第3話 いつもの情事
投稿初日に、ブクマやご評価まで頂きありがとうございました。お礼を申し上げます。
改めて私を襲う奴らの容貌を見ると、二人とも軽装でどこにでもありそうな両刀剣を構えている。月明かりだけなのではっきりとはしないが、汚れ腐った手入れの悪い皮鎧の装備で身を固めた貧相な体つきの奴とこじんまりしたブタ野郎達だ。無精ひげだらけのくたびれた表情に落ちくぼんだ目だけをぎらつかせている。
まったく、本気で私を殺りたいなら、有無を言わさず黙って切り付けてくればいいのにな。一言二言、口を利くなんぞ、今まで屠った夜盗共の復讐か、誰かにそそのかされたか知らないがまったく素人所作も甚だしい。
「ふっ、まあいい。好きにしろ」
「この野郎! 舐めた口ききやがって!」
「お前をやれば、俺らも株が上がるってもんだ!」
どおやら、誰かにそそのかされた口か。どこぞのギルドからの裏依頼でもなさそうだな。こんな奴らは毎度毎度の事、長く傭兵稼業やっていれば良くある話さ。おっ、くるか?
二人の男は私を前後に挟むように移動した。剣士としてはそれなりに場数を踏んで、悪くはない状況判断をしているんだろうが、ただの弱者の戦い方でしかないぞ。
「ケエ――ッ!」
前方の痩せ男が、声をあげながら剣を肩口に振り上げて駆け寄ってきた。同時に後方のデブも剣を構えたようだ。酔ってはいてもそれぐらいは、お見通しだ。周囲の成素ウィルがざわめいて自然とそれを伝えてくる。一人が斬りかかって、避けた所を後ろから斬り付ける算段だろうが、つまらん戦法だ。
ザザザザッ、「死ね――!」
ザッ ヒュッ!
すでにウィルに包まれた私はもうすでに戦闘準備が出来あがり、同時に折角のアルコールも飛んじまった! いい気分を台無しにされて次第と腹も立ってきた!
間合いまで踏み込んできた痩せ男から振り下ろされる剣筋は、残念ながらスローモーションにしか見えない。両刃剣が振り下ろされた刹那に身を屈め、右に一歩移動し肩口を通り過ぎた剣をかわすと、左膝で奴の腹に膝蹴りをくれてやった。
「ぐふっ!」こいつが声を上げて、つんのめると同時に私は体を起こし、左ひじを後頭部へもう一発! そのまま視線を後ろのブタに向けると側まで来ていたので、ついでにおまけだ。痩せ男の背後に回り込み、きたねえ尻を思いっきり編み込みブーツの踵で蹴り飛ばしてやった!
「ぐはっ!」「おおっ!」
一瞬の出来事に勢いよく吹っ飛んだ痩せ男が、デブの腹に頭を突っ込んで、二人ともひっくり返ったな。ま、こんなもんか。お前らごときが私の速さについてこれるわけはない。
そんなこんなをしていると、罵声を聞きつけたのか宿屋以外からも通りに顔を出す野次馬が増えて来たようだが、まあいい。後で私の正当防衛を伝えてくれるに違いないだろう。あっ、銀貨を片手に賭けしてる奴まで見える、まったくもって暇な事だ。
「てめ~! ぶっ殺してやる!」
二人仲良く地べたに転がったうちのデブが私を睨んで文句をたれたので、ひとつ威嚇と滅びを言葉をくれてやろうか。
「今度は私の番だな。どこを斬り落とし欲しい? 私の業を見ろ!」
丸腰を狙って襲う奴らにかける情けなどない。私はいつも通りに殺るだけだ。さあ、来い星剣。私は、両手を地面に向けて語りかける、呼応するようにウィルが一段と集まって来た。
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
軽く足元を揺らしながら、星剣は即座に顕現する。この星のコアから生成されるこの剣は生きている。
地から生まれるこの剣は、生まれるとき周囲に赤黒い光を放ち暗闇を照らす。溶鉱炉から精製される鉄のような怪しげな光に照らされながら、暗闇で星剣を引き抜く私の姿はなんに見える事だろう。
「ひゅう! 久しぶりに見るぜ、鬼神か悪魔だなありゃ」
「まったくだ、アレは何時だったかな?」
「俺が見たのは隣国が攻めて来た時だぜ」
「へえ、そうかい。そうだな、俺は飛竜の時だった」
「私は、なんかきれいに見えるよ」
私が燃え盛る星剣を振り上げた時、野次馬の声が聞こえる。本当に暇な奴らだよ、肉体だけでなく視力聴力まで活性化するのも困ったもんだ。
さあ、時間だ。
私が片手で星剣を一閃し、眼前の奴らを無言で睨みつけるとこの異様な姿を始めて見たのだろうか、いい大人が座り込んだまま震えあがっていた。
でも、関係ないな。
先に剣を抜いて仕掛けたのはお前らだ。
ここは、無慈悲な世界だ。
噛みつく奴には死が待っている。
私の邪魔をする奴は誰であれ葬るだけだ!
