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30話 初ダンジョン②


奥へ進むと、次に出てきたのは転駆虫(ロールバグ)だった。


見た目は巨大なダンゴムシで、通常の動きは遅いが体を丸めて転がり、スピードをつけて体当たりしてくる。


その威力は侮れず、甲殻が硬いので勢いをつけて当たると吹っ飛ばされるし、そうでなくとも骨が折れる。


なので体を丸める前に倒すのが基本で、板を重ねたような甲殻の隙間か腹側を狙う。


転駆虫は背中の甲殻が鎧の材料になるのでゴブリンよりも高く売れる魔物だ。


さっきはイクスが瞬殺したので、今度はユエが丸まる前に甲殻の隙間から頭を貫いて倒した。


売れる甲殻だけを剥ぎ取って、残りは端に寄せて先へ進む。


人気(ひとけ)がない方へ進んでいるだけあって他の冒険者と会わない。


それだけこのダンジョンが広く入り組んでいるというのもあるだろうが、ダンジョン初心者のユエには有り難いことだった。


おかげで人目を気にせずに先輩(イクス)から教えてもらえる。


他にも両手ぐらいのサイズの眠蛾(スリープモス)が出てきて、これには鱗粉に睡眠効果があるので羽だけを取って紙に包んだ。


大きな物はイクスの、小さな物はユエの魔法鞄に入れて探索を続ける。


ゴブリンや虫系の魔物を狩りつつ進み、少し開けた場所に出たので、周囲に魔物がいないことを確認して休憩することにした。


「大丈夫か? 疲れてないか?」


「大丈夫。入ってからどれぐらいかな?」


「二時間ぐらいじゃないか。景色が変わらないと時間の感覚が狂うからな」


ダンジョンという閉鎖空間故に景色に変化がなく、時間の感覚が狂うらしい。


体感としてはもっと時間が経っているような気がしたが、慣れないダンジョンに無意識に気を張っているのだろう。


入ってからずっと歩いているし、苦戦こそしてないが戦闘もしている。


干し肉の塩分がいつもより美味しく感じるのはそれだけ体力を消費しているということだ。


なので干し肉だけでなく、ドライフルーツも一つ口に入れておいた。


「まあ、何度か潜れば慣れるよ」


時間の感覚が狂うのはダンジョンに慣れるのを待つか、魔道具のタイマーを使い時間を確認するしかない。


時計を持てばいいのかもしれないが時計は高級品である。


魔道具のタイマーも安くはないが時計よりは手が届き易いので、愛用する冒険者は多いとのことだった。


「無理をしないのは当然だけど、慣れるまでは食料の残り具合や、体の疲れ具合なんかで判断するしかないな」


「ああ、森と違って食料を現地調達出来ないもんね」


今の所、売れる素材は手に入れても食べられる物は見つけてない。


なので手持ちの食料は減っていくばかりだ。


「出来ない訳じゃ無いが、森に比べたら少ないからな。ダンジョンにもよるが肉系の魔物が一番手に入れやすい」


そうは言っても今まで肉系の魔物には遭遇していない。


出てきたのはゴブリンと虫系の魔物だけである。


虫系の魔物も食べられないわけではないが、飢え死にするでもなければ食べたい物ではない。


イクスはどうしていたのかと聞けば食料の残り具合で判断していたそうで、体力に余裕があっても引き返すようにしていたと言う。


腹が減っては戦は出来ぬは、異世界でも共通事項だ。


「もう少し奥まで行ったら戻るか」


「了解。ここってゴブリンか虫しかいないのかな」


「兎や蜥蜴(とかげ)もいたはずだけどな。まあその内出てくるだろ」


休憩を終えて探索を再開する。


その内出てくるとは言ったが、それ以降も出てきたのはゴブリンと虫ばかりだった。


転駆虫が五匹出てきた時には、丸まって体当たりしてくるのをイクスが蹴り飛ばして、当たった壁がへこみ落ちた転駆虫がぐたりと伸びた。


これが人間なら骨の二、三本どころか内臓が損傷していてもおかしくないが、魔物なので手加減しなかったのだろう。


厚底のブーツに鉄板が入っているとはいえかなりの威力である。


ゴブリン相手には冷静になったのか最初のように瞬殺することはなかった。


