなる魔導士をチェックしているようだ。

 ただ、こんな聞き耳を立てれば聞こえるぐらいの声量で話しているぐらいだ。

 逆にこちらはそこまで警戒する相手ではないだろう。


「それにしてもあの女の子はめちゃくちゃ可愛いな。あの子と一緒に学園生活を送れるかもと思うと自然と気合が入るな」

「それな。男はノーマークでいいが、女の子は要チェックや」


 下世話な会話にレリアはあからさまに顔をしかめている。


 俺とレリアがそんな視線をかいくぐって、中庭の中央付近まで来たところで、会場に大きなどよめきが起こった。


 俺は何事かと思って振り返る。

 その瞬間、背筋が凍ったような感覚に襲われた。


 俺の視線の先にいたのは――セドリック・レヴィストロース――

 我が弟だった。


 なぜあいつがここにいるのだ。

 レヴィストロース家の人間は代々、領内の魔導学園に進学するはずだ。


 あいつもこの魔導学園を受験するのか?


「見ろ見ろ。レヴィストロース家の嫡男であらせられるセドリック様だぞ」

「すごいオーラだ。さすがは【焔の魔法剣】の所持者。今年の首席候補らしいぞ」

「端正な顔立ち。お近づきになれないかしら」


 そんな黄色い声援も俺の耳には入らなかった。

 今まで抑え込んでいた黒い感情が沸々と込みあがってくる。


 セドリックは声援に応えながらもゆっくりと歩みを進める。


 そして――俺と彼の視線が交差した――


 セドリックは俺を認めて、一瞬、ほんの一瞬だけ動きを止めたように思えた。

 しかし、すぐに何もなかったかのように歩みを進め、表情は心なしか笑みを浮かべているようにすら見える。


 そのまま真っすぐと俺に向かってくるセドリック。


 ()()()……。


 俺は素直にそう思った。

 まず最初に考えたのはレリアのことだ。

 俺はレリアに自分がレヴィストロース家出身であることを打ち明けていない。

 レリアは俺を普通の平民だと思っているはずだ。

 そんな俺がセドリックと普通に会話をしていたらそれこそ今まで隠していたことが明るみに出てしまう。


 それに……。

 セドリックは我が弟ながら非常に狡猾なやつだ。

 一緒に暮らしている時から俺の失敗を願い、仕組み、陥れる。

 そんな性格のやつだった。


 俺が家を追放されたのは父上の判断だ。

 直接セドリックは関係ないかもしれない。


 それでも……。


 ――いっそのこと小説家にでもなればいいんじゃないのかな――


 俺はこの言葉を忘れはしない。

 俺が墜落する瞬間を虎視眈々と狙っていた目を忘れはしない。


 こんな気持ちが渦巻き、もしセドリックと相対したら平静を保てる自信が俺にはなかった。


 この場から逃げ出したい気持ちが一層強くなる。

 ただ、俺は結局その場から動くことができなかった。

 拳にギュッと力を入れ、唇を噛みしめ、無言で弟を待つ。


 そして、弟が俺の目の前に立つ――


「…………なっ!」


 弟は俺の前で立ち止まることなく、そのまま横を何事もなかったかのように通り過ぎた。

 弟の瞳は確かに俺のことを捉えていた。

 しかし、弟はお前なんか眼中にないとばかりに俺を素通りしてみせたのだ。


 そうか……それがお前の答えか……セドリック。


 この瞬間、俺の中にメラメラと湧き上がってきた感情は『悔しさ』だった。


 あいつは【焔の魔法剣】に選ばれた男。

 一方の俺は【速記術】という前例のない固有魔法の所持者。

 俺はどこか仕方ないと……弟には勝てないのだと諦めていたところがあった。


 しかし、今の俺にはもう劣等感は無い。


 俺はちらりとレリアに視線を向ける。


 そう……レリアが教えてくれた。

【速記術】は俺が持つ最大限の個性だ。

 俺はこの【速記術】を駆使して、世界で誰よりも速く『魔法陣』を描き、魔導士街道を駆け上がってみせる。


 そして……いつか必ず……お前を超えてみせるぞ……セドリック……。


「ジルベール様……どうかなされましたか?」


 レリアが異変に気付いて、心配そうに俺の顔を覗きこんでくる。


「ああ。……ちょっと昔を思い出してしまってね」


「昔……ですか?」


「そうだな」


 俺は自分に言い聞かせるように一拍置いてから言葉を紡ぐ。


「でも、もう大丈夫。レリアのおかげで……もうとっくに心の整理はついていたみたいだ」


 そう言って俺は今できる精一杯の笑顔でレリアに笑いかける。

 レリアは「私のおかげ?」と一瞬不思議そうな顔を見せたが、俺の表情を認めると、すぐに安心したような微笑みを見せてくれた。


「は~い。それでは入学試験を開始しますので、受験生はこちらに集まってください」


 おあつらえ向きに係官の声が響き渡る。


「いよいよみたいだな」


「はい。いよいよです」


 俺とレリアは今一度視線を交差させると、動き出す人の流れに混ざり、係官の下へ向かった。



 今回から新章【入学試験編】の始まりですね。


 本作をお読みになって

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