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46話 イストからの訪問者③

誤字脱字報告ありがとうございます。


「えーと、聞き間違いでしょうか。今、叩きのめしてくれとか聞こえたような」


「間違ってないぞ。それで合ってる」


「…………それは言葉でですか?」


「まともに話が出来るならこんなことにはならん。物理的にだ」


あまりにも物騒なオズワルドの頼み事に顔を引き攣らせたユエだったが、すぐにその理由に思い当たった。


「あー……もしかして戦うのが騎士の仕事だーとか言ってるんですか?」


「そうなんだ。こんなのは騎士の仕事じゃない、剣を振って戦うのが騎士だとな」


「は? バカなのかそいつら。騎士の仕事は国と民を守ることだろうが」


イクスの正論にオズワルドもユエも頷く。


国と民を守るのが騎士の仕事であって、戦うのはその結果に過ぎない。


それこそ戦うだけなら冒険者でも傭兵でもいいのだから。


「その通りだ。騎士に強さが求められるのは事実だが、だからと言って裏から支えている人間を貶していい理由にはならん。だがそれを言ったところで理解出来んようなのでな」


「それで叩きのめしてその考えを改めさせようと、そういうことですか」


「そうだ。こう言っては何だが、連中はお前が自分達より弱いと思っている。連中の騎士の価値は戦うこと――つまりは強さだ。なのでそれをへし折ってやれば少しは考えを改めるかと思ってな」


つまり、相手の騎士としての矜持をへし折ろうということらしい。


だが、正直そこまでするほどのことなのか。


団長の叱責も聞かず反省すらしないのであればそれこそ除団させたほうが早いだろうに。


「連中だけならクビにすれば済むが、似たような考えの者は他にもいるからな。これを機にバカな真似をさせないようにしたい。平民が相手なら横暴を働いても大して咎められないという前例を作るわけにもいかん」


見せしめも兼ねているのかとユエは納得した。


他の平民出身の騎士のためにもなるならば、断る理由もない。


「そういうことなら私は構いません。ただ、今受けている依頼がまだ数日残っているのでその後になってしまいますが」


「勿論それで構わない。無理を言っているのはこちらなのでな」


オズワルドが頷いたところで隣のイクスに目を向けると――


「俺も構わないぞ」


とてもいい顔で笑っていた。


「……楽しそうだね、イクス」


「そりゃな。だってユエは堂々とクビにした連中に仕返し出来るんだろ」


「仕返し……」


「まあ、間違ってないな」


イクスの言葉にオズワルドも頷く。


悪しき前例を作らないためという理由だが、やる事を考えれば確かに仕返しだ。


「この際だ、今までの鬱憤もぶつけてやるといい。今回ばかりはある程度までなら好きにやってくれていいぞ」


「いや好きにってそんな……」


「さすがに死んだり腕を落としたりは困るがな」


「いやしませんよ、そんなこと」


自分はオズワルドにどんな人間だと思われているのか。


そんな物騒な人間だと思われていたのかとちょっとショックなユエである。


「骨の二、三本は問題ないよな?」


そして何故かそんなことを聞いたのはイクスだった。


「問題ない。中級治療ポーションで治るレベルなら好きにやってくれ」


その言葉に団長の本気が伺えた。


見せしめにする以上、多少の怪我は仕方ないのかもしれないが、骨が折れるぐらいは問題ないとは。


騎士の訓練でも骨にヒビが入ったり骨折することはあるので、一般的な認識ほど重くはないのかもしれないが。


「良かったな、ユエ。折ってもいいなら手加減も楽だろ」


骨折を前提に話をしないで欲しい。


確かに多少は気を遣わなくていいのでやりやすいのは事実だが。


手加減というのはある程度、実力差がなければ出来ない。


それこそオズワルドやイクスなら手加減も余裕で出来るのだろうが、彼らほどの実力のないユエには難しい話である。


「魔法は大丈夫ですか?」


「勿論だ。剣も魔法も体術も騎士ならば使うからな。御前試合でもないから剣以外でも問題ない」


魔法を使ってもいいなら何とかなるかとユエは考える。


「ちなみに相手は何人ですか?」


「三人だ。お前にクビを突きつけた奴の他に二人だな」


「三人か、なら余裕だな」


ゴブリンが三匹ならともかく、相手は現役の騎士である。


そんな簡単に言わないで欲しい。


だがアリークでの大繁殖を思えば相手が騎士とは言え三人なのでマシかもしれない。


「場所は第一訓練場でやるから遠慮なくやっていいぞ」


第一訓練場は騎士団の中でも一番大きな場所である。


魔法対策もしてあるので、集団戦闘の鍛錬によく使われる。


「……三人を叩きのめすだけなのに広すぎませんか」


「見せしめにすると言ったろう? 観客は多いに越した事はない」


観客という言葉にもはやオズワルドの中では娯楽扱いになってるのかもしれない。


見せしめにするのだから、人づてに聞くよりは実際に見てもらった方がいいのは確かだが。


「形式としては三対一の一本勝負。一度に複数を相手にしてもらわなければならんが、その上で勝てばより見せしめになるだろう」


「……ふと思ったんですが、仮に私が勝っても女相手に本気は〜、とか言いませんか」


「それならそれで三人いて女一人を拘束も出来ないのかと実力不足を咎める理由になるし、何より自らの言葉を証明するためにはそんな戯言は許されんだろう? 戦わない(・・・・)とクビにした相手に負ける奴など騎士団に必要あるまい?」


それはつまり最終的にその三人がクビになることは決定しているということではなかろうか。


「それに今回ばかりは多くの者がこちらの味方なのでな。多少、羽目を外しても問題ない」


「そうなんですか?」


「お前に対する暴言に該当する人間が他に何人いると思う? 人事部長を始め内勤の騎士達は激怒してるぞ」


「あぁ……確かに」


雑用は兵站管理部の仕事内容のことを言っていたにしても、『戦わない騎士は必要ない』はユエ以外にも該当者が多くいる。


というより、内勤担当の騎士は全員該当者だ。


ちなみに内勤担当の中には当然貴族出身の者もいるわけで。


終わったな、と思ったのは悪くないだろう。


たぶん誰が聞いても同じことを思う。


現に隣でイクスも「うーわ、そいつら終わったな」と串焼きを齧っている。


「俺も着いてっていいよな? 勿論、邪魔はしないから」


「こちらは構わない」


オズワルドの了承に満足げにするイクスに、ユエは苦笑する。


「ダメって言っても着いてくるんでしょ?」


「当たり前だろ。こんな面白そうなこと見逃せるかよ。ダンジョン行くより楽しいじゃねぇか」


こちらも娯楽扱いである。


まあ言ったところでこの様子だと聞かないのは分かっているので、ユエも反対するつもりはない。


「じゃぁ、依頼が終わり次第レリウスへ向かいます」


「ああ、頼む」


こうして、二人のレリウス行きが決まった。


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