50話 お礼参り④
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試合後、場所を変えて団長の執務室。
執務室にはユエを含め六人。
団長と副団長、シリウスにカイル、そしてイクスだ。
イクスは試合中にシリウスとカイルと仲良くなったらしく、団長、副団長も結果に満足しているのか機嫌が良い。
「手間をかけさせてすまなかったな。だがこれで少しは考えを改める者も出てくるだろう」
そうなればいいとユエも思う。
これで平民に対する状況が少しでも良くなるならユエとしても満足だ。
「で、結局あいつらはユエに何の恨みがあったんだ?」
そう言ったのはイクスだが、カイルやシリウスも気になるのか団長に目を向ける。
「いや、恨まれるようなことした覚えないけど」
「ユエに覚えがなくても勝手に恨んでるかもしれねぇだろ?」
「あー……それは……」
ないとは言えないのが悲しいところだ。
あの三人を思えばユエに覚えがなくとも恨まれている可能性はある。
ため息交じりにそれに答えたのは団長だった。
「それなんだがな…………ユエが兵站管理部の責任者になっていたのが気に入らなかったそうだ。平民のくせに、とな」
確かに団長に対してもユエを優遇しているなどと言ってはいたが。
「……私がそうなったのは他にやる人がいなくて仕方なくだったと思うんですが。というか、あの三人、管理部のこと雑用って馬鹿にしてましたよね?」
「それでも平民が責任者という立場にいるのが許せなかったらしい。自分達より上の位置にいるのが癪に障ったそうだ」
なんだそれは。声にこそ出さなかったが表情までは取り繕えなかった。
「は? 馬鹿なのかあいつら」
そんなユエの思いは、見事にイクスが代弁してくれた。
カイルとシリウスも頷いている。
団長も同意して続けた。
「全くな。あの三人の内の一人はユエと揉めたことがあるんだが、覚えているか?」
「私に解雇通知をした人以外は覚えがありません」
「……三年前に、中級治癒ポーションの申請を却下されたことを根に持っていたそうだ」
「それは部隊長の許可のない申請ですよね? 緊急時以外は私の判断で中級ポーションの使用は出来ないし、必要なら所属部隊長の署名入りの申請書を提出するよう説明しているはずですが」
はっきり言って、ユエに覚えはない。
正確にはこの類の揉め事は珍しくないため、よくあることの一つという認識だ。
なんなら、ケガをしたからと医務室に行かず兵站管理部に来てポーションを寄越せと言う者とていたのだ。
そのためユエは常識ある人達から部下、もしくは同僚が馬鹿を言ってすまないと謝られることが度々あった。
それもまたユエが反感を買う理由になっていたのだが、人目を避けようとすればそれはそれで別の疑惑も発生したりと面倒だった。
「平民が貴族の要求を聞き入れなかったことが許せなかったそうだ」
「……そう言われましても」
「あぁ、全く下らん逆恨みだな。お前に非はない」
さらに聞けば、当時ユエに要求を突っぱねられたその男は怒り心頭のまま部隊長にそのことを訴えたそうだ。
そしてそれを聞いた部隊長は自分の訴えを聞いてくれるどころか逆に叱責されたという。
その部隊長がまともな人で何よりである。
そして話の流れ的にそれもまたユエへの恨みに変わったそうだ。
「後は私や副団長、他の上役達と親しかったのも気にいらなかったそうだ」
「団長や副団長は私の上司でしたし、他の上役の方々は私の立場上と、その人達の部下のやらかしのせいで話すことが多かっただけなんですがね……」
兵站管理部の仕事は多岐に渡るため、あちこちの部署と関わりがある。
必然、その責任者であったユエは各部署や部隊長とも顔を合わせることになり、会議以外で話すこともあった。
それを気に入らないと言われても困るし、文句があるならお前がやれよとユエは言いたい。
「なんだ、やっぱりあいつらの逆恨みかよ」
呆れ混じりにそう言ったのはやはりイクスだった。
ほぼ予想通りとは言え、ユエも思わずため息が出る。
これでまだ騎士だったならさらに頭痛がしていたに違いない。
とは言え今のユエは一介の冒険者なので頭の痛い問題は団長と副団長にお任せだ。
「ユエ」
立ち上がった団長が表情を改め、側に立っていた副団長もまた同じく姿勢を正す。
「何の非もなく不当に解雇をされたこと、本当にすまなかった。お前の騎士としての名誉も矜持も著しく傷つけたことを本当に申し訳なく思う。また、騎士団内の粛清のために助力してくれたことに感謝する」
そう言って、団長と副団長は頭を下げた。
これにユエも姿勢を正す。
「謝罪をお受けします。そして最後に微力ながら騎士団のため助力出来たこと嬉しく思います。私が騎士としてあれたのは団長を始めとする皆様のおかげです。ありがとうございました」
二人に向かって、ユエは最後となる騎士の礼で返した。




