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11話 常設依頼①


ヒューイから紹介してもらった宿屋に行き紹介状を見せると、スムーズに契約が済んだ。


部屋は六畳ぐらいだろうか、ベッドと小さな机、それから荷物を入れる簡易の鍵付きの箱があるのみのシンプルな部屋だ。


値段を考えると家具つきなのでかなり良心的な店である。


大して荷物も持ってない駆け出しには十分だろう。


今のところ置いていく荷物もないのでざっと部屋を確認し、鍵をかけて宿を出た。


その足で買い物へと向かい、当面必要な物を買う。


とは言え大体は手持ちがあるので不足分を買い足す程度だ。


こういう時、本当に魔法鞄は便利である。


久しぶりの買い物は思ったよりも楽しくて色んな店を見て回った。


思えばこんな風にゆっくりと買い物をするのはいつ以来だろうか。


母の誕生日の贈り物を選ぶ時も何とか時間を見つけては探していたので、時間を気にしないで買い物をするなんて何年かぶりな気がする。


騎士団の買い出しならよく行ったが、あれは仕事だ。


まあ、そのおかげで店主達とは顔見知りになりそれなりにいい関係は築けていたと思う。


後任が決まる前にクビになってしまったのでその辺りの引き継ぎが出来なかったが、町を出る時に挨拶周りをして一応頼んでおいたので何とかなっているだろう。


店側としても騎士団は大口の顧客なので、よほどのことがなければ少しは大目に見てくれるはずだ。


それに引き継ぎもなしにクビにしたのは向こうなので、多少のミスは目を瞑るだろうしフォローだってするだろう。


ひやかしをしながらあれこれと見てまわり、次に入ったのは菓子屋だった。


庶民向けの店で子供のお小遣いで買えるものから少しお高めの物まで並んでいる。


安い物はドライフルーツや木の実なんかで、高い物は飴など。


日本では手頃な値段だったが飴は砂糖の塊だ。


原料の砂糖自体がお高いので、それを大量に使う飴も高くなる。


なので子供にとって飴は贅沢なお菓子である。


飴玉一個で他の物が二つ三つ買えるならそちらを選ぶだろう。


王都には貴族御用達の飴専門店があるほどで、そこに通うのも一種のステータスになっているとか。


それを聞いた時には貴族って大変だなとしみじみ思ったものだ。


おやつ用にいくつか買って店を出ると、昼近くになっていた。


食事時に店が混むのは世界が変わっても同じだ。


日本のように十人以上並ぶような行列店はそうそうないが、ちらほらと順番待ちをしている店はある。


それを横目にユエはギルドへ向かった。


ユエは行列に並ぶならあえて時間をずらす派だ。


時間が決まっているならともかく、時間に融通が利くならずらす。


そして昼時で皆が食事に行っているのなら、ギルドも空いているに違いない。


思ったとおりギルドの中は空いていた。


いつでも依頼を受けれるよう受付に職員はいるが、冒険者の姿はまばらだ。


出ている依頼の内容は昨日と変わらない。


ふと、レリウスの冒険者ギルドでのことを思い出す。


確か依頼板に張り出される通常の依頼の他に、常設依頼というものがあった。


期限や人数などを制限しておらず、ランクを問わずに常時依頼を受け付けているというもので、レリウスでは薬草や何らかの材料になる素材などが対象になっていた。


常設依頼はどのギルドにもあるが、その内容は地域によって変わるという。


ローダスにも常設依頼はないのだろうか、駆け出しでも受けれるような内容だといいのだが。


そう思って依頼板のある辺りから横へ壁を見ていくと、少し離れた壁に紙が貼ってあった。


そっちへ行って見てみると、依頼板よりも小さな板に常設依頼と書かれた依頼書が貼ってある。


どうやら手続きは不要らしく、薬草や素材を規定の数ごとに納品すると報酬が出るらしい。


張り出されている内容としてはローダス周辺で採れる薬草から森の中で採れる薬草や茸など。


森での薬草採取には講習が必要だとイクスが言っていたが、常設依頼を受けるにはどうなんだろうか。


講習を受けているのが前提なのか、それとも受けてなくてもいいのか。


分からないことはとりあえず聞いてみようかと考えていると、声をかけられた。


「あら、ユエさん?」


声をかけてきたのは登録の手続きをしてくれた三つ編み眼鏡のお姉さんだった。


「こんにちわ、えっと……」


ユエの言い方から名前が分からないのを察したのか「ハンナです」と自己紹介してくれた。


「常設依頼を見てたんですか?」


「はい。期限がないって聞いたので、あまり時間がない時に少しずつ出来るかなと」


「そうですね。内容によってはそれも可能です」


依頼内容によってはあまり日持ちしない物もある。


「そうだ、ハンナさんに聞きたいことがあるんですが」


「はい、なんでしょう?」


「森での薬草採取なんかは講習を受けないといけないって聞いたんですが、ここの依頼も講習を受けないと受けれないんですか?」


「常設依頼は別ですよ。その代わり、ここにある依頼のみですが」


「ここにある物に関しては森に入って採ってもいいってことですね」


それなら駆け出しのユエでも出来るだろう。


ここにスマホでもあれば写真を撮るのだが、そんな物はない。


なので、ユエは手帳を出して常設依頼の内容を書き込んだ。


用は済んだのでハンナに礼を言ってギルドを出る。


一度、村に帰って母に冒険者になったことを伝えようと思っていたので、そのついでに薬草や茸も採ってくればいい。


村に近い場所だと迷惑になるので離れたところで探せばいいだろう。


元よりメガル村ではある程度成長すると村から離れたところへ行くように言われる。


まだ小さい子供のために、比較的近い場所の物は手を出さないようになっているからだ。


ユエやイクスも小さい頃は親や他の大人の付き添いで、村の近くで教わっていた。


明日の予定も決まり、買い物を再開する。


が、まずは腹拵えだと、ユエは近くの店に入った。



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