それでも首を一刀で落とすのは変わらず、他の魔物に比べると苛ついていたが。


やはり繁殖対象として見てくるのは腹が立つらしい。


しかもイクスとの体格差から余計に弱そうに見えるのか、何故かゴブリンは興奮状態で文字通り目の色を変えてユエを狙ってくるので余計にイクスが苛立っていた。


一瞬『ゴブリンまっしぐら』などと考えたが、すぐに全然嬉しくないと頭から追い出す。


ゴブリンにまっしぐらされても嬉しくないし、何なら出る度にイクスが舌打ちするのでそろそろゴブリンはもういい。


とりあえず夕食は肉かな、と考えているとイクスが足を止めた。


「そろそろ引き返すか」


断る理由もないので頷き、来た道を引き返す。


討伐した後なので行きに比べて帰りはほとんど魔物が出てこなかった。


それでも全く出ないという訳ではなく、転駆虫や蛾などは出る。


来る途中で倒した魔物の死骸も、入口に近づくにつれダンジョンに吸収されていた。


甲殻を剥いだ転駆虫など、すでに足と頭しか残っていない。


時間が経てば硬い甲殻もダンジョンに吸収されるらしいが、柔らかい体よりも時間がかかるのだろう。


イクスによると魔物の強さでも吸収される時間が変わるらしく、強い魔物は時間がかかり、弱い魔物は早く吸収されるとか。


ゴブリンや転駆虫はそれほど強い魔物ではないので、吸収されるのにそんなに時間はかからないとのことだった。


運が良かったのかユエの願いが叶ったのか、帰りにゴブリンが出て来ることはなく、入口が見えたところでユエはほっとした。


外に出ると日が傾き始めた頃合で、門番に軽く挨拶をして街へ戻った。


同じように探索を終えて街へ戻った他の冒険者はその足でギルドへ向かったが、二人は市場へと向かう。


今の時間、ダンジョン探索を終えた冒険者達が買取のためにギルドに行くので混むそうだ。


順番待ちをして並んだところで査定には時間がかかるし、急いで買い取ってもらう必要もない。


それなら買取は明日の朝にして先に夕食にしよう、となったのである。


時間からしてこれから混んでくるのだろうが、比較的空きのある店に入り料理と酒を頼んだ。


客層が冒険者だからか全体に食べ応えのある肉系の料理が多く、量も多い。


ダンジョンでは干し肉やドライフルーツしか食べてなかったので、出来立ての湯気の立つ料理は匂いも相まって胃を刺激する。


今日はいつもより食べれそうだと、野菜スープを食べつつユエは肉料理に手を伸ばした。


人気(ひとけ)のない方とは言え、ゴブリンと虫しか出なかったな」


怪訝そうな表情(かお)でイクスがこんがり焼けた骨付き肉を囓る。


「人があまり来ないからたまたま溜まってたとか?」


「虫はともかくゴブリンは人のいる方へ行くもんなんだけどな」


「あー……、なるほど。それで……」


ゴブリンが興奮状態だった理由が分かった気がした。


ユエとイクスが久々に来た人間(えもの)だったなら、それは興奮するだろう。


餌だけならゴブリンは雑食なので何でも食べるが、人間は繁殖と娯楽も兼ねた御馳走である。


「普通のゴブリンだったけど、あれにホブやメイジが入ってたら危ないよね」


上位種が同じような興奮状態で出てきたら危険だ。


ゴブリンメイジは大きさはゴブリンとそう変わらないが魔法を使ってくるし、ホブゴブリンは体も大きくなり大人と同じぐらいにまでなる。


小さくても危険な魔物が大きくなり魔法を使うようになるのだ、危険度は跳ね上がる。


「俺とユエが今日狩ったから、しばらくは溜まることもないだろうけどな。でも明日ギルドに行ったら報告だけしとくか」


「そうだね。何があるか分からないし」


たかがゴブリン、されどゴブリンである。


相手は魔物で、大繁殖の可能性もある危険な生物だ。


その情報をどう判断するかはダンジョンを管理しているギルドに任せればいい。


そうと決めた二人は明日の予定を立てつつ、テーブルに並ぶ料理を堪能した。


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