48話 お礼参り②
近付いてきた姿に、ユエは頭を下げ、審判役の騎士は騎士の礼をとった。
それに頷いて返したのは団長で、その後ろに副団長がついている。
「さて……随分と無様な姿だ。たかが平民の雑用係に遅れを取ることなどないと言っていたのは嘘だったようだな」
三人を見下ろす団長の表情も声も厳しい。
これには拘束された騎士も喚くのを止め、二人も苦悶の表情を浮かべながらも団長を見上げた。
「お前達は雑用と馬鹿にした仕事も満足に出来ず、声高に誇った武力でもこの有様。さっきの試合は何だ? 研修中の見習いでもあのような無様な試合はないだろう」
「ぐっ……いえ、これは」
「わ、我々は平民相手に本気を出すのはどうかと手加減を」
「手加減だと? 手加減されていたのはお前達だろうに。そんなことにも気づいてないのか」
団長の言葉に、クスクスと笑う声が聞こえてくる。
それに三人は怒りと羞恥からか顔を歪めるも、動ける状態でないためどうすることも出来ずユエを睨みつけた。
「今の自分の姿がその証拠だろうに、それを理解出来んとはな。……なら分かりやすく見せてやろう」
団長がそう言うと、騎士が三人出てきて土魔法で土の塊を作った。
大きさはニメートル程で、土とはいえ圧縮しているためかなり硬さがあるだろう。
「ユエ、あれを壊してくれるか」
「分かりました」
土の塊の前まで行き、軽く叩いてみるがやはり硬い。
訓練用の模擬剣とは言え騎士団の備品だ、借り物の剣を壊すのは気が引ける。
それに団長の目的を考えればこっちの方がいいだろう。
そう考えたユエは一歩離れ、構えた。
「ふっ!」
身体強化をかけ、構えた姿勢から右の拳を打ち込む。
鈍い音を立てて拳が当たった所が窪み、大きなヒビが入った。
さらに追撃で左を打ち込むとヒビがさらに広がり、三撃目の右で土の塊は音を立てて壊れた。
これには最初、怪訝な顔をしていた者や拳で壊す気かと馬鹿にしていた者達も驚き唖然としていた。
件の三人もまた驚きからか目を見開いて絶句している。
軽く手を叩いて汚れを落としながら戻るユエに、団長と副団長はさも何でもないことのように平然としていた。
「相変わらず見事だな」
「ありがとうございます。身体強化は管理部には必須ですから」
兵站管理部で扱う備品は軽い物ばかりではない。
一つでは軽い物でも複数になれば当然重さは増すし、単体でもそれなりに重い物だってある。
部隊単位での出動や遠征ともなれば必要な備品の種類も量も跳ね上がるのだ。
それを限られた時間で揃えなければならないのだから、身体強化は必須なのである。
なお、二番目は洗浄で、兵站管理部の人間は身体強化と洗浄なら騎士団でも有数の使い手だったりする。
「自分がどれだけ手加減されていたか分かったか?」
団長に聞かれた三人の顔色はあまり良くないが、それでも拘束されている男だけは先程の強さはないがまだユエを睨んでくる。
「お前はまだ理解出来んようだな?」
それを団長が見逃すはずもなく、拘束された男に厳しい目を向ける。
「あ、あんな土の塊を壊したぐらいでこいつが俺より上だなんて認められません!」
「ならばお前もあれぐらいのことは出来ると?」
「勿論です!」
「なら今すぐその拘束を解いてみろ」
「え……」
団長の言葉にそれまで勢いよく返していた男は言葉に詰まった。
「どうした? 出来んのか?」
「い、いえっ」
「簡単だろう? ユエは土魔法に長けた騎士三人で作った土の塊を壊したが、お前を拘束しているそれはユエが土魔法で作ったものだ。先程ユエがやったことよりも簡単なはずだが?」
騎士が三人がかりで作った物とユエが一人で作った物。
まして四肢を拘束しているだけのそれはユエが壊した物と比べるまでもなく小さい。
それでも男が言葉に詰まったのは無理だと思ったからだろう。
自力で解けるならとっくに解いているのだから。
それでもあれぐらいのことは出来ると言った以上、出来ないとは言えない。
平民に出来たことが貴族に出来ないなど認められないのだろうから。
だが拘束を解こうともがきながらチラチラと睨みつけてくるのはどういうことだろうか。
ユエがここにいる目的からして拘束を解くはずもないというのに。
なので、ユエは団長達の後ろから男を見ているだけである。
そしてどれだけもがこうと拘束が解けることはなく。
「ふむ、やはり口だけか」
呆れた目と口調で団長が言えば、男は羞恥からか団長から目をそらしユエを睨みつけた。
それがさらに自分の評価を下げることにも気づかずに。
「お前達は何の権限もなく正式な団員である騎士を解雇し、その後与えられた罰則にも反省せず、あまつさえ与えられた業務もこなすどころか迷惑をかけ騎士団の業務に支障を来たした」
「あんな雑用など騎士の仕事ではありませんっ!」
「剣を持って戦うことこそ騎士の仕事ではありませんか!」
団長の言葉に反論する彼らに、向けられる視線がさらに冷えたが当の本人達は気づいていない。
「ならば兵站管理部同様、人事や経理らの者も騎士ではないと、そう言うのだな?」
「い、いえそれは……っ」
「けしてそんなことはっ」
とっさに否定するもそれ以上言葉が続かず、さらに周囲から向けられる冷めた視線に気づいたのか顔色も悪い。
彼らは団長の言葉でようやく気づいたのだろう、自分達の言った言葉はユエにのみ当てはまるのではないと。
中でも四肢を拘束された男は、自分で自分を否定したということにようやく気づいたのか特に顔色が悪かった。
「騎士団に戦えない騎士など一人もいない。部隊に配属してないとはいえ騎士である以上有事となれば剣を持って戦うのは騎士の本分だ。故に鍛錬は義務でありそれはどこに配属されていようと変わらない。その上で聞くが、兵站管理部や人事、経理の人間を戦わないと批難する意味をお前達は理解しているのか?」
「……え」
「いえ、それ、は……」
三人を見る団長の目は厳しい。
それは副団長もであり、他にも各部隊の隊長や意味を理解している者達もまた同じだった。
「裏方である彼らが戦うのであれば、それは各部隊に甚大な被害が出たということだろうが。もしくは魔物暴走に相当する有事が発生したか」
「あっ」
「……っ」
「そのどちらでもないというのであればそれは各部隊に実働隊としての実力がない、あるいは不足しているということだ。お前達は自分を含む各部隊の実力不足を訴えたかったのか? そうであれば俺に直接言えばいいものを」
「い、いえとんでもありませんっ!」
「私はけしてそんなことは!」
「実力不足だなんて思ってませんっ!」
三人は悲鳴のように否定する。
彼らにそんなつもりはなかっただろう。
だが彼らがユエに対して言った言葉はそう捉えられても仕方がない。
ユエがクビになった理由を聞いたヒューイだって言っていたのだから、『裏方の人間が戦闘に出るって非常事態なんじゃないの?』と。




