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41話 お喋りはスイーツと共に②

誤字報告ありがとうございます。



「さっきの何故貴女に、という質問の答えだけれど、一番最初に言った『話してみたかった』が答えよ。ヒューイから聞いてはいたけれど、ギルドで実際に会って話してみたいって思ったのよね」


それは興味を持たれたのかそれとも商人としての直感的な何かなのか。


それはともかくヒューイが自分のことを何と言っていたのかが気になる。


「甘い物は美味しいけれど、あまり食べられないのが残念ね」


生クリームたっぷりのケーキを口に入れ、紅茶で一息つきながらアイザックは残念そうに皿を見る。


お互いの皿にはケーキとタルトがそれぞれ半分ほど残っていた。


アイザックとしては値段ではなく量の問題なのだろう。


自分の皿にあるタルトを見て、確かにとユエも思った。


「サイズが小さければもう一個食べられるんですけどね」


「小さくって、どういうことかしら?」


思わずぽろりと出てしまった言葉に、アイザックが不思議そうに聞いてくる。


「例えばなんですけど、ケーキとタルトでどっちにしようか悩んでいたとして。どっちも食べたいけど二つだと量が多い。でもサイズが半分くらいに小さければ二つ食べても大丈夫、みたいな」


「それは……いいわね。確かにサイズが元の半分なら二つ食べても一個分。しかも二種類食べたという満足感もある」


「お得感ありますよね。サイズが小さいと二つ食べても罪悪感が小さいですし」


『二つ食べたけど小さいから大丈夫』という魔法の言葉が使えるのだ。


食べたことには変わりないが。


「それに小さくなれば値段も下がると思うので、頼みやすいですし」


例えば銀貨一枚するケーキの半分サイズを銅貨七枚で売るとする。


同じ値段の違う種類のケーキと悩んでいて、半分サイズを二つ買うとすると値段は銀貨一枚と銅貨四枚だ。


つまり、銅貨四枚で両方食べられるのである。


どっちか選んで大きい方を食べるか、それとも小さくても銅貨四枚出して二種類食べるか。


なお、ユエなら銅貨四枚出して二種類食べる。


「大変興味深いお話ですね。私も聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」


「え?」


テーブルの横、にこやかに微笑む店員に遮音の魔道具は? とアイザックを見れば、商人の顔で笑っていた。


どうやらアイザックが呼んだらしい。


「こちら当店で人気のクッキーです。よろしければどうぞ」


しかもクッキーのおまけが付いてきた。


アイザックがただの店員を呼ぶとも思えないので、おそらくは店長ではなかろうか。


商業ギルドの副ギルド長にケーキ屋の店長に冒険者。


どんな組み合わせだろうか、これは。


ユエが遠い目をしている間にアイザックがさっきまでの話をしたらしく、店長は驚いてはいたものの、商人の顔で聞き入っていた。


「それはいいかもしれません。ですがそうなるといくつか種類が必要になりますね」


「数が少なければ選ぶ楽しみがないし、かと言って増やし過ぎてもねぇ」


「それなら最初からお試しセットみたいな感じで二種か三種盛りで出したらどうですか?」


そう言うと、二人の視線がユエに向いた。


「お試しセット?」


「三種盛り、ですか?」


アイザック、店長の順に聞いてくるその目が説明を求めている。


「えっとですね、小さいサイズで単品売りするんじゃなく、三種類ぐらいの小さいサイズを一纏めにして売るんです。例えばロンネフェルトさんのケーキと私のタルト、クッキーの三種類を一つの皿に載せて」


「なるほど。一皿で三種類が楽しめるということですね」


「それも面白そうね」


「試してみる価値はありますね。数を揃えるのはそれなりに手間がかかりそうですが」


「あー……じゃぁ、いっそのこと数を制限するとか。一日限定十皿とか。限定品て聞くと特別感がありますよね」


それを聞いた二人は目を丸くした。


「……数を制限」


「……増やすんじゃなくあえて減らすのね。そうすることで商品そのものの価値を上げることになる」


それぞれに考え込んでいる中、ユエもタルトを味わいつつ前世のことを思い出しながら考える。


「種類も日替わりにしてみるといいかもしれませんね。店側が食べてもらいたいって思ってるのを入れれば宣伝になるし、何なら新しいケーキを出す時に宣伝がてら入れてみたりとか。それで気に入ってくれたら売り出した時に買ってくれるかも……」


