§011 爵位継承権
ジルベールとレリアが空間転移魔法陣を展開したその幾日か前。
レヴィストロース家の一室にて。
我がレヴィストロース家当主モーリス・レヴィストロースの号令と同時に、僕、セドリック・レヴィストロースは父の待つ執務室へと入室する。
「お父様、何か御用でしょうか」
「おお。セドリックか。実は折り入って話があってな」
「何なりと」
「突然だがお前には『王立セレスティア魔導学園』を受験してもらおうと思っている」
「王立セレスティア魔導学園でございますか?」
僕は父の意図が理解できずに首を傾げた。
我がレヴィストロース家は代々、領内にある『王立レヴィストロース魔導学園』に進学しているはずだ。
なぜ今になって王立セレスティア魔導学園なのだ。
「そうだ。王立セレスティア魔導学園は我が国が誇る超名門魔導学園だ。そして、なんと来年度から学園長に六天魔導士が就任することが決まった」
六天魔導士が学園長に?
なるほど。その言葉を聞き、僕は父の意図を言われるまでもなく正確に理解した。
「これは六天魔導士に我がレヴィストロース家の実力を認めてもらう絶好の機会である」
そんな風に父は綺麗事を並べているが、要は僕が六天魔導士に取り入って、その地位を確立してこいということだ。
「したがって、セドリック・レヴィストロースは王立セレスティア魔導学園を受験し、同学の試験を首席で突破してみせよ。お前の固有魔法をもってすれば十分可能なはずだ」
僕は心の中で盛大な舌打ちをした。
お父様は今更になって何でそんな面倒なことを言い出すのだ。
確かに六天魔導士とお近づきになれるのは我が家にとって魅力的なのかもしれない。
しかし、爵位さえ継承できればいい僕にとってはいい迷惑だ。
領内の魔導学園であれば我が家の名前をもってすれば顔パスで入学できたものを、名門魔導学園となったら、さすがの僕でも対策を立てなければならないじゃないか。
こんなに重大なことを直前に決めるなんて……お父様はまったく……。
これだから脳味噌まで筋肉でできているような人とは極力関わりたくないんだ。
「お任せください、お父様」
そんな内心を悟られないように僕はハキハキと現当主である父に答える。
「うむ。よい返事だ。お前が王立セレスティア魔導学園を卒業した暁には、世継ぎを正式に発表するつもりだ。レヴィストロース家の名に恥じぬ活躍を期待しているぞ」
なるほど。そう来るか。
その言葉を聞いて、僕は先ほどの感情とは対照的な感情を抱き、心の中でニヤリと笑う。
「ありがとうございます。我が固有魔法【焔の魔法剣 エスペシアル・ディオサ】の威力を世に知らしめる所存でございます」
そして、くるりと背を向けて扉に向かって歩き出した。
ふふ、ははは。
まったく笑いが止まらないよ。
予定とは少し違った。
しかし、僕にとってもどうやらこれは悪くない条件のようだ。
兄さんが無能で追放されてくれたおかげで、僕は魔導学園を卒業するだけで爵位を継ぐことができるのだから。
仕方ない。入学試験だけは父上からの御命令とあらば真剣にやろう。
なに、僕は要領がいいから王国屈指の魔導学園といえども首席合格など容易い。
あとは問題を起こさずに卒業できればそれでいいさ。
何せこのレヴィストロース家の跡取りは僕しかいないのだから。
あとはタイミングの問題だけさ。
まあ、僕の【焔の魔法剣 エスペシアル・ディオサ】さえあれば、特に努力なんかしなくても首席で卒業まで出来ちゃうかもしれないけどね。
ふふ、この剣の威力を披露するのが待ち遠しくて仕方ないよ。
僕は黒い笑みを浮かべながら部屋を後にした。