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10話 初仕事③


「おや、どうしたんだい?」


ギルドに依頼完了を報告に行くと、朝と同じ人がいた。


「依頼を完了したので報告に来ました」


「完了って、朝受けたやつだよね」


「はい」


カウンターにサイン入りの依頼書を出すと、受付員はじっとそれを見る。


「ちゃんとサインも入ってる……。うん、確かに」


確認すると依頼書に判を押し、報酬を払ってくれた。


ユエも金額を確認し、すぐに財布に入れる。


「それにしても、君凄いね。簡単な依頼とはいえ大変だったでしょ? 力仕事だったし」


「身体強化が使えるので力仕事自体はそれほど。依頼人の家の方も手伝ってくれましたし、お昼まで御馳走になりまして」


「へぇ……お昼を。それはいい依頼人に当たったね」


「はい、いい方達でした」


それは間違いないのでしっかり同意した。


「ちなみに参考までに聞きたいんだけど、どんなふうにやったの?」


「どんなと言われても、普通に片付けただけなんですが……」


参考になるかは分からないが、とりあえず説明する。


それを聞いた受付員は「なるほどね」と感心したように言った。


「荷物に番号を振るのと見取り図か。確かに一覧表にも番号を振っておけば見取り図と合わせてみればすぐに見つかる。倉庫の地図みたいなものか」


「そうですね。荷物が棚に入ってるなら棚に番号を振っておけばいいですし。その棚も大きくて何段もあるのなら、棚と段毎に番号を振ればどの棚の何段目にあるか分かりますから」


「ああ、確かに。それならすぐに見つかるな。凄いね、君。こんなこと思いつくなんて」


「いえ、そんな」


前世の知識でユエが思いついたわけじゃないので、そんな風に言われると困る。


「昔どこかでそうやるといい、みたいな話を聞いたことがあるんですよ。私はそれを真似しただけですから」


「そうなのか。これ、俺もやってみてもいいかい?」


「どうぞ。というか、私に聞かなくてもいいですよ。私が考えたわけじゃないですし」


何故か確認を取られたのでそう言えば、受付員は小さく笑った。


「君から聞いたから一応ね。さて、じゃぁ用はこれで終わりかな? それとも次の依頼を受けていくかい?」


「あ、宿のことで聞きたいことがあるんですが」


「もしかして定宿かい? それなら場所を変えようか」


そう言うと交代して、手招きをしてカウンターから別室に案内された。


通されたのは大きな棚のある部屋だった。


応接間だろうか、低いテーブルを挟んで三人掛けの布張りの長椅子があり、その片方に座るよう促される。


「今はどこに泊まってるんだい?」


「イクスが定宿にしてるところです」


「ああ、あそこはいい所だけど、駆け出しが定宿にするには早いかな」


全くもってその通りなだけに、ユエは苦笑するしかない。


さりげなくやめておけと注意してくれる辺り、やはりこの人はいい人だ。


そして上位ランクの冒険者ともなるとギルドは定宿ぐらいは把握しているらしい。


「何か希望はあるかい? 定宿と言ってもそれこそピンからキリまであるけど」


「駆け出しが定宿にしてもおかしくない、おすすめの宿があれば教えて下さい」


「はは、おすすめか。そうだな……」


棚からファイルを一冊取り出し、テーブルに広げた。


「俺としてはここがおすすめかな。食堂を兼ねた宿屋で値段は手頃、風呂はないけど近くに風呂屋がある。追加料金を払えば食事も可能。何より、ここは食事が美味い」


「ここにします」


即決すると、受付員は一瞬驚いて苦笑した。


「いいのかい? そんな簡単に決めて」


「はい。値段も確かに手頃ですし、風呂屋と食事を入れても想定内の金額で済みます。それに」


「それに?」


「食事が美味しいのは重要なので」


真面目にそう言うと、受付員は「ぷっ」と吹き出して可笑しそうに笑った。


「くっ……ははっ、確かに。食事は美味しいほうがいいよね」


「そんなにおかしなこと言いましたか?」


「あー、ごめんごめん。いやね、君みたいな駆け出しの子だと、とにかく安いとこを教えてくれって言うものだから」


どうやらユエが食事を重要視したのが面白かったらしい。


駆け出しならそれは当然のことなのだろう、懐に余裕のある新人はあまりいない。


ユエは少しばかり懐に余裕があるので、食事にも拘れるだけである。


「それで紹介しても聞いてた話と違うって文句を言う奴も多くてね」


やれ部屋がボロいだの狭いだのと、安ければいいと言ったのは自分のくせに、騙されたと言わんばかりに文句を言ってくるらしい。


「それは……大変ですね」


「ほんとだよ。揉め事になると宿屋の方にも謝りに行かなくちゃいけないし。だから君みたいにハッキリしてる子は助かるよ。で、本当にここでいいのかい? 俺のおすすめってだけで、他にも宿はあるけど」


