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12話 常設依頼②


翌朝、開門と同時にローダスを出る。


前はイクスと一緒だったが今日は一人だ。


朝早くから街の外へ出るのは冒険者か商人ぐらいで、街道にはユエと同じく街を出た商人らしき馬車が先を行く。


ユエはここから森へと向かうので街道から逸れた。


朝は新しい依頼が貼り出されるので、冒険者も依頼探しにギルドへ行く。


なのでこんな早くから外に出る冒険者は商人の護衛か既に依頼を受けているかだ。


森へ向かって歩いていると、常設依頼にあった薬草を見つけたので忘れずに採っておく。


割とどこにでも生えるこの薬草は見た目が青紫蘇そっくりで匂いも似ている。


季節によって量は変わるが年中生えているので大変便利な薬草だが、その分単価は安い。


なので本当に駆け出し向けの依頼だ。


こっちは魔法のある世界なのでポーションもある。


ポーションは魔法薬の扱いで主に治癒、体力回復、解毒、魔力回復の四種類だが、マンガやゲームと違うのは傷が治っても体力は回復しないことだ。


治癒(ヒール)ポーションは傷を治すのみで、体力を回復するには体力(スタミナ)ポーションを飲まねばならないのだ。


体力ポーションは栄養ドリンクに近いので、薄めたものを病人の栄養補給に飲ませることもある。


解毒(デトック)ポーションも毒によって種類が変わるので、解毒魔法が使える者はポーションよりも魔法を使うことが多い。


エリクサーや万能薬(アンブロシア)と呼ばれる物もあるが、それこそ王族や極一部の高位貴族のみが手に入れられる超がつく高額品でまずお目にかかることはない。


市販品のポーションの中で一番高いのは魔力(マナ)ポーションで、これは原材料がそもそも高いのと他のポーションに比べ作るのが難しいのでその分値が上がる。


一番安い下級治療ポーションで銀貨五枚、約五千円。


しかもポーションは作ってから半年ほどしか持たないので、ゲームのように買い込んで豪快に使うことなんてとても出来ない。


もしもの時用に置いてある家もあるが、平民は市販の薬で間に合うならそれで済ますことが多いので、主に使うのは冒険者や騎士といった荒事専門だ。


そしてポーションの粗悪品は時に命に関わることがあるので、資格のない人間が売ることは違反になる。


うっかり粗悪品を出したりすればそれだけで店の信用がガタ落ちするので、店側もかなり気を配っている。


個人で自作して使用する分には法に触れないが、資格がないと売買出来ない。


ユエは経験がないが、国が厳しく取り締まっているのに年に何度か大規模な違法ポーションの摘発があると聞くので、買う時には注意が必要だ。


薬草を採取しながら歩いていると森が見えてきたので、まずは村を目指す。


「おっと」


森に入ってすぐ、ガサリと音がしたと思ったら勢いよく飛び出してきたそれに、一歩横に避けて蹴りをいれた。


それは「ギュッ!」と呻いて近くの木に当る。


飛び出してきたのは角兎(ホーンラビット)で、額から生えた角は木に当たった時に折れたらしく、少し離れたところに落ちていた。


角が折れるほど強く木に当たったのが致命傷になったようで、ナイフで角兎の首に傷をつける。


その傷に指先を当てて魔力を流し、全体に回ったところで一気に血を引き抜いた。


これで血抜きは完了だ。


ちゃんと血抜きをしておかないと肉が臭くなるので血抜きは必須。


食べるならこのまま解体するところだが、今は必要ないので洗浄をかけ肉が傷まないよう魔法で冷やし角も一緒に魔法鞄に入れておく。


村に着くまでにさらに三羽ほど角兎が出てきたので、同じように血抜きと洗浄をかけ冷やしてから魔法鞄に入れた。


「あら、美味しそうな角兎。ちょうどお肉切らしてたから助かるわ」


手土産として角兎を二羽出すと、母は嬉しそうに台所へと向かった。


予定通りに冒険者になったこと、無事に初仕事も終えたことを話している間に、角兎は解体され肉になった。


「ユエちゃん、お昼食べてくでしょう?せっかくだからこの角兎を焼きましょうか」


解体された肉はあっという間にフライパンの上で調理され、美味しそうな焼き目とハーブの香りを放ちテーブルに並んだ。


実は角兎のハーブ焼き、ユエの好物だったりする。


今日は泊まらず、常設依頼の薬草や茸を採取しつつローダスへ戻ることを食事をしながら話すと、「あら、そうなの」と母は少し残念そうだった。


「そうだユエちゃん。ローダスに戻るなら手紙を頼んでもいいかしら」


「うん、いいよ」


商業ギルドに出すだけなので二つ返事で受け取り、母に見送られ村を出た。


その足でまずは森の奥へ向かう。


身体強化をかけ慣れた足取りで奥へ奥へと進んだ。


ある程度村から離れたところで足を止め、薬草や茸なんかを採取しながらローダス方面へと向かう。


紫蘇もどきは葉が十枚で銅貨五枚、約五百円。


それもサイズが小さかったりあまりにも萎れていたり、傷がついて欠けていたりすると減額になるので、ちょうどいいサイズの物を見繕う。


