海の霊
ここは海岸。
ただの海岸ではない。心霊スポットとして有名な、だ。
俺は霊感がとても強い。だからどれくらいの意志によって残留している魂なのかも感覚でわかってしまう。
そしてこの海岸の幽霊。相当の物だ。
ここに来た目的は一つ。
この強い霊感は霊との話を可能とさせる。それを活かし霊に成仏できるよう手助けをするのだ。
俺は早速海岸沿いの探索を始めた。
---
探索を開始して数分、霊の気配がどこから来るのかが分かった。
海の方だ。恐らく自殺等、だろうか……。
ん?
今、背中の方に気配を感じた。
まさかと思い振り返ると若い女の人が立っていた。
女の人からは霊の気配。恐らくこの人が……。
「あの、貴方がこの海岸の霊――ですよね?」
俺がそう尋ねると、
「え、あの、私が見えて怖い……とか無いんですか?」
そう聞き返してきた。
どうやら彼女の方が動揺してしまっているらしい。
「はい。もう、慣れていますから」
彼女はその言葉を聞いて少し落ち着いた様子で、
「そう、ですか。はい。私がこの海岸の霊です」
そう答えた。
「あの、何故、幽霊になったかは分かりますか?」
「はい、多分」
「話していただけませんか。出来れば貴方を成仏させてあげたいのです」
俺がそう言うと、彼女は少し微笑みながら、
「分かりました」
と言った。
「私が死んだのは自殺……です」
「理由は……言った方がいいのでしょうか……少し思い出したくないもので……」
「いいですよ」
俺がそう言ったのに安心したのか、話を始めた時の辛そうな顔が、少し緩んだような気がした。
「多分、私は心残りがあったんですね……」
「私、子供が一人いたんです。まだ、2、3歳だったと思います」
そう言った彼女は星空を見上げ何か遠くを見ているようだった。
「そう、だったんですか」
2、3歳か。俺もそのぐらいに親を亡くしたって聞かされたなぁ。
そんなことを思い出しながら俺も星空を見上げた。
「……」
「……」
「あの、私、子供の成長した姿を見れば、成仏できるような気がします」
「そう、ですか。私が探せる保証はありませんがお子さんのお名前教えていただけますか?」
「はい。あの子の名前は結人。野村、結人」
そう言って彼女はまた微笑んだ。
「野村、結人」
俺はその名前を繰り返して言った。
俺と同じ名前だった。
俺はまさかと思い生年月日全てを教えてもらった。
そして、分かった。この人は俺の母親だ。
---
「あの、その子って多分俺の事です」
「そっか」
「あの、驚かないんですか?」
「驚いてる。けど……それ以上に嬉しいから……」
そう言った俺の、母の目からは涙かこぼれそうだった。
「そうですか。俺には、よく分からないんです」
「そう、だよね。でも、結人。私は貴方の母。そのことに間違いは無いから……」
そう言った直後、母の透けていた体はさらに透け、少しずつ消え始めた。
どうやら、心残りは晴れたようだ。
「結人。ありがとう。私の話を聞いてくれて。ありがとう。私の前に来てくれて。ありがとう。私の下に生まれてきてくれて……」
そう言いながら母は消えていった。
「ありがとう。母さん……」