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34話 初ダンジョン⑥


ダンジョンは当面の間立ち入り禁止――とはならず。


当日こそ調査と安全確保のために立ち入り禁止となったが、翌日から一部を除いて開放された。


魔物の死骸は一晩も経てばダンジョンに吸収されてしまうので、ギルドも調査を急いだらしい。


その結果、ゴブリンの巣にいたのはホブゴブリンが一匹にゴブリンが七十八匹。


トーマス達や蒼の星が道中に倒したのも含めれば百匹近くにもなり、その数を聞いた誰もが顔色を変え顔を引き攣らせた。


ユエとイクスは説明のためにギルドに呼ばれることもあるが、何もしないのもつまらないとダンジョンに潜ったり街の周辺で魔物を狩ったりしていた。


他にも宿代が浮いたので買い物をしたりちょっと良い物を食べたりもしている。


そしてゴブリンの討伐から数日、お見舞いがてらトーマス達に会いに来た。


リーダーのトーマス、剣士のユーゴ、魔術師のアルヴィン、そして盾役のセルド。


改めて自己紹介してもらい、二人もまた自己紹介した。


セルドは完治とは行かずとも、起き上がれるぐらいには回復したらしい。


もう数日したら拠点にしている街に帰るそうだ。


「本当にありがとう。俺がこうしていられるのもあんた達のおかげだ」


ベッドに起き上がった状態でセルドが頭を下げると、三人も頭を下げた。


「気にするな。それに礼ならトーマスから十分過ぎるほど聞いてる」


「それでもだ。どんなに感謝してもし足りない、特に俺は」


苦笑するセルドに、三人が気遣わしげな目を向ける。


おそらくは倒れてしまい足を引っ張ってしまったことを気にしているのだろう。


「あなたがホブゴブリンの攻撃を凌いだからこそ、私達が間に合ったんじゃないですか。でなければ皆さんはもっと危なかったのでは?」


三人にちらりと目を向ければ「そうだ」「彼女の言う通りだ」「お前が防いでくれたからだぞ」と、口々に同意する。


「しかし……俺はホブゴブリンの攻撃を一発食らっただけで使い物にならなくなったんだ」


そのまま「情けない……」と俯くセルドに、ユエは内心、首を傾げる。


「でもそれってあれですよね。あの丸太みたいな棍棒で、ですよね?」


「……そうだ」


「なら仕方ないんじゃ? と言うか、あれをまともに受け止めた上で生きているなら十分な気がしますが」


何しろ相手はホブゴブリンである。


体格こそ成人男性ぐらいだが、魔物ゆえに見た目より力も強く軽々とゴブリンを投げつけてくるほどだ。


イクスと戦っていた時も振り下ろした棍棒が地面に当たった衝撃が離れたユエのところまで来ていたのだから、その威力が知れる。


それにだ、セルドが倒れた時に彼らはなけなしのポーションをセルドに使ったらしい。


それで重傷ながらも何とか耐えていたのだからセルドの頑丈さも相当だ。


並の人間なら盾越しとは言え五体満足では済まないだろうし、最悪、死んでいてもおかしくない。


「悔しいなら次にホブゴブリンに会った時に盾でぶん殴ってやればいいですよ」


「は?」


「え」


「ぶん殴……っ」


四人は呆気に取られたような顔をしているが、ユエは至って真面目である。


「今回のホブゴブリンはもう倒したけど、冒険者してればまたどこかで出てくるかもしれないじゃないですか。その時に思いっきり盾でぶん殴ってリベンジしたらいいです」


「……リベンジ」


「攻撃を受けた時に盾も壊れたんじゃないですか?」


「あ、ああ。使い込んでいたし、古くはなっていたんだが」


「なら盾を壊された恨みも込めてやればいいですよ」


「…………盾を壊された恨みも込めて、か……。……ふ、くっ……ははっ!いてて」


堪えきれないと言った感じでセルドが笑い出し、傷に響いたのか傷みに顔を顰めるがそれでも笑いは収まらない。


「ああ、そうだな。壊された盾の恨みも込めて次に会った時には盾でぶん殴ってやろう。古くはなっていたが、あの盾は気に入ってたんだ。絶対にリベンジしないと」


「ああ、ああそうだな!」


「思いっきりぶん殴ってやれ、セルド」


「いや、盾って殴るものじゃ……」


やる気を出したセルドを励ますようにトーマスとユーゴが同意する中、盾で殴るという使用方法に戸惑うアルヴィンに、それならとさらにユエは続けた。


「殴るのがダメなら体当たりでもいいですよ。盾だって使い方次第では鈍器です。盾役が攻撃出来ないなんてことないんですから、何でもやりようです。それで最終的に自分がスッキリしたらそれでいいじゃないですか」


「……鈍器」


「ぶはっ!」


「あっはっは! 確かに!」


まさかの鈍器発言にアルヴィンは顔を引き攣らせ、三人は笑った。


隣ではイクスも堪えきれなかったのか肩を揺らしている。


笑っている仲間を見て、アルヴィンもまた釣られるように笑った。


さっきまでの暗い雰囲気はどこへやら、部屋の中は明るく笑い声に満ちている。


何より、足を引っ張ったと気に病んでいたセルドは吹っ切れたのかその表情に憂いはない。


これなら大丈夫だろうと、ユエも表情を(やわ)らげた。


「そう言えば、二人はいつまでここに?」


一頻(ひとしき)り笑った後、目尻に浮かんだ涙を拭いながらトーマスが聞いてくる。


「俺達も数日だな。調査が終わればいる必要もないから元の街に戻るつもりだ」


「そうか。出来ればちゃんとした礼がしたいんだが、何分今は先立つ物もなくてな……すまない」


「気にするな。ギルドから見舞金が出るだろうが、全員武器や防具の修理に新調しなきゃいけないんだ。そんな相手に(たか)る気はない」


「だが、せめてポーション代だけでも……」


「ああ、それは……」


イクスが視線を寄越し、それに合わせて四人の視線もユエに集中する。


イクスとしては四人に使ったポーションはユエ個人の物なので、自分が答えるわけにはいかないと思ったのだろう。


ユエとしても経済的に厳しいと分かっている相手に請求する気はないし、おそらくそれも含めてギルドから報酬が出るような気がする。


とは言え、四人がそれで納得出来るかは別の話なので、代案を出すことにした。


「代金はいいので、目出度くリベンジ出来たらご飯でも奢って下さい」


「……は? いや、リベンジ出来たらって……そんなんでいいのか?」


「だってリベンジ出来たか気になるじゃないですか。なので酒の肴にその話も聞かせて下さいね」


セルドはやる気になっているし、三人も同じだろうから彼らなら必ずホブゴブリンにリベンジ出来るだろう。


その話を肴に食事を奢って貰えるならきっと楽しいに違いなく、ポーション分の価値はある。


「……ああ、分かった。その時は目一杯奢らせてもらうよ」


そう言ってトーマスだけでなく、三人も穏やかに笑う。


それを見て「やっぱりお人好しだよな」と、イクスは微笑(わら)った。


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