つらつらと考えていることを口に出し、感じる視線に目をやると二人がとてもいい顔で笑っていた。


威圧とは別の圧を感じ、思わず後ろへ身を引くがすぐにイスの背に当たる。


「えっと……その、何か素人が偉そうにすいません」


何だが圧が怖くて思わず謝った。


「あら、急にどうしたの? 別に怒ってなんてないわ」


「そうですとも。怒るだなんてとんでもない。ああ、すっかり紅茶が冷めてしまいましたね。今、新しいのを用意しましょう」


冷めたからと新しいのを淹れてくれるサービスなどなかったはずだ。


有料ならいらないし、無料なら怖い。


何だか逃げ道を塞ぎにかかっているような気がする。


幸いタルトは食べ終わったし、新しい紅茶が来る前に撤退しよう。


「クッキーもどうぞ。他のお客様にも評判がいいんですよ」


「あ……はい、ありがとうございます」


ユエが何かを言う前に、店長が微笑みながらクッキーを勧めてきたことであえなく失敗した。


そしてユエがクッキーを一枚手に取ったところで、冷めた紅茶が新しいものに交換される。


完全に逃げ道を塞がれた。


内心冷や汗をかきつつ手に取ったクッキーを齧る。


バターの香りと甘さが丁度よく、思わず「おいしい」と声に出していた。


「ありがとうございます。お客様にそう言って頂けるのが何よりも嬉しいですね」


素直に味の感想を口にしたユエに、店長も満足気に微笑む。


そんな店長を見て、おそらくこの人もお菓子を作るんだろうなと思った。


ユエは三口で食べたが、男なら一口か二口で食べられそうなサイズのクッキー。


それと新しく淹れてくれた薄く湯気の立つ紅茶を見て、ふと思い出す。


前世でよく行っていたケーキ屋はここのように店内で食べられるようになっていて、ドリンクに必ず小さいクッキーやプチシューがついていた。


ホットのコーヒーや紅茶の場合はソーサーに、それ以外だと小さな皿に乗っていて、ちょっと嬉しかった覚えがある。


そして帰り際、レジの横にクッキーやプチシューが並んでいて美味しかったからとお土産に買って帰ったこともよくあった。


なので前世云々は抜きにして、ドリンクにおまけでクッキーを一枚つけてみてはどうか、会計の近くにクッキーも並べてみてはどうかと言ってみた。


当然、二人とも何故かと聞いてきたので、そうすればケーキを食べに来た客がクッキーを気に入ってお土産に買って帰るかもしれない。


会計の近くに置けばその場で買えて支払いも一緒に出来るから買いやすいかもと言えば、なるほどと頷いた。


ユエも自分とイクスへのお土産に買って帰ろうと思っている。


飲みやすい温度になった紅茶を飲んで喉を潤し、二枚目のクッキーに手を伸ばす。


自分が話せることなどこれぐらいだ、何しろ前世はしがない契約社員だったので商売の知識などあるはずもない。


少しは役に立てばいいけれどと、三枚目のクッキーを食べ紅茶を飲み干す。


「ごちそう様でした」


「あら、まだ残ってるわよ?」


「? 残りはロンネフェルトさんの分ですよ?」


ユエはきっちり半分、美味しく頂いた。


なので残りはアイザックの分である。


「私はいいわ。貴女が全部食べなさいな」


「え? でも……」


このクッキーは自分とアイザックの二人にではないのかと店長に目をやれば、ニッコリと笑った。


「アイザックさんもこう言ってますので、どうぞ遠慮なく」


「えっと……じゃぁ、持ち帰りしてもいいですか?」


アイザックと半分だと思って食べたが、これ以上はさすがに夕食に差し支える。


なのでそう言えば、店長は笑顔で「どうぞ」と言ってくれたので紙を出してクッキーを包んだ。


「じゃぁ、私はこれで。会計を――」


「ああ、お代は結構ですよ」


お願いします、と言う前に笑顔の店長に遮られた。


「あら、私が払うわよ? 元々そのつもりだったし」


店長の言葉にも驚いたが続いたアイザックの言葉にも驚く。


そんなユエを見て、アイザックは楽しそうに目を細めた。


「なぁに、その顔? 私がお茶に誘ったんだから当然じゃない?」


何が当然なのだろう、ユエはしっかり払うつもりだったのだが。


「いえいえ、アイザックさんの分も結構ですよ。大変素晴らしいお話を聞かせて頂きましたので。それでお代は十分です」


「あらそう。だ、そうよ? 良かったわね」


「……え、え? いえ、でも……」


本当にいいのかと二人を交互に見るが、いい笑顔を向けられたので気は引けたが有り難くお礼を言った。


さらに「これもどうぞ」と持ち帰り用のクッキーまで渡されさすがに断ろうとしたのだが、「感謝の気持ちですので、どうぞお持ちください」と笑顔と共に渡される。


結果、ユエはお土産まで貰って二人に何度も礼を言って店を出たのだった。


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