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6話 冒険者ギルド


大通りの中央に冒険者ギルドローダス支部はあった。


思ったよりも外観は綺麗で、聞けば三年ほど前に建て直しをしたらしい。


中へ入れば人で賑わっていて、当然ながらほとんどが武器を所持した冒険者ばかりだった。


中の雰囲気はそう変わらないなぁと、軽く周囲に目をやる。


騎士の時にも仕事の関係で何度か冒険者ギルドへ行ったことがあるのだ、もちろんここではなくレリウスのだが。


イクスについてカウンターへ向かう。


現役の冒険者であるイクスはともかく、一緒にいるユエには周囲から視線が集まった。


あまりいい気分ではないが、見慣れない人間が来ればこんなものだろう。


仕事で初めて冒険者ギルドへ行った時もそうだったなぁと思い出す。


あの時はユエ一人で行かなければならず不安と緊張でちょっと気持ち悪くなったりもしたが、今はイクスもいるから不安はない。


「あらイクスさん、こんにちわ。そちらの方は?」


受付のカウンターにいる女性は自分とそう年は変わらないだろう。


柔らかそうな金色の髪を三つ編みにした、おっとりした感じの眼鏡美人だった。


「俺の知り合い。冒険者について説明を受けにきたんだ」


「まあ、そうなんですか。では私から簡単に説明をさせて頂きますね」


見事な営業スマイルで説明をしてくれたところによると。


冒険者にはSからEまでのランクがあり、新人はEランクからスタート。


Eランクは言わば見習い期間であり、一定の依頼をこなすことでDランクに上がれる。


ただしDから上は昇給試験があり、それに合格しないと上がれない。


なお、受けた依頼を達成出来ない場合は罰があり、報酬の2割をギルドに払わなければならない。


なので、依頼を選ぶ時には自分の実力を考慮した上で慎重に選ばないと、懐的にも痛手を受けるそうだ。


実際にそれで借金を抱える冒険者もいるらしい。


後は冒険者ギルドに不利益を与えないこと、他の冒険者の妨害をしないこと、犯罪を犯さないことなど、有り体に言えば一般的なことが挙げられた。


それが顔に出ていたのだろう、「皆さん血気盛んなもので……」と受付嬢は苦笑していた。


「――と、大体こんな感じです。何か聞きたいことはありますか?」


「冒険者の登録をしたらすぐに依頼を受けられるんですか?」


「受けられます。登録に時間はかかりませんので、冒険者証を発行すればすぐに依頼を受けれますよ」


受けられる仕事に制限はあるが、今すぐに働くことが可能なわけだ。


ならば、とユエは決めた。


「登録をお願いします」


「はい、分かりました。ではすぐに準備しますね」


それまで黙っていたイクスが、横で「よしっ!」と小さく拳を握る。


受付嬢はそれを見て小さく笑い、ユエは苦笑した。


ガッツポーズをするほどのことではないだろうに、イクスはとても嬉しそうだ。


「ではこちらに必要事項を記入して下さい。代筆は必要ですか?」


「大丈夫です」


ペンを借りて紙に名前と年齢、性別、出身地を書く。


紙を返すと、受付嬢はそれをしっかり確認して魔法陣の書かれた羊皮紙を出した。


魔法陣の上に今書いた紙と無地のカードが重ねて置かれる。


「登録のためこのカードに少し血を垂らして頂けますか?」


先の尖った棒を渡され、人差し指の先を刺して滲んだ血をカードにつけた。


「ありがとうございます。では始めますね」


受付嬢が魔法陣の上に両手を翳す。


すると魔法陣が光り、何も書いてなかった無地のカードに文字が現れた。


炙り出しのようで見ていて面白かったが、すぐに終わってしまった。


「はい、これで登録は完了です。こちらがユエさんの冒険者証になります」


「ありがとうございます」


サイズはキャッシュカードと同じぐらいだろうか、触った感じも似ている。


炙り出しのようだったから少し熱いかなと思ったがそんなことはなく、ユエはまじまじと出来たばかりのカードを見つめた。


「右上に大きく書かれているのが今のランクです。ユエさんは登録したばかりなので一番下のEランクになります」


冒険者証は大変シンプルで、ユエの名前とランクだけが書かれていた。


「ギルドで依頼を受ける際の手続きや身分証明になりますので、無くさないよう気をつけて下さい。初回の登録時は無料ですが、無くしたり破損した場合、再発行にお金がかかりますので」


「……ちなみに再発行料っていくらですか?」


こそっと聞くと、にっこり笑ってこそっと教えてくれた。


「銀貨五枚です」


「おぅ……結構するんですね」


ユエの感覚だと銀貨一枚は日本円にして約千円。


冒険者証の再発行は五千円するらしい。


「ええ、ですので気をつけて下さいね。……再発行は評価にも影響しますので」


さらにこそっと教えてくれた。


……なるほど、自分の冒険者証もまともに管理出来ないのかと、マイナス査定をされるのだろう。


確かにうっかり大事な物を無くすような相手はあまり信用出来ないかもしれない。


「はい、気をつけます」


無くさないよう、すぐに魔法鞄に入れた。


これでうっかり落とすこともない。


「これでユエも冒険者だな」


「そうだね。付き合ってくれてありが――」


「これでパーティー登録できるな!」


ありがとう、と続くはずだった言葉は、イクスの嬉しそうな声に遮られた。


「……ん?」


「……あら」


思わずといった感じで、受付嬢も目を丸くして小さく声を漏らした。


周りもしんと静まり返っている。


というか、イクスは今、妙なことを言わなかっただろうか。


「……イクス、今なんて?」


「これでパーティー登録出来るなって言った」


「……誰と誰が?」


「俺とユエ」


聞き返せば、満面の笑みでそう返す。


「はあっ!?」


「パーティー組みたいなんてあいつ一体……」


「わざわざ連れて来たぐらいだ、実は凄い奴なのか……」


これに驚いたのは周りで、ギルドの中は一気にざわめいた。


そのせいでさっきの比ではないくらい強い視線が集中し、居心地が悪い。


「えーー……イクスって今、Bランクじゃなかった?」


「ああ、そうだぜ」


「私は今冒険者になったばかりのEランクなんだけど」


「分からないことがあったら俺が教えてやるぜ」


イクスは任せろと言わんばかりのいい笑顔だ。


「いやうん、それは助かるけど。て、そうじゃなくて」


「何だよ、嫌なのか? 冒険者になったらパーティー組んで一緒に冒険するって約束しただろ」


確かにそんな約束をしたがそれは小さい頃のことだ。


大きくなって冒険者になったらみんなで一緒に冒険しよう――それは冒険者に憧れる子供ならよくある話なわけで。


まさかその話が今も継続しているとは思いもしなかった。


「いやいや、嫌じゃないけど。でも――」


「おい、ちょっと待てよ」


割り込んできた声にそっちを見ると、いかにも冒険者という感じの男が立っていた。




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