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22話 蒼の星と初仕事②


虫や蝙蝠、普通の小さな蛇を見かけたくらいでこれといった危険もなく進み、少し開けた場所に出た。


この洞窟は元々そんなに深くないので、奥へ行くにもそれほど時間はかからない。


位置的には奥の手前といったところだろうか、壁には小さな穴や亀裂がある。


「いるな…………翡翠蛇(ジェイドスネイク)かは分かんねぇけど」


スンと鼻を動かし、イクスが軽く壁を見回す。


「じゃ、とりあえず調べてみるね」


軽く息を整え、ユエは探査を使った。


探査は自分の魔力を放って周囲を調べる魔法だ。


前世で言うソナーのようなもので、凄腕の魔術師だとダンジョンの階層一つ分の全体図まで把握出来るという。


当然ユエにそこまでの技量はないが、今いる周辺ぐらいなら壁の中までそれなりに把握することは可能だ。


ユエが放った魔力は波紋のように広がって周囲の状況をユエに伝える。


脳に届く情報の中から蛇の形をしたそれなりの大きさのものを見つけ、その方向を指差した。


「まず一匹、追い出すね」


「分かった」


目星をつけた蛇に向かってさっきよりも多く魔力を乗せて放つと、蛇は驚いたのか壁の中を動き出した。


ぐねぐねと壁の中を這い回り、そして亀裂からシュルリと顔を出す。


その瞬間、蛇が人間に驚いて亀裂に戻る間もなくイクスが頭を掴んで引き抜いた。


「よっしゃ、翡翠蛇だ」


笑顔で捕まえるイクスの腕に威嚇しながら絡みつくのは、濃い緑色の蛇。


灯光(ルミエル)の弱い光でも見事なその色合いは、明るい場所ならさらに鮮やかだろう。


「皮に傷もなさそうだし、大きさも丁度いい。幸先いいな」


音を立てて首を折られた翡翠蛇は、イクスの腕に巻き付いていた体をダラリと垂らした。


力なく開いた口から魔力を流して血を抜き、洗浄(クリーン)をかけ傷まないよう冷やしてイクスの魔法鞄に入れる。


「しっかし、ほんと器用だよな。狙った場所に当てるとか」


「そう? 慣れればそれほど難しくはないと思うけど」


ユエとて最初から出来たわけじゃない。


何度も何度も練習して出来るようになったのだ。


探査の応用のようなものなので、探査が使えるなら練習すれば出来るようになる。


「とりあえず俺は無理だな。魔法はそんな得意じゃないし。威圧を当てるだけなら出来るけど、見えない壁の中を誘導するのは無理だ」


「イクスなら気配を読んで威圧当てれば出来るんじゃない?」


「その加減がなぁ……。俺がやると一匹は捕れても近くにいた他のは逃げちまうから、探すのが大変だ」


「ああ、そっか……。翡翠蛇、臆病だもんね」


ある程度の加減は出来ても、細かい加減は難しいのだろう。


そういう意味では魔力の方が細かい制御がしやすいと言える。


「じゃぁ、探すのと追い出すのは私がやるから、捕まえるのはよろしく」


「おう、任しとけ。出てきたやつは一匹も逃さねぇよ」


探査と追い出しを繰り返し、他の蛇や皮に傷があるものなどもあったが、運が良かったのか納品分の翡翠蛇を捕まえることが出来た。


皮に傷があるものはあえて逃し、他の蛇も小さなものは逃した。


なのでイクスの魔法鞄に入っているのは翡翠蛇と草蛇(グラスネイク)だ。


「毒蛇がいなくて良かったね」


「だな。まあ、いたところでこの洞窟だと大した毒じゃねぇし、頭を落とせばいいだけだけどな」


出てきた瞬間に毒蛇かどうかの確認もだが、頭を狙って切り落とすのは言うほど簡単なことではない。


ユエもやれないことはないが、イクスほど簡単に出来るかと言われれば否だ。


そんなイクスだからこそ、蛇を捕まえるという危険なことでも安心して頼めるのだが。


納品分の確保は出来たので引き上げようとした時だった。


二人はほぼ同時に奥へと続く道へ目を向け身構える。


だんだんと近づいてくるのは何かが這う音だ、それもかなり大きな。


ユエもイクスも愛用の剣を抜き、いつでも動けるよう構える。


ただ二人には近づいてくる音とすっかり嗅ぎ慣れてしまった特有の臭いをさらに強くしたもので、大方の見当はついていた。


そして、奥へと続く道に灯光(ルミエル)の光によって影が映ったかと思えば、ぬるりと巨体が顔を出す。


それは先が二股に分かれた細長い舌をチロチロと突き出した巨大な蛇だった。


