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8話 初仕事①


イクスとパーティーを組むことに関しては保留にした。


まずはDランクに上がるために依頼を受けて冒険者の仕事に慣れるのが先、ということで話がついた。


イクスは不満そうだったが。


だがEランクは特殊な事情でもない限りEランクの依頼しか受けれない。


これはパーティー登録をしていても同じで、駆け出しの冒険者を守るためでもあるという。


ギルド側としては冒険者の人柄や仕事ぶりなんかをこの期間に見ているとかで、それによって振る仕事も変わってくるらしい。


一口に冒険者と言っても依頼の内容は多岐に渡るので、向き不向きを見て依頼を振ることもあるそうだ。


人を使う仕事が大変なのはどこも変わらないのだろう。


なんとなく責任者になっていたユエもそれなりに苦労したので少しは分かる。


「倉庫の片付け、荷物運び…………ペットの散歩? あ、魔獣なのか」


翌日、ユエはさっそく依頼を受けるために冒険者ギルドに来ていた。


ギルドの壁には依頼の張り出された掲示板が二つある。


一つはC〜Eランクまでの依頼、もう一つはS〜Cランクまでの依頼で分かれているらしい。


Cランクの依頼が二つに分かれてるのは難易度の違いで、当然上位ランクの掲示板の方が難易度が高い。


危険な魔物の討伐や捕獲、稀少素材の採取など実に冒険者らしい依頼が貼り出されている。


とはいえ初心者マークのユエには遠い世界の話なので、ユエはEランクの依頼から一つ選んで受付に行った。


「この依頼を受けたいのですが」


「はい、これですね。冒険者証をお願いします」


今日の受付は落ち着いた雰囲気の男で、ユエが冒険者証を出すとおや、と表情を変えた。


「ああ、君が昨日の」


どうやら昨日の騒ぎはしっかりと広まっていたらしい。


この様子だと昨日登録したばかりの新人であることと名前だろうか。


ギルドの職員だから業務連絡で知っていてもおかしくはない。


「……昨日はお騒がせしてすみませんでした」


自分は悪くないが問題児扱いされても嫌なので、一応謝っておく。


「君も大変だったみたいだね。イクスは一緒じゃないのかい?」


「ええ。Eランクの依頼にBランクがついてくるのも変ですし」


「それもそうだね。ああ、依頼の受付だったね。すぐにやるよ」


手慣れた様子で男は手続きをした。


「はい、受付は済んだよ。君はこれが初めての仕事だから簡単に説明するね。このまま依頼人のところへ行って依頼書を見せてくれ。終わったら依頼書のここに依頼完了のサインをもらうこと。これがないと依頼完了にならないからね。それからギルドに依頼書を出せば依頼完了。こちらでサインを確認したら報酬を支払う」


