28話 ダンジョンと洞窟の違い
イゼルカ王国に限らず、各国には大なり小なりダンジョンが存在する。
ダンジョンは様々な恩恵を与えると同時に危険も孕む。
中で魔物が溢れ外に出れば魔物暴走となり、溢れた魔物は近隣の村や街を襲うのだ。
そのためダンジョンを抱える領主は冒険者ギルドと連携してダンジョンの管理を行っている。
ユエは村を出る前も出た後もダンジョンと関わることはなかった。
知識として知ってはいても、実際にどんな場所なのかは知らない。
なので、今でも村を出る前と同じ疑問がある。
「ダンジョンと洞窟って何が違うの?」
前世のマンガやゲームなどの知識で何となく想像はつくが、どうにも行ったことのある洞窟との違いがよく分からない。
翡翠蛇を捕まえに行った洞窟は小さかったが、森の奥にある洞窟は大きく中が複雑に入り組んでいて迷路のようだった。
なので、あれこそダンジョンではなかろうかとユエは思うのだ。
魔物もいるし外にない珍しい薬草や茸などもある。
拾った珍しい石は村の人に渡すとお菓子をくれることだってあった。
それが魔法薬や魔道具の材料になるというのは後から知ったが。
「理由は色々あるらしいが、一番は魔物暴走の危険があるかだな」
他の冒険者が聞けば「ただの洞窟とダンジョンを一緒にするな!」と怒りそうな質問だったが、イクスは嫌な顔一つせずに教えてくれた。
そもそもダンジョンとは魔物のいる閉鎖された空間のことを言う。
物理的に閉鎖されているわけではないが、ダンジョン内の魔物は居場所がなくなるなどの理由がない限り外に出てこない。
これはダンジョンの中が外に比べて魔素が濃いからではないかと言われているが、はっきりしたことは分かっていない。
だが、稀にダンジョン内で大繁殖が起こり、魔物が外に溢れ出す事がある。
それが魔物暴走だ。
ダンジョン以外でも起こることがあるが、ダンジョンで起こる魔物暴走が厄介なのは魔物が暴走状態になっており、さらにそれが周囲の魔物にも伝染していって規模を大きくすることだ。
巻き込まれると普段は臆病な魔物ですら狂ったように攻撃的になる。
よってダンジョンを持つ領主は冒険者ギルドと連携して管理――要は魔物の間引きをして発生を抑えているのである。
なので冒険者ギルドや国が、魔物暴走の危険性のある場所をダンジョンとして認定し、被害を未然に、あるいは最小限に抑えるために対策をしているとのことだった。
魔物暴走は災害だ。過去にはそれで滅んだ国もあったというのだから、今でも軽視出来ることではない。
「騎士はダンジョンに行ったりしないのか?」
「ん〜、私は行ったことないけど、現地の騎士が調査のために入ることはあるんじゃないかな? ダンジョンじゃないけど魔物が多い森なんかは遠征部隊が間引きに行ってたし」
「ああ、ダンジョンだけとは限らないもんな。この辺は冒険者がいるから騎士団が来ることはないけど」
メガル村のあるローダス近郊の森は広く深い。
棲息する魔物の種類も多く魔物暴走の危険性は高いが、ローダスの冒険者にとっては宝の山でもあるので騎士団による間引きが必要ないのだ。
メガル村の住民が日々の生活に森へ入っているのもあり、森は生態系のバランスを大きく崩さずに済んでいるのだろう。
例えば角兎は繁殖率が高いがギルドで積極的に狩るよう勧めているので、ローダスでは安定した値段で売られている。
角兎の干し肉は冒険者なら誰でも知っている定番食品だ。
他にも繁殖率の高い魔物を常に一定の値段で引き取るようにしているし、魔物暴走までいかずとも大繁殖が確認されればすぐに領主と連携して討伐隊を結成するなど、冒険者ギルドの存在は大きい。
「興味があるなら行ってみるか? ダンジョン。実際に見た方が早い」
確かに、話で聞くよりは実際に見て体感した方が早い。
冒険者としてやっていくならダンジョンは避けて通れないだろう。
それに、ユエ自身ダンジョンに興味もあった。
「うん。行ってみたい」
「よし、じゃあ行くか。ここからだとアリークが近いから、アリークのダンジョンでいいか?」
ダンジョンに詳しくないユエでも、アリークがダンジョンの街であることは知っている。
反対する理由などないので二言返事で同意した。
「ダンジョンに行くのに用意する物ってある?」
「基本はいつもと同じだぞ。潜る日数に合わせて食料や薬の準備をするぐらいで。あとは簡単に野営が出来れば万端だな」
話を聞く限り、騎士団での簡易遠征セットを用意すれば良さそうだ。
ユエは今の状態でも森で野営出来るが、ダンジョンとなると勝手が違ってくるだろう。
となれば無駄になることはないだろうし、一通り揃えてもいいかもしれない。
幸いつい最近、大物を捕獲したので懐には大分余裕がある。
「俺が一通り持ってるし、道具揃えるのは今度でもいいと思うぞ。正直、ユエなら魔法で何とかなるのもあるし」
「そう? じゃあ……、必要なのは携帯食と薬、かな」
「だな。ダンジョンに入るなら少しは食べ慣れた物を持ってった方がいい。現地でも食料調達は出来るが、味が合わないこともある。まあ、今回はそんなに長く潜るつもりもないから、そんなに量もいらないけど」
確かに食事は重要だ。
仕事とは言え食事が合わないとやる気が出ないし、苛ついたり憂鬱になったりする。
研修時代お世話になった遠征部隊の教官も「任務中の食事がな……」とため息をついていた。
どのみちアリークまで移動するのにも食料は必要だし、日持ちするのを一通り揃えればいいだろう。
薬もローダスで買った方が安いはず、と頭の中で必要な物をリストアップしていく。
「じゃあ、出発は明日でいいか。この時間なら明日までに準備は出来るだろうし。俺もギルドにしばらく街を離れるって伝えてくる」
「街を離れる時はギルドに伝えないといけないの?」
「ああ、Bランク以上の冒険者とパーティーはそう言われてるんだ。依頼以外で街を離れる時には一言欲しいってな。他の街はどうか知らないが、念の為ってやつだろ」
おそらくは魔物暴走対策なのだろう。
有事に備えて戦力の把握をしているに違いない。
「ギルドの方は俺が伝えとくから、ユエは気にせず準備に行っていいぞ。明日の朝、門の前で集合な」
「ん、分かった。じゃあ、明日ね」
イクスと別れ、ユエは準備のために買い出しへと向かった。




