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第2話 晩酌後の戯れ


 街に着くと既に日は暮れていた。この国にしては比較的に大きな街カルタス。貿易都市の周りには20m程の石垣が積み上げられ、普通に入るには城門を抜けるしかない。


 いつものように番小屋で、金属片に打刻された傭兵プレートを見せると「ユヅキか、今日も殺したのか」と無遠慮に声をかけられたが、知らぬ顔を決め込んだ。そいつは両手を広げ呆れたような仕草をし、馬車を通した。


「いけすかんな。いつもいつも」


「へえ、お前さんでもそんな事を言うんだ」


「一応、これでも女だよ」


「ははは、そうだったな。すっかり忘れてたぜ。どうだ、旨い酒でも一緒に飲まねえか? へへへ」


 またこれだ、私の周りの男どもはいつもこんな感じで接してくる。だから、男は嫌いなんだ。


 たまに、ちょっと甘い顔を見せようもんなら、すぐ付け上がって言い寄ってくる。

 特に遠回しで、べたべたとしてくる奴は最低だ。はっきり言えばいいのさ、私の体を抱きたいってな。その方がいいんだ、私にとっては感情抜きで、肉欲だけに溺れられる方がずっと楽なのに。


「いや、今日はよしておこう」


「そうかい、じゃあ、お楽しみは取っておくか」


 まあ、こんな風に言い寄ってきてもチーニは、いつもさらっと切り替えしてくる。こんな処は嫌いじゃないから、長く付き合っていられる理由わけだ。


 ガラガラガラガラッ。


「どうどう! よおしいいだ、さあ、着いたぜ、此処でいいかい?」


「ああ、済まんな。また、仕事があったら廻してくれ」


「勿論だとも、普通の奴十人雇うより、ユヅキ一人の方が間違いがねえよ。じゃあな」


 チーニはそう言い残すと急いで馬車を走らせた。奴もこれから後ろの奴隷達の世話や怖いかみさんも待っているからお疲れさんだ。


 馬車を降りた私が向かう先は、寝ぐらにしている宿のひとつ『カマキ』。適度に宿は変えないと寝込みを襲われて面倒だから、自然と身に付いた習慣だ。この前もうっかりして長居したら、どこぞの兵士が数人襲ってきて返り討ちにしたまではいいが、部屋を半分ぶち壊して血まみれにしたら、宿の親父が泣きながら出ていって下さいと哀願されて面倒だった。


 宿と言っても、一階が酒場で二階が寝床。この異世界の宿屋は、何処にいっても大体同じ造りだ。まあ、酒と飯にあり付ければそれでいい。そんな気持ちで木造の古ぼけた宿の前に立ち、今晩の酒と肴に思いを巡らせた。


 ローブの埃をはたいてフードを下げ酒場の扉を開けて中に入ると、相変わらずランプだけの暗くて煙草の香りがする店内には、六台の丸テーブルに見知った顔、見知らぬ顔と半々ぐらいだが、十人程いた皆が一応に私に視線を向けた。興味本意の目の奴も多いが、中にはじっと値踏みするような視線を向ける奴もいる。そんな雰囲気の中で、宿の給仕をしている男の子、アニカが声を掛けてきた。


「お帰り、ユヅキ。お酒は何にする?」


 ここの宿屋を使い始めて、もう一年は過ぎ、この子も手慣れたもんだと思う。初めて見かけた時は、私の噂に恐々(こわごわ)としていたのを思い出す。店主の次男で十五六才になるこの子が夜遅くまで働く姿は甲斐甲斐しく見える。私は軋む木製の床を歩むと空いていた端の席に、帯剣をといて腰かけてオーダーをした。


「それじゃあ、まず大ジョッキでビールと肉に温野菜を」


「はあい、今日の肉料理は鳥煮込みだけどいいかい?」


「ああ、それでいい、生焼けは勘弁だ」


 私の返答に、ニコニコと笑顔を向けるとアニカは厨房へ向かっていった。


 不意に見せる笑顔、昔の地球なら美少年か。そんなつまらん事をあの子は思い出させる存在だった。いや、まあ忘れようか、そんな事などな。


 程なく届けられた、ビールを一気にあおる。キンキンに冷えた奴と違い、喉ごしは微妙だが苦味が強くて嫌いではない味わいだ。


「ふうー」


 酒を飲む事は今の私にとって、生きてると実感出来る数少ない瞬間の一つとなっていた。無論、切った放ったの荒事もその瞬間は同じようだが、後の虚しさがそれをかき消してしまうからやはり好きにはなれない。


 それからも、料理を肴に酒を飲んだ。もう何杯飲んだろう? 五杯めから葡萄酒に切り替えて飲んでいたのは覚えていたが、もう、何杯飲んだか解らなくなった頃だったろう。体も火照ってきていつの間にか、ぼろのローブを脱ぎ捨て、胸をはだけて赤ら顔を冷まそうとしている自分がいた。


 それでも浴びるように酒を飲んでいると、呆れた視線を向けていた奴も多かったが、中にはずっとねちっこい目を向けていた男が二人。


 いつものように知らん顔をしていたが、ここまでだと流石に、私に用があるのだなと酔いながらも思っていた。私が酔えば酔うほどにその視線に悪意が増すのを感じる、なぜなら周囲の成素と私の直感がそう告げるのだ。


 値踏みされたのは、私の体か、それとも剣か。どちらにせよ、裸一貫で生きてる私だ。好きに選ぶといいさ。


 頃合いかと思いつつ、席を立とうとしたが、アルコールが足にきていた。まあ、酩酊もいつものことで騒ぐ程ではないはずだ。


 そのまま、足を踏み出すがやはりふらつく。千鳥足で席を離れると心配したのか、給仕のアニカが、駆け寄ってきた。ふふ、可愛い子だ。


「ユヅキ大丈夫かい?」


「なに、いつもの事だろうさ」


「でも、凄い酔ってるじゃないか」


「だったら、私をベッドで脱がして優しく介抱してくれるか?」


 そんな軽口をアニカにすると、意味が解ったのか彼の頬が赤く染まった。ふふ、やっぱり可愛い。いやいや、酔ったせいだ、こんな感情は……。


 心配するアニカから離れて私は酔いを冷ますために、ふらつきながらも扉を開けて外に出た。宿から少し離れて、風に当たりながら上空を見上げる。酔って眺める優しい月夜の明かりは、どうしても昔を思い出してしまう。


 そうだな私は優月、本当の名前……。


 そんな風に自分らしくなく、センチメンタルになっていると、やっとお出ましのようだ、背後に人の気配がした。




 ザザザッザッ!


 とうとうお出でなすったか。振り返ると、やはりねちっこい視線の男二人。手に剣を握っているという事は、私の体が目的では無いって事でいいかな。まったく、どいついこいつも血に飢えてやがる。まあ、今は、酒で火照って気分も良い、話だけは聞いてやるか。


「私になんの用だ?」


「お前は、恨みを買いすぎた!」


「恨みのバーゲンセールなら、間に合ってるが」


「何をう! 意味不明な事を言いやがって!」


「あっ、すまんな。古い口癖さ」


 男達への売り言葉に買い言葉、私は軽口を叩きながらも既に臨戦体制に入っていた。帯剣していない丸腰の私を殺ろうなどと思うくそったれには、死有るのみだ。


 何故私が、業炎のユヅキと呼ばれているのか教えてやろうか。


 お前らを切り裂いて血の海に沈めてやる!

2話分の投稿ですがいかがでしょうか? ご意見、ご感想はお気楽にどうぞ。


もし、面白かった、次が読みたいと思った方はブクマをお待ちしています。

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