「はい、分かりました」


仕事の流れは事前にイクスから聞いていた通りだったので、ユエは問題なく返事をする。


「場所は分かるかい?」


「大丈夫だと思います。迷ったら誰かに聞きます」


「うん、大丈夫そうだね。じゃぁ頑張って」


「はい、ありがとうございます」


依頼書と冒険者証を受け取り、ユエはギルドを出た。


新人だから優しくしてくれたのだろうが、いい人だ。


イスト騎士団に配属されたばかりの頃、面倒を見てくれた先輩を思い出す。


面倒見のいい先輩で、本人の性格も実力も十分だったので中央に異動になったのだ。


お祝いにと壮行会を開き、世話になった者同士で持ち寄ってタイピンを贈ったらとても喜んでくれた。


先輩は元気にしてるだろうか…………そう考えたところで、小さく息をついた。


何かにつけてすぐに騎士団のことを思い出してしまうのは未練があるからだろうか。


気持ちを切り替えなくては、自分はこれから初仕事なのだから。


よし、と内心気合を入れ直し、ユエは依頼人の下へ向かった。


昨日の内に街を見て回ったのでローダスの大まかな把握は出来ている。


幸い昨日見て回った中に目的地付近もあったので、困ることなく依頼人のところまで行けた。


「ここかな」


着いたのはローダスでも中流区の住宅地にある家だった。


素人目に見ても手入れのされた庭には色んな花が咲いている。


玄関の前まで行きノッカーを叩き、声をかけようとすると、


「あら、どなた?」


家の中からではなく外から声をかけられた。


そちらへ目をやれば、肩にショールをかけた白髪混じりの女が不思議そうにユエを見ている。


「奥様、先に行かないで下さいませ」


少し遅れて現れたのは使用人だろうか、奥様と呼んだ女を庇うように前に出た。


「どちらさまでしょうか?」


声や見た目からしても女とそう変わらない年齢に見える男に、ユエは依頼書を見せた。


「冒険者ギルドで依頼を受けてきました。私はユエと言います」


「ああ、冒険者の方でしたか」


「まあ、依頼を受けてくれたのね?」


男の後ろから、ひょこりと顔を覗かせる女は嬉しそうに声を上げる。


「依頼人のユーフィスさんは……」


「私よ。でもユエさん、私が依頼したのは倉庫の片付けなのだけど……」


奥様と呼ばれていたしおそらくは姓だろう、ユーフィス夫人は伺うようにユエを見た。


「身体強化が使えますので、多少の力仕事も大丈夫です」


「まあ、それなら安心ね。どうかしら、ライズ」


ユーフィス夫人に聞かれ、使用人のライズも納得したのか「よろしいのでは」と答えた。


「ではこちらへ」


ライズの案内で庭から奥へと進む。


ユーフィス夫人も一緒で、依頼内容の説明をしてくれた。


「夫がね、色々と集めるのが好きで倉庫に荷物がいっぱいで。でもあの人ったら集めるのは好きだけど片付けがダメな人だったのよ」


なんでも一年ほど前にユーフィス夫人は夫を病気で亡くし、今は使用人のライズと共に暮らしているらしい。


家が商売をしていて今は息子に跡を譲り、ローダスでのんびり老後を過ごしているのだとか。


ライズはその頃からユーフィス夫妻に仕えていた使用人で、隠居する時にも主夫妻についてきてくれたのだと言う。


生前はライズと二人で倉庫の管理もしていたが、病気で亡くなりその後は何かと忙しくそこまで手が回らず。


久々に倉庫へ入ったところ、棚が古くなっていたのかあちこち壊れ荷物がひっくり返り、大変なことになっていた。


なのでこれを機に整理し、倉庫内の荷物の把握もしたいのだという。


そうして案内された先にあったのは、中々に大きい倉庫だった。


大きな商会の店舗と同じぐらいの広さはあるだろうか。


だが一歩中に入れば聞いていた通りの荒れ具合で、壊れた棚や落ちてきた荷物の巻き添えをくって埋もれた物などにうっすらと埃が被っている。


「どうかしら。時間はかかると思うけど、急いではないからゆっくりでもやってもらえると助かるのだけれど」


「いくつか確認したいことがあります。一時的に荷物を倉庫の外に出してもいいですか?」


ユエの質問に答えてくれたのはライズだった。


「構いません」


「荷物を戻す際に置き場所に決まりなどはありますか?」


「特にございません。日光に当てられない物などはそもそも専用の箱などに入っておりますので」


「壊れた棚は撤去するということでいいですか?」


「はい。新しい棚は用意してありますので、それと交換して頂ければと」


新しい棚も用意してあるらしい。


どうやら準備は万端で、あとは人手が来るのを待つだけだったようだ。


「荷物の把握をとのことでしたが、中身の確認はライズさんがしますか? それともユーフィスさんが? 私が見ても問題ないのであれば、書く物を用意してもらえれば書き出しますが」


ライズはちらりとユーフィス夫人を見て答える。


「ユエさんに確認して頂いて構いません。ですがその場合、ユエさんの荷物はこちらに預けて頂きます」


魔法鞄があるので盗まれることを警戒するのは当然だろう。


Eランクの依頼に出るぐらいだからそれほど高価な物はないだろうが、かと言って盗まれてもいいわけではない。


「分かりました。荷物は預けます。問題がなければ今から始めますが構いませんか?」


「ええ、お願いします。書く物と掃除道具をすぐに持ってきますね」


剣を魔法鞄に入れ、その魔法鞄をライズに渡す。


ライズは魔法鞄を受け取ると、道具を取りに家に向かった。


「ユーフィスさんはどうしますか?」


「お邪魔にならないなら見ていてもいいかしら?」


「私は構いませんが、埃が舞うので汚れますよ」


「じゃぁ、少し離れたところから見てるわ」


楽しそうにふふっと笑って、ユーフィス夫人は倉庫から少し離れた。


まずは荷物を出すことからだ。


埃よけに先に魔法鞄から出しておいた布を口に巻く。


身体強化をかけ、ユエは倉庫の中に入った。


倉庫の中はやはり埃っぽく、中に入るとそれだけで埃が舞う。


天井に明かりとりの窓があり、壁にも換気用の窓があったので開けた。


そこでライズが掃除道具と紙とペンを手に戻ってきた。


礼を言って受け取り、掃除道具は一旦外に置いて、紙とペンを手にまずは簡単に倉庫内の見取り図を書く。


とは言っても棚の配置と大まかな区分けだ。


ライズはああ言っていたが、やはり出来るだけ元の位置にあった方がいいだろう。


ああそうだ、もう一つ確認しなければならないことがあったと、ユエはライズに声をかけた。


「ライズさん、荷物に目印をつけてもいいですか?」


「目印とはどのような?」


「後で戻すのに番号をふりたいんです。なので箱の隅などに小さく数字を書きたいのですが。無理なら構いません」


「構いませんよ。ユエさんのやりやすいようにしてちょうだい」


聞いていたユーフィス夫人が許可を出してくれた。


礼を言ってユエは作業に戻る。


今見た光景についてはあえてツッコまなかった。


少し離れたところから見ているとは言っていたが、ユーフィス夫人は優雅にお茶していた。


あのテーブルとイスはライズが用意したのだろう、最初はなかったから。


暇なのか、などと言ってはいけないのだ、きっと。


ただ倉庫の片付けをしているだけなので、見ていて面白いものでもないと思うのだが。


まあ、飽きたら家に戻るだろうと、ユエは荷物に番号をふり外へ運び出していった。

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