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29話 初ダンジョン①


ローダスから二日ほどの場所にアリークはある。


王国西部では誰もが知っているダンジョンで、アリーク自体がダンジョンのために出来た街だ。


そのため冒険者が多く、冒険者向けの店が多い。


ユエとイクスが着いたのは夕方で、まず最初に宿を確保した。


ダンジョンの街だけあって宿屋はたくさんあるが、安全を考えればそれなりの店が良いというイクスの意見もあり、何軒か回って二人部屋を借りた。


二人部屋を借りたのは個室が空いてなかったのもあるが防犯のため、そして二人が同室なのを全く気に(・・・・)しなかった(・・・・・)からである。


宿屋の従業員や他の客から探るような目で見られたが、二人の間にやましいことは一切ない。


親友であり幼馴染みであり姉弟のようなものなので、男女のあれこれなど欠片もない。


なので二人は外で夕食を取り、部屋に戻って明日の予定を話し合うと、洗浄をかけて旅の汚れを落としさっさと寝た。


念の為にユエが結界を張ったので、数ある宿の中でも群を抜いて安全だったのは余談である。


空が白み始めた頃に目を覚ましたユエは、しばらく寝ぼけた状態でベッドの中にいた。


目が覚めても横になった状態でしばらくぼーっとするのがユエの癖だ。


休みで体が疲れているとそのまま二度寝に入るが、寝ぼけた状態でもここがどこかを分かっていたのでベッドの中でゆっくり覚醒する。


八割方目が覚めたところで起き上がれば、イクスはまだ寝ていた。


魔法鞄からコップを出し、魔法で水を入れてまずは目覚めの一杯。


渇いた喉に水が染みる。


顔を洗おうと部屋を出て、共同の洗面所で顔を洗い部屋へ戻ると、イクスが起きていた。


「おはよう、イクス」


「……はよぅ………」


眠そうなイクスに水を差し出せば、しっかり受け取って一気に飲み干す。


空のコップを返すと、欠伸(あくび)をしながら部屋を出ていった。


そして、タオルで顔を拭きながら帰ってくる。


「お茶飲む?」


「……飲む」


お茶と言ってもユエが森で採ってきた物を適当にブレンドした物だ。


朝なので少し濃いめに入れたそれを飲むと、イクスは完全に目が覚めたようだった。


ゆっくりしている間に外が明るくなり、賑やかな音が聞こえてくる。


ダンジョンの街なだけあって朝が早いらしく、既に市場が開き賑わっているようだった。


身支度を整え市場に行くと、立ち食いの店があったのでそこに入り、名物だという具沢山の麺を食べた。


それから市場を見て回り、足りない物や気になった物を買ってダンジョンへ向かう。


ダンジョンまでは道が整備されていたので歩きやすく、他にも同業者がダンジョンへ向かっていた。


ユエ初のダンジョンは、一見して入口は洞窟と変わらなかった。


洞窟と違うのは入口に門番がいることだろう。


ダンジョンは危険なためアリークでは冒険者以外の立ち入りを禁止しているらしく、門番と言っても冒険者証の確認をしているだけで、見せれば何の問題もなく中に入れた。


「明るい?」


ダンジョンに入ってすぐの感想がこれだった。


入口に比べれば少し暗いが、見るのに困らない程度に明るい。


「ダンジョンは魔素が濃いからな。それに反応して壁の中の鉱石とか微生物とか、苔なんかが光るんだと」


「へ〜、そうなんだ」


言われてみれば確かに壁が光っているし、はっきりと光っている苔もある。


それが洞窟の壁全体に広がっているのでこれだけの明るさを保っているのだろう。


日本にも光る茸はあったはずだし、蛍やホタルイカなどの光る生物もいた。


どれも前世で見たことはなかったが、こうして転生後の異世界で光る壁や苔なんかを見ているのは不思議なものだ。


だが、それに感動するかと言えばそうでもなく、明かりがいらないので便利だなとしか思わない。


転生して二十年も経てばこんな物である。


今の所、明かりがいらないこと以外は洞窟と変わらないようで、ユエの中では大きな洞窟という印象だ。


高さがあるので閉塞感もあまりなく、まだ入口付近だからか魔物も出てこず、これと言って採取するような物も見当たらない。


目が慣れたので視界が利くようになったぐらいだろうか。


他の冒険者と鉢合わせると面倒だとイクスは人気(ひとけ)のない方へと進んだ。


「お、何かいるな」


イクスの視線の先にいたのはゴブリンだった。


子供ぐらいの体格に暗い緑色の皮膚、どこかアンバランスな細い手足に申し訳程度に腰にボロ布のような物を巻いている。


それが三匹、それぞれに棍棒や刃の欠けた短剣を持っていた。


ゴブリンは繁殖力が高くダンジョンでは定番の魔物だ。


魔物暴走(スタンピード)の要因にもなりやすく、放って置くとあっという間に増えて上位種のホブゴブリンやゴブリンメイジに成長する。


加えて特徴的なのは人間を好んで襲うところだろうか。


ゴブリンにとって人間は餌であり繁殖対象でもある。


このゴブリンも二人を獲物として捉えたらしく、不揃いな尖った歯を剥き出しに奇声を上げ走り出した。


弱い方を狙うのは魔物も同じなようで、三匹共に狙うのはユエだ。


「あ」


それに合わせてユエが動くよりも早く、ゴブリンの首が飛んだ。


惰性で進んだ首無しの体が倒れ、支えを失った頭が転がる。


断末魔もない一瞬のことだった。


「ムカつく顔でユエを狙ってたから、つい」


いつの間にか剣を手に前に出ていたイクスを見れば、息絶えたゴブリンに顔を顰めながらそう言った。


ゴブリンは明らかにユエを繁殖対象(・・・・)として狙っていた。


小柄な女だし、三匹でかかれば簡単に捕まえられると思ったのだろう。


それにイクスが怒り、瞬殺したのだ。


「まあ、うん……。ありがとう」


ゴブリンを相手に遅れを取ることはないと知っているのに、それでも許せなかったらしい親友にユエは苦笑した。


ゴブリンは食用にも素材にもならないが、討伐すると安いながら報酬が出る。


討伐証明として右耳を持っていけばギルドで換金してくれるので、落ちた頭から右耳を切り取った。


残った死骸はどうするかと言うと、邪魔にならないよう端に寄せておけば半日ほどでダンジョンに吸収される。


他の魔物が餌として持っていくこともあるらしいが、何もなくとも骨も残らず綺麗に無くなる。


なので疫病や毒の発生といった二次被害がなければ、邪魔にならないよう端に寄せれば問題ないとのことだった。


これが外なら穴を掘って燃やして埋める必要があるので、手間いらずで何よりである。


死骸を端に寄せれば、地面に残った血の跡は既に吸収され始めていて消えつつあった。


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