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7話 絡まれた


声をかけてきた冒険者の後ろには仲間らしき男女が三人いた。


彼らもまた男と同じような表情をしている。


イクスの知り合いかと目をやると、どうやら違うらしく軽く首を横に振った。


「こんな登録したばっかの新人と組むぐらいなら俺達のパーティーに入らないか」


ちらりとユエを一瞥すると、男はイクスを勧誘した。


「は? 誰だお前ら」


「俺達はCランクパーティーのガルダンだ。ソロのあんたがパーティーを組むなら足を引っ張らない経験者の方がいいはずだ。どうだ?」


「断る」


ズバッとイクスは言い切る。


これで引く相手なら良かったが、そうではなかった。


「な、何が気に入らない? 報酬はあんたの割合を多くするし、待遇だって勿論考えてる!」


「どうでもいいわ、そんなこと。俺が組みたいのはユエでお前らじゃねぇんだよ」


イクスはめんどくさそうにあしらうが、男も引かない。


Bランクと言えば上位の冒険者だ、そんなイクスを勧誘したいパーティーはいくらでもいるだろう。


去年だったか、Cランクに上がってから勧誘が多く鬱陶しいと手紙に書いていたことがあったなと思い出す。


男は自分達と組めば報酬も待遇も優遇するし、要望があれば可能な限り応えると交渉しているが、イクスがそれに靡く気配がない。


横で聞く限りかなりの高待遇である、他の冒険者なら首を縦に振るのではなかろうか。


対するイクスの返答は「お前達と組む気はない」の一点張り。


そんなことをしていると、ユエにも矛先が向いた。


「俺達を断ってこんな奴を選ぶのか!」


ふざけるなと言わんばかりに男はユエを指差した。


さらに男の仲間までもがユエに険しい視線を向けてくる。


とんだとばっちりである、勘弁して欲しい。


「だからそう言ってんだろ。俺が組みたいのはユエでお前らじゃねーの。報酬だの待遇だの関係ねぇんだよ。それなら一人の方が報酬だって分ける必要もないだろ」


このやりとりにうんざりしたらしく、イクスの声に険が混じる。


だが相手もこのやりとりで頭に血が登っていたらしく、引き下がることなく食い下がった。


「納得出来ねぇ! 他の奴ならともかくこんな登録したばっかの奴より俺らが下だと!?」


誰もそんなことは言っていないが、どうやら男にはそう聞こえたらしい。


そしてそれは彼の仲間達も同じだったようでさらに視線が険しくなった。


「おいテメエ! 俺達を差し置いて選ばれるからには当然それだけの実力はあるんだろうな!?」


とうとう怒りの矛先は完全にユエに向けられた。


「いやありませんけど」


むしろあるわけがない。


「は?」


平然とそう言ったユエにその場に沈黙が落ちるも、それは長く続かなかった。


「なっ……だったらなんでお前が選ばれるんだ!」


「それはイクスに聞いて下さい」


聞いたところでさっきと同じか子供の頃の約束を持ち出されるかのどちらかだが、その理由を知ってるのはイクスのみだ。


「っ……、ふざけるな! 実力もないくせに冒険者になるのかテメエは! そんな腰抜けは今すぐこっから出てけ!」


「――おい」


ひやり、としたモノを感じたのは低い声と同時だった。


ついでピリピリとした肌を刺すような感覚。


その主は怒りもあらわに男を睨みつけていた。


「誰が腰抜けだって? もう一度言ってみろ」


ギルドの中は完全に沈黙に包まれた。


イクスが放つ威圧に男達だけでなくその場にいるほぼ全員が気圧され顔色を悪くして口を噤む。


「まあまあイクス、落ち着いて」


しんと静まり返り誰も声さえ出せない中、ユエはぽんとイクスの肩に手を置いた。


「…………」


「ね?」


ぽんぽんと、宥めるように続けて肩を叩くと。


「…………分かった」


ふ、とイクスが小さく息をついて威圧が消えた。


ギルドのあちこちで安堵の息をつく音がする。


それでも威圧を直接受けた男達の顔色はまだ悪い。


だが、さすがにこれ以上食い下がる気はないようだった。


「登録は出来たし、今日はとりあえずこれでいいよ。イクスはどうする? 私は街を見て回ろうと思うけど」


「……俺も行く」


「じゃあ行こっか。ああ、お騒がせしてすみませんでした」


「え、いえそんな」


受付嬢に手早く謝って、イクスと冒険者ギルドを出る。


そのままギルドから離れるように歩いて、小腹も空いたしとりあえず一息つこうと店に入った。


ちょうどいいことに端の席が空いていたので、そこに座った。 


イクスの好きそうな物をいくつか頼み、水を飲む。


イクスもまた仏頂面で水を飲んでいた。


「……なんで止めたんだよ」


目が合うと、むすっとしてそう言ってくる。


「ユエのこと何も知らねぇくせに勝手に見下して、腰抜けなんて言われて、なんで怒んねぇんだよ」


「なんでって、私が怒る前にイクスが怒ってくれたしねぇ。それに腰抜けはともかく、それ以外はあの人達も間違ったことは言ってなかったと思うよ」


「は? どこが? てかなんで実力がないなんて言ったんだよ。ユエはあいつらより強えだろ」


「いやいやあの人達Cランクでしょ。私さっき登録したばっかのEランクだからね?」


「ユエなら楽勝だろ」


「いやいやいやいや……。楽勝なわけないじゃん」


Cランクはベテランだ、ついさっき冒険者になったばかりのEランクと比べるものじゃない。


だからそれを踏まえれば彼らの怒りは当然なのだ。


とは言え、その矛先を自分に向けられても困るが。


「楽勝だろ。あの程度の威圧にビビる奴らだぞ」


「イクス? 自分がBランクだって忘れてない?」


「忘れてないけど? ユエこそ威圧が平気だったの忘れてね?」


「私があれにビビるわけないじゃん。何年の付き合いだと思ってんの。私に向けられたわけでもないのに」


これが自分に向けられたり他の人間だったならともかく、そうでなければユエにとっては「イクス機嫌悪いな」ぐらいの感覚だ。


伊達に幼馴染はしてない。


「お待たせしましたー、ご注文の品でーす」


注文した料理をテーブルに並べると、「ごゆっくりどーぞー」と店員は笑顔で去っていく。


「とりあえず食べよ」


「だな」


二人揃って串焼きに手を伸ばす。


「で、街を見て回るんだっけ?」


「まずは住む所を探さないとね。出来るだけ安いところ」


今後を考えると出来るだけ出費は抑えたい。


串焼きに(かじ)りつけばシンプルだが塩胡椒がよく効いていて美味しかった。


「俺が定宿にしてるとこは?」


「無理。駆け出しの新人が住むとこじゃないでしょ」


一泊二泊ならともかく、長期で滞在するには懐に厳しい。


というか、そんなことしたら絶対他の冒険者に睨まれる。


本当はギルドでその辺の話も聞きたかったのだが、あの騒ぎでそれどころじゃなくなってしまった。


「あ〜〜、確かに今のとこに移ったのはBランクになってからだったな」


そう言ってイクスは唐揚げがのった皿を引き寄せる。


「俺が最初に世話になってたとこはもうないしな」


「まあ、明日また依頼を見に行くから、その時に宿について聞いてみるよ。あ、すいませーん」


ユエは揚げたてのポテトフライを口に入れ、追加の注文をするために店員を呼んだ。


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