第1話 業炎のユヅキ
ハードボイルドな女傭兵はいかがですか。
つまらん奴らを斬り捨てるそんな異世界転生者の復讐劇の幕開けです。
私は、街で傭兵を生業としている。
領主やギルドから、依頼があれば何でもやる。
血みどろの戦場でも、奴隷商人の護衛でもいい、選り好みなどはしない。
野盗に頼まれても依頼は受けるだろう。
殺す事が好きなのかと問われれば、イエスと答えるだけだ。
勝利できれば何でも構わない。
自分が、生き残れればなんの憂いもない。
腹を満たすには、食い物が必要だし酒も欲しい。
だから目の前の敵を切り裂くだけだ。
もし私の体が欲しければ好きなだけ抱くといい。
つまらん奴なら斬るだけだ。
こんな世界は滅んでも構わない。
誰もやらないならいつか私が殺ってやる。
「”いつの日か”は、決してやってこない」
私は血で焼け焦げて赤黒くなったロングソードを肩に担ぎ、多数の屍の前でこの世界を呪った。
「相変わらずのお手並みだな、ユヅキ」
「なんの問題もない」
奴隷商人のチーニは私の手並みを誉めると、転がっている賊を苛立たしげに蹴飛ばした。切られた賊たちの亡骸は、その鋭利な切り口がいつもの様に全て焼け焦げている。
「まったく、こんな奴らが増えてたまらんわ」
「私は仕事が増えていいがな」
チーニヘそう告げると私は担いでいたロングソードを片手で一閃し、両手で掴みなおして刃を下に向けた。
「フーッ」と一息吐き、ロングソードを地面に突き立てると大地は、その身を震わせながらロングソードを飲み込んでゆく。
ゴゴゴゴゴゴゴ。
「いつ見てもあんたの業は凄いもんだ」
「これしか取り柄はないからな、こんなものただの呪いだよ」
この世界には業という力を持つ者がいる。人によっては魔法だと言うが、言霊を操り自らの生命エネルギーを変換し使う魔法とは全く異なっている。
業は努力で何とかなるモノではなく、生まれ持った者、選ばれし者しか扱えなかった。
空や大地にあふれる世界の成素『ウィル』に干渉する業の異能を手にした者達だ。
ユヅキは大地からのウィルに干渉してソードを創り出す。そしてこれは星のコアにその力を依存している。他の異能者と比べてユヅキ自身の抱えた業が深き故の異能力だった。
ユヅキは操るロングソードの名を自ら星剣と呼び、刃に高熱を帯びさせる事が出来た。この世界の殆どの鉄をチーズを切るように斬り捨てる事ができるため、彼女を知る者は恐れを込めてこう呼んでいる。
『業炎のユヅキ』又は『星剣使いのユヅキ』それが彼女の通り名だった。
改めてユヅキを見ると、とり回しの良いショートソードを腰に収め、身なりは手足に金属製のプロテクターと胸あてをまとう軽装で衣服の面積は少なく露出した箇所が多い。
目はやや鋭く吊り上がり碧く、細面。髪はアッシュブラウンの長髪を束ねている。身長は約175cm。女性にしては大柄だが、服から露出した腕や太もも、腹筋には筋肉の躍動が見られる。
鍛えられた体は肉食獣のようにしなやかで、爆発的な瞬発力も持ち合わせており、戦うときは放たれた野獣が脅威の星剣を振り回して敵を切り刻むのだ。
普段は、その身を隠すように古ぼけたフード付きローブをまとっている。
私ら二人は賊の亡骸から金品など、目ぼしいものを集めると幌馬車に積み込んでゆく。荷台には鉄柵の中に商品である奴隷達がいた。
皆黙りこくり膝を抱えて顔を伏していたが、一人だけ眼を見開く者がいる。
金髪の幼女。きっと拐われたか親に売りに出されたのだろうな。
きっと、これからどこぞの変態達の玩具にされる運命に違いない。
少し食指を動かされたが、気に留めない事にした。
幼女と目が合った際に私はそう考えた。
特に不憫だとか哀れだとも考えたりはしない。
弱い者は、抗う術を持たず蹂躙されるしかないからだ。
これが世界の仕組みと心得ている。
私も、この世界に不条理に流されてきた。
西暦2055年の日本から来た異世界転生者だからだ。
正確に言えばこの魂は二度目の転生になる。
今回の転生も悲惨なものだった。
当時、日本で女子高生だった私は、ある事件に否応なく巻き込まれた。
地球に迫る脅威と戦う道に立たされたが、その闇に潜んでいた真の脅威へ後わずかの所でたどり着こうとしたが、仲間の裏切りにより敗れて死んだ。
地球を救えなかった。そして一つの世界が無に帰った。
私の魂は地球の意思と自らの無念さで、星の収縮による重力崩壊で出来たホールを渡りきり、この異世界へ24年前に転生して来た。
二度目の転生は初回と違い、前世の意識や知識を保持できたため自分の身に起こった事を良く覚えているし、物理法則もほぼ同じで文明の進んでいないこの異世界では重宝している。
だから、私にとって他人はどうでも良くなっていた。
世界は残酷だ。自分だけが生き残ればいいと。
信じたものに裏切られ死んだ事で、他人に関わる事など願い下げだった。
「あと2時間ほどで街に着くが、それでこれからどうするんだい」
「いつもどおりさ。酒場で酒と飯さ」
私はチーニへそう言うと馬車の御者台に飛び乗り、ローブでその身を包む。
「女のくせに無口だね。よし進め」とチーニも手網をとり、一鞭くれて馬車を走らせる。
馬車に揺られながら、フードの奥から進む道を目を細めて漠然と眺めていた。
「わたしも、よくよく運のない女だな」
私はなぜか、思わずぽつりと呟いてしまった。
本日は、もう一話を16時頃に投稿予定です。