大きさは六メートルはあるだろうか、ずっしりとした太い胴体もあって重さもかなりあるだろう。


「おいおいマジか…………翡翠蛇にしちゃデカすぎだろ」


「これもう翡翠蛇(ジェイドスネイク)じゃなくて翡翠大蛇(ジェイドパイソン)て言ったほうがいいよね」


洞窟の奥から現れたのは巨大な翡翠蛇だった。


翡翠蛇の大きさは通常三メートル前後で太さも成人男性の腕ぐらいだ。


二人が捕まえたのも三メートル以上の物だが、それと比べれば目の前の蛇は巨大という言葉が相応しい。


「マジか〜、追加報酬ゲットだな」


「イクスの魔法鞄にあれ入る?」


「余裕で入るぜ。見た感じ目立つ傷もないし、出来ればこのまま持ってきたいな」


だが巨大な翡翠蛇を前にした二人に恐怖はなく、話す口調は軽い。


「その方が報酬は良さそうだもんね。はい」


「お、サンキュ。じゃ、さくっと折ってくるわ」


ユエから硬化の魔法をかけた鉤棒を受け取り剣の代わりに持つと、イクスは翡翠蛇に向かって歩き出した。


巨大化したことで臆病な性質が薄れたのか、翡翠蛇は逃げる素振りも見せずに大きな口を開けて威嚇すると、イクス目掛けて飛びかかる。


蛇特有のその動きは巨体でありながら速く、人間を丸呑み出来そうなほど大きな口から覗く鋭く太い牙がイクスに襲いかかり――


「思ったより速いな」


次の瞬間、空を切った翡翠蛇の太い首に、容赦なく鉤棒が振り下ろされた。


少し離れていてもはっきりと聞こえるほどの鈍い音がして、蛇の体がその衝撃と痛みに跳ねる。


「あ〜、弱すぎたか? もう一発、と」


巨大な体をうねらせてもがく翡翠蛇にイクスが止めを刺すと、仰け反るように一際大きく体が跳ねて、息絶えたのか動かなくなった。


念の為にイクスが鉤棒で突いて確認するがピクリとも動かない。


「ユエ、血抜き頼む」


「分かった」


この巨体なので血抜きをするのに少し時間がかかる。


周囲の警戒はイクスに任せ、翡翠蛇の体に魔力を注ぐ。


さすがイクスと言うべきか、二撃で仕留めたのもだが、当てた場所が全く同じだ。


なので戦闘による傷は最小限だし、イクスが言った通りざっと見ても大きな傷はない。


最後にもがいていたので小さな傷は出来ているかもしれないが、この大きさを考えればポーションを使っても問題ないだろう。


抜いた血は先に獲ったのと同じように埋めるが、量が多いので深めの穴を掘って埋めた。


洗浄をかけて冷やし、皮に傷がないか確認する。


目立つ傷はないがやはり小さな傷は出来ていたので、イクスが折った首の傷を含め全体にポーションをかけておいた。


この巨体なので治るのは表面の傷のみで折れた骨までは治らないが、治したいのは皮についた傷なので問題ない。


なお、治癒(ヒール)ポーションは飲んでも効くが傷に直接かけても効く。


ただし痛い。直接かけた方が早く効くが、生傷に薬をかけているので消毒液をかけられるのと同じぐらい痛い。


なので緊急時でもない限りほとんどが飲む方を選ぶのだ。


あくまで薬なのでけして美味しい物ではないが。


「うん、これでよし。イクス、入れてくれる?」


「おう、分かった。よっ、と…………やっぱデカイから重いな」


重いと言いながらも、イクスは軽々と巨大翡翠蛇の頭を掴んで魔法鞄に入れていく。


魔法が付与されているとは言え、太くて長い蛇が腰につけた鞄の中にズルズルと入っていく光景はなかなかシュールだ。


物心ついた頃から見ているとは言え、前世の記憶があるからかユエは未だにそう思うことがある。


「探査に引っかかるのはなかったけど、どうする? 念の為に奥の確認しといた方がいいよね?」


イクスが相手をしている間に探査で周囲を調べたが、巨大蛇に怯えてか生き物らしき物はいなくなっていた。


巨大蛇が出てきた奥の方も調べたが、そちらにも生き物らしき反応はほとんどない。


とは言え、探査だけでなく実際に目で確認する必要があるだろう。


これはどう考えてもギルドに報告する必要がある。


「ああ、ギルドに報告しねぇといけねぇし。この洞窟であの大きさは想定外だからな」


翡翠蛇を魔法鞄に入れ終え、イクスは奥へと目をやる。


警戒しつつも二人は確認のために奥へと足を進めた。


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