「ここでいいです」


「そうか。じゃぁ紹介状を書くから」


駆け出しの冒険者相手に紹介状まで書いてくれるのかと内心驚いていると、慣れた手つきでさらさらと書いてくれた。


「……ヒューイさん?」


最後に書かれた名前に思わず声に出すと、初めて気づいたといった様子で受付員は顔を上げた。


「ん? ああ、そう言えば名乗ってなかったね。ヒューイだ。よろしく」


「ユエです、よろしくお願いします」


ニコリと笑って名乗ってくれたので、ユエも同じように返した。


紹介状を受け取り無くさないようしっかり魔法鞄に入れ、部屋を出たところで改めてお礼を言う。


「ヒューイさん、ありがとうございました」


「いいんだよ、これもギルド職員の仕事だからね。外暗くなってるから、気をつけて」


ヒューイに見送られ、ユエは冒険者ギルドを出る。


そんな二人を見て他の冒険者達が何やら話していたが、昨日の今日だからとユエはあまり気にしないようにした。


紹介してもらった宿には明日行くとして、借りている宿に戻った。


宿ではイクスが待っていて、二人で食事をしながら話題に登るのはユエの初仕事についてだ。


依頼人の老婦人と使用人がとてもいい人だったこと、お昼を御馳走になったことや何とか無事に依頼をこなしたことなどを、イクスは楽しそうに聞いていた。


「いい依頼を引いたな、ユエ。駆け出しでそんないい依頼人に当たるなんてなかなかないぜ」


「うん、ギルドでもそう言われた」


「で、初仕事をやってみてどうだった? やってけそうか?」


「この感じならひとまずやっていけそうかな。他の依頼も見たけど駆け出しの依頼だからそう難しそうなのはなかったし」


今日見た依頼だけで言うならやっていけると思う。


倉庫の片付けや荷物運び、ペットの散歩など、言ってみれば冒険者でなくてもできる仕事だ。


駆け出し向けの依頼なのでそれも仕方ないが、力仕事ではあるが安全ではある。


これに今後は報酬に応じて難易度や危険が上乗せされてくるのだ。


正直やってみなければ分からない。


「とりあえずまずはDランクを目指すよ」


「だな。まぁ、真面目に依頼こなしてけばDランクになるのにそんな時間はかからないぞ。俺もすぐなったし」


「EからDに上がるのってどれぐらいかかるもんなの?」


「大体、ニ、三、ヶ月ぐらいか。長くても半年かからないって聞くな」


「ちなみにイクスは?」


「俺? 確か……一ヶ月ぐらいだったかな」


さすがイクス、さらに早い。


もしやローダスの冒険者ギルドで最短記録なのではなかろうか。


「ぶっ続けで片っ端から依頼こなしたんでしょ」


「おう。そんな難しいもんじゃなかったし、やってたらDランクになった」


今日見た依頼内容なら確かにイクスなら楽勝だろう。


そもそも体力からして違うので、人の二、三倍ぐらいの仕事はこなせるはずだ。


「ユエも一ヶ月あれば余裕だろ」


「イクスと一緒にしないでよ。私そんなに体力ないからね」


村にいた頃ならともかく、今はかなり差がついているはずだ。


騎士団にいたのに体力が少ないというのもおかしな話だが、現役の上位冒険者と裏方仕事の元騎士ではどうしても差が出る。


「そうか? 十分あると思うけどな。まぁ急ぐことでもないし、ユエのペースでやってけばいいんじゃないか。依頼をこなせばDランクにはなれるんだし」


「そうだね、そうするよ」


イクスの言葉に頷き料理を口に運ぶ。


初仕事が無事に終わった祝いだと、イクスが奢ってくれることになった。


「宿も紹介してもらえたし、明日からはそっちに移るつもり」


「そうか、良さそうなところか?」


「聞いた感じだと良さそうだったよ。食事とお風呂別でも手頃な値段だったし。ギルドのヒューイさんにおすすめを聞いたら教えてくれたんだ」


「ヒューイ?」


その反応におや、と内心ユエは首をかしげた。


「受付をしてくれて初仕事だからって親切にしてくれたんだけど……もしかして、イクスの知らない人?」


「いや、知ってる。珍しいと思ってさ、あんまり表に出てこないから」


「そうなんだ。受付の人が休みとかで手伝いに出てたのかな」


「かもな」


イクスの口振りからして普段は表に出ない裏方仕事の人らしい。


だから整理整頓の話にあんなに感心したのかと納得した。


「……受付ねぇ」


イクスの小さな呟きは、ユエには聞こえなかった。



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