日当たりのいい場所には同じくポーションの材料になる木があり、まだ柔らかい若葉を摘む。


これは五枚で銅貨五枚なので紫蘇もどきよりも高い。


この木は森に入らないと生えてないのでその差だろう。


道中遭遇した獲物は有り難く狩って、角兎と同じ処理をする。


そして予定通り日が傾く頃にはローダスへ戻ることが出来た。


商業ギルドへは明日行くとして、まずは冒険者ギルドに行って納品だ。


ユエの魔法鞄に状態維持の機能はないので、薬草も茸も肉も早めに納品しなければ傷んで価値が下がってしまう。


納品は依頼の受付とは別に納品専用の受付があり、さらに魔物とそれ以外の素材で別れているのでまずは常設依頼の納品からだ。


ギルドにつくと、タイミングが良かったのか納品の受付カウンターが空いていた。


「すみません、常設依頼の納品をしたいんですが」


「はいはい、どれでしょう?冒険者証も出して下さいね」


「あ、はい」


冒険者証を出すと、ランクを見て「初めてですか?」と聞かれたので「そうです」と頷いた。


「量がちょっと多いかもしれないんですが大丈夫ですか?」


「薬草はいくらあっても困りませんからね、構いませんよ。一種類ですか?もし複数でしたら種類別に出してください」


「分かりました」


まずは紫蘇もどきからと魔法鞄から出すと、「ちょ、ちょっと待って下さいっ」と止められ、慌てて奥から片手で持てるくらいの籠を持ってきた。


「これに入れてもらえますか」


「分かりました」


言われたとおり籠の中に紫蘇もどきを入れる。


そして他の物も同じように種類別に籠に入れ、カウンターに並んだ籠は五つ。


紫蘇もどきを含む薬草が三種と茸が二種だ。


「査定に少し時間がかかりますので、お待ち下さい」


気のせいか少し引き攣った顔で言われ、番号札を受け取る。


ならその間にと、ユエは隣の魔物のカウンターに移動した。


「すみません、魔物の買取をお願いしたいんですが」


「ま、魔物もあるのか…………んんっ、いや何でもない。何を獲ってきたんだ?」


「ここに出せばいいですかね?まずは角兎、と」


魔法鞄から角兎を五羽出す。


「それから草蛇(グラスネイク)


二メートルぐらいの草蛇は七匹。


肉は食用、皮や骨、内蔵なんかは薬の材料になったり皮細工に使われる。


「で、次が」


「まだあるのかっ?」


「これで最後です。赤猪(レッドボア)が二匹」


「赤猪っ?ああ、それは下に置いてくれ」


赤猪は重いので身体強化をかけて言われたとおりカウンターの下に置いた。


「…………これ全部お前さんが一人で?」


「はい」


なぜそんなことを聞くのか、内心首を傾げつつ事実なので頷く。


冒険者証を出すとそれをまじまじと見て「魔物の買取も初めてだよな?」と聞かれたので頷いた。


「全部買い取るかどうかでも変わるが、基本は解体料を査定額から引いた金額が報酬になる。今回はどうする?」


「全部買取でお願いします」


「そうか。じゃぁ終わったら呼ぶから待ってろ。ちょうど手が空いてるから、そんなにはかからねぇから」


「お願いします」


さっきとは色違いの番号札をもらい、壁際に並ぶイスに座って待つ。


大人しく座って待っていると、先に納品した素材カウンターで番号を呼ばれた。


「お待たせしました。査定が終わりましたので精算に入りますね。今回納品してくれた分は全て買取ます。全て状態も良かったので減額もなしです。こちらが査定の内訳です」


カウンターに出された紙には納品した薬草や茸の名前と数、そして査定額がかかれ、一番下に合計金額が書かれている。


なかなかの金額である。


「これで良ければ精算します」


「良いです。精算をお願いします」


金額に不満もなかったので、番号札を返してそのまま精算してもらう。


金額をしっかり確認して、すぐに財布に入れた。


「ありがとうございました」


「いえいえ。こんなに状態のいい物なら大歓迎ですよ。またお待ちしてます」


今度は引き攣ってない見事な営業スマイルで精算を終え、再びイスに座って待つ。


しばらくして魔物カウンターで番号を呼ばれた。


「待たせたな。角兎が五羽、草蛇が七匹、赤猪が二匹でこんだけだ。これに解体料を引いた金額がこれだな」


素材と同じように紙に一覧になっている。


「傷も少く綺麗で状態も文句なしだ。特に血抜き。お前さん本当に初心者か?」


「初心者ですよ」


妙な疑いをかけられ苦笑する。


ユエは正真正銘、まだ登録して三日の初心者である。


「これでいいか?」


「はい、お願いします」


魔物も無事に清算し、ちょっとした小金持ちになった。


赤猪は大きいだけあって中々の値段になった。


これなら今日の夕食は少し贅沢をしてもいいかもしれない。


ユエは機嫌良くギルドを出た。



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