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19話 パーティー登録の合間に


地下を出た後、二人はヒューイの案内で別の部屋へと通された。


見覚えのある部屋は前に宿を紹介してもらった時に来た部屋で、ヒューイとはテーブルを挟んでイクスと並んで座る。


パーティー登録は申請用の書類に署名をし、冒険者証と共に登録すれば終了という簡単な手続きだった。


「パーティー名は蒼の星か。うん、いいんじゃないかな。これで登録するよ」


書類と二人の冒険者証を持って立ち上がったヒューイは、部屋を出るとすぐに戻ってきた。


廊下で話していたようなので、たまたま通りがかった誰かに手続きを頼んだのだろう。


「さて、じゃあ登録が終わるまで少しかかるから、その間にちょっと話がしたいんだけどいいかな?」


そう言って向けられた視線の先はユエだ。


どうやらユエに用があるらしい。


断る理由もないので「いいですよ」と返す。


「ユエ、君は元騎士だね?」


「はい、そうですけど……」


それがどうしたのかと、顔にも声にも出たユエにヒューイは苦笑した。


「ああ、元騎士だったからどうってわけじゃないんだ。ただちょっと確認したくてね。だからそんな睨まないでくれイクス」


隣を見ればイクスが少し不機嫌そうにヒューイを睨んでいる。


「冒険者に過去を聞くのはご法度だろ。いくらあんたでもどうかと思うぞ」


「いいよイクス。別に隠すようなことじゃないし」


胸を張って言うようなことではないが、隠すようなことでもない。


騎士団をクビになった、それだけである。


「元騎士が冒険者になるのって珍しいんですか?」


「そうでもないよ。たまに聞くからね。ちなみに騎士を辞めた理由を聞いても?」


「おい」


「イクス、いいって。大丈夫だから」


途端に声が低くなったイクスの肩を軽く叩いて宥める。


「大した理由じゃないですよ。『闘わない騎士は必要ない』ってクビになりました」


「…………は?」


ぽかんと口を開けて固まったヒューイは、少しして復活すると「いやいやいや」と続けた。


「戦わない騎士ってなに? 君、職務放棄でもしたの?」


「まさか。私の配属先が裏方の部署だったんですよ、備品管理の。なので戦わないと言われても正直困るというか」


「いやそれ、君が戦ったら他の奴ら何やってんだって話だよね? 裏方の人間が戦闘に出るって非常事態なんじゃないの?」


正にその通りなので頷くと、「信じられない……」とヒューイは額に手を当てた。


「そんなバカなこと言う騎士団てどこ?」 


「イストだよ。ユエはイストの本部にずっといたんだ」


「イストの本部って言うと、レリウスか。特に騎士団に問題があるとは聞いてないけど……」


額に手を当てたまま、ヒューイはうーんと唸る。


「何か冒険者ギルドにとって問題があるんですか?」


「ん? ああ、いやローダス(うち)にはないけどね。でもレリウス(向こう)のギルドにとっては騎士団に問題があると困るんだよ。普段からの付き合いもあるし、緊急事態には連携することもあるからね」


「あー…………そうですね。騎士団と冒険者ギルドは切っても切れない関係ですし。問題のある相手とは付き合いたくないですもんね」


治安維持は何も騎士団だけで行っているわけではない。


冒険者の存在は治安維持に大きく貢献しているし、イスト騎士団でも情報の共有や協力体制は出来ていた。


その際に冒険者を見下すような人間が担当になると関係が悪くなるので、担当者選びは大変なのだと溢していたのは副団長だったろうか。


実際、騎士団の人間としてギルドに行くこともあったので、ヒューイの言葉に納得する。


タイミング悪くギルド長も副ギルド長もいなかったが、街を出る時に冒険者ギルドにも挨拶には行ったので、それほど問題にはなってないと思うのだが。


「騎士団の中で私が目をつけられてたってだけで、それほど問題はないと思いますよ」


「ああ……、平民の女だからか」


これにユエは苦笑で返す。


ただそれを『よくあること』で流せない人間がここにはいたわけで。


「んな下らねぇ理由で騎士をクビにされるとかおかしいだろ? ユエは五年も里帰りも出来ずに頑張ってたのに」


「まあ、それはね。余程の理由がないと長期の休みなんて取れないし」


どうやらあの場では収めてくれたものの怒りは継続していたらしいイクスに、苦笑しつつ返す。


長期の休みなどそう取れるものではない。


現にユエ以外にも同じ理由で里帰り出来ない者はいた。


「……クビになった割には引きずってなさそうだね?」


「さすがに二ヶ月も経てば折り合いもつきますよ。まだ見習いを終えたばかりですけど、今の生活も悪くないですし」


ユエとしてはそれほど騎士という職に(こだわ)りがあったわけではない。


前世で言うところの公務員ならば他よりも安定しているだろうという理由で選んだだけである。


実際それは間違っていなかったし、思った以上に貯金も出来ていたので、冒険者になってもある程度余裕のある生活が出来ているのだ。


それを踏まえれば騎士になったことは間違っていなかったし、無駄ではなかったと思う。


「そうか。イストは馬鹿なことしたね、君をクビにするなんて。今頃、大変なことになってるんじゃないか?」


「はは、まさか。私がやってたことは誰でも出来ることですし。クビになってすぐはともかく、今はもう落ち着いてると思いますよ」


あれから二ヶ月だ、さすがにもう落ち着いているだろう。


「せいぜい困りまくってればいいんだ。どんなに大変だろうともうユエは返さねぇけどな」


この様子だと、万が一にもイスト騎士団が「困ってるから帰ってきてくれ」などと言ってきたら、イクスは本気で追い返すだろう。


ユエ自身、戻る気はないがまず隣の親友がそれを許すまい。


そしてイクスの本気とは威圧、物理攻撃有りの実力行使である。


「こう言ってはなんだがイストから何か言ってくることはないと思うよ。話を聞く限り向こうが解雇してるわけだし、いくら困っていても平民相手に頭を下げることもないだろう」


平民相手、という言葉にイクスが反応するがすぐにユエが肩を叩いて宥める。


「不当解雇で訴える気があるならともかく、そんな気はないんだろう?」


「ありません」


そんな面倒なことをする気はない。


そもそも訴えるつもりがあるなら大人しく騎士団を出たりしないし、冒険者にもならない。


言い切るユエにヒューイは「なら問題ないね」とどこか楽しげに笑う。


「ただ、この事は一応向こうのギルドに伝えてもいいかい?こんなことがあった程度にしか伝えないから、君の名前は出さない」


「構いません。……それと、もし名前を聞かれるようなら伝えてもいいです」


「いいのかい?」


「はい。仕事上、冒険者ギルドに行くことも多かったので、もしかしたら聞かれるかもしれないですし。ただ、広めないようにはお願いしたいです」


「それは勿論。分かった、聞かれたら答えるようにするよ」


話が一区切りついたところで、ドアがノックされる。


ヒューイが入室を許可すると、ギルドの職員がトレーを手に入ってきた。


「失礼します。パーティー登録の手続きが終わりました」


「ああ、ありがとう」


職員はトレーをテーブルに置くと軽く一礼して出ていく。


トレーの上にはイクスとユエの冒険者証が載っていた。


促され自分の冒険者証を取ったユエだが、見た目には変化はない。


「これで君達はギルド公認の冒険者パーティー蒼の星だ。今後の活躍を期待しているよ」


活躍は出来るだろう、主にイクスが。


自分はどうしたって凡人なのだから、せめて足手まといにならないようにしよう。


ヒューイからの期待の言葉に上機嫌で返事をするイクスの横で、ユエも愛想笑いを返した。


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