「うあああああっ! なんだコイツは!」
「バ、バケモンか!」
「いい女にかける言葉じゃないぞ」
いつも浴びせられる、こんな奴らの言葉は聞き飽きた。
星剣も語りかけて来た、「斬り裂け」と。この異世界に来ても同じ言葉を伝えてくる。感じるたびに思い出す……生きているんだ、命を育むこの星も……。
「こ、こんなのは、こけおどしだ!」
「二人相手に何ができるか!」
二人の男はビビりながらも立ち上がり、私に剣を向けたようだ。逃げない事だけは褒めてやろうか。まあ、逃げても結果は同じだがな。
「ふう!」
ひとつ息を吐いて呼吸を止め、私は身をかがめ地を蹴った!
体中に溢れたウィルが全身を活性化した今、この体がもたらす跳躍からのスピードをただの剣士ごときは止められない!
蹂躙するのみ!
ガッ! 蹴り飛ばした地面に窪みを作り、私は一直線に敵めがけて走り出す。前傾姿勢を保ちながら、両手で星剣を右わきに構え力を込めた。それに呼応して星剣は、いっそう赤黒く発光し刃が炎をまとう。掴む柄が熱くなり、刃が高温を帯びた事が手に伝わる。
敵との距離は10mもなく、奴らが身構えて対応できる隙さえ与えるつもりもない、私は奴らの眼前へ肉薄する。
二人ともあっけにとられ無表情な顔だったが、そのくぼんだ眼球だけは見開かれて今起きている事を後悔しているようだった。
「ひゅ!」肺にため込んだ空気を吐くとともに、奴らの間合いに入った私は、先ず斬りかかって来た痩せ男に星剣を低い姿勢から振り上げて奴らの間に割り込んだ。デブ野郎にもこの身をよじりながら、振り上がった刃をそのまま横殴りに振り降ろして一閃し、そのまま駆け抜けた。
僅か数秒の刹那の時間だ。こいつ等には何が起きたかもわからんだろうな。
高温の刃が断ち切る手ごたえはいつも通り少ないが、骨まで断ち切った感触だけは伝わってくる。嫌なもんだが、屠った証と最近は諦めた。
ジャシュ、シャア―――ン!
くほあぁ! げはああぁぁ……!
私は少し離れて姿勢を正して奴らを見ていたが、声にならない苦悶を吐くともうその体は二つに泣き別れている。切り口はいつものように焼け焦げて、二人は四つに別れて地面に落ちた。
豚野郎が転がると同時に野次馬達からの歓声が上がる。血の気の多い連中達だ。
「オオオオ――ッ! またやりやがった!」
「いいぞユヅキ! 流石、業炎だぜ!」
「まったく、馬鹿な奴らだ、ハハハハハ!」
「姉さん! カッコイイ!」
まったく、これだから街中の荒事はやりたくないのに。まあ、いいか。自覚はないがファンもいるようだし。と、そんな事を思っていた時だった。
遠巻きに囲んでいた野次馬達をかき分けて、数人の軽装鎧仕立ての男達が現れた。見たことのあるその姿、この街の衛兵どもだ。その内の見知った顔が大声を上げた。
「ユヅキ! またお前か! ちょっと来い!」
やれやれ、また尋問かと私はその言葉は聞き飽きた。また、臭い牢屋泊まりが頭を過ぎる。
「まったくもう、うんざりだぞ」
正当防衛で振るった星剣を地面に突き立て、衛士長に文句を言った。私にも苦情の一つや二つ言う権利はあるってもんだ。
それと、もう一人、私に気になる視線を送る奴を感じていた。その冷めた眼差しからは、また厄介事の予感がする。
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