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不死講  作者: ふっくん◆CItYBDS.l2
第二夜 異世界に飛ばされた僕は探偵稼業で食っていく~シュレディンガーの猫~
3/12

異世界に飛ばされた僕は探偵家業で食っていく~シュレディンガーの猫②

―――――



 ある日突然目が覚めたら、そこは異世界だった。

果たして、インターネット上でどれだけの数の物語がその語り口で始まったことやら。うん断言しよう、間違いなく果てしない数であろうさ。

実際のところどうなんだろうね、世に溢れるニートの数と等しいぐらいあるんじゃないか。

一家に一台、一人のニート。

そのニートが、それぞれ一つだけ異世界転生の物語を夢想したと考えれば実に現実的な数字でなかろうか。


僕の物語も、そんな海千山千の一つにすぎない。


目が覚めると、知らないベッドで僕は寝ていた。

見慣れない部屋を恐る恐る進み、とりあえず顔を洗おうと洗面所にたどり着き鏡を覗くと。

そこには、『CDラジカセ』がこちらをのぞき込んでいた。


ふむ、実に意味不明だな。だから簡潔に説明しよう。

僕には、生身の体がある。正確には首から下にはだ。では首から上はと聞かれると、それは『CDラジカセ』であると答えるしかないのだ。

本来あるはずの頭がなく、そこには『CDラジカセ』が据わっている。

目も鼻も口も耳もない、思わず悲鳴を上げたらちゃんとラジカセのスピーカーから声が出てくる始末だ。


僕は、慌てて部屋の外に出たさ。

そうしたら、そこには驚きの光景が!?あるはずもなく、ごく自然な知らない街並みがあるだけだった。ただ一点を除いてでだ。


まあその一点と言うのは、街を歩く人々の中に誰一人も真っ当な人間が存在していなかったとうことさ。

僕同様に電化製品を頭の代わりに据えてる化け物もいれば、無機物に手足だけ生やしたようなファンシーな生物もいた。

だがただ一人として、電化製品の代わりに頭をのっけ、体に手足を生やした真面な人間はいなかった。



 僕は、混乱した頭を抱えながら部屋に戻ったさ。

そうすると、来客があったんだ。そいつは頭を抱えている僕を心配そうに覗き込んで「悲鳴が聞こえたけど大丈夫か?」と声をかけてきた。

聞くと、そいつは僕の部屋の隣人で僕の友人らしい。当然、僕は大丈夫じゃないと答える。

ちなみにそいつの頭にはデスクトップPCが据わっていた。



「仕方ないなあ、じゃあ偶々いま神様が舞い降りたところだから。神である俺が友人である君に一つだけ願いを適えてあげよう。だから元気出せよ」



ああ、こいつは何を言っているんだ。まったくさっぱりわからない。

だがしかし、これはまさに異世界転生物語のテンプレートではないだろうか。ならばチャンスを逃してはならない。

混乱した頭で、僕は僕渾身の願いを導き出した。



「亜人ハーレムを築きあげたい」



「……なんだいそれ?まあ、よくわからないから君には無限の可能性を授けることとしよう」



「そんなものいらない。いや、それがあれば義理の妹11人との共同生活ができるかもしれない。くれるならもらっておこう」



さて、他愛のない隣人であり友人であり自称神様との会話をヒントに僕はある仮説にたどり着いていた。

後に、その仮説が正しいということを僕は思い知ることになるのだが。



その仮説とは

「この世界は、人間だけでなく世界観も狂っている」である。



――――――



 はてさて、それでは時間を現在に戻してみよう。



「なくなった結婚指輪を探してほしいの」



頭の代わりに『電卓』が据わった美人からの依頼だ。何をもって美人と判断してるかって?言わせるなよ、体だよ。言っちゃったよ。

しかし、電卓でさえ結婚しているというのに僕の体たらくよ。

いったい僕の妻はいつになったら、僕の目の前に現れ、そして熱いキスを交わし、ギュッと抱きしめてくれるのだろうか。


いい加減待ちくたびれたぞ。

あの自称神様が、本当に僕の願いを適えてくれたのか大いに疑問だ。近いうちにでも、酒を集りに押しかけてみよう。



「でも、それはまた今度にしよう。仕事が入ったことだし今晩は景気づけに行こうかな」



「どこにいくのよ。どこかに行くなら私の問題を解決してからにしてくださる?」



電卓に釘をさされてしまった。そういうのってトンカチの仕事では?


つまるところ彼女の話を聞くに、依頼の内容はこうだ。

電卓夫人は結婚して早数年、新婚生活という甘い日常も過ぎ去り刺激を求めて夜の街へ繰り出していたところ。

夫が安月給をやりくりして、買い与えてくれた結婚指輪をどこかに忘れてきてしまった。そして、その結婚指輪を僕に探し出してくれというものだ。



「ちょっと!ちゃんと人の話を聞いてたの!?」



どうやら、違っていたようだ。

そもそも僕は、人の話を聞くことは慣れていても電卓の話を聞くのには慣れていないんだ。




「私の夫の、『結婚指輪』君が亡くなったの!遺体を探してほしいのよ」



ふむ。やはりこの世界は狂っている。

電卓夫人の話は実にわかりにくいものであったが、つまり結婚指輪を失くしたというわけでもなさそうだ。


今度こそ依頼内容を正確にまとめると、彼女『電卓夫人』の夫が『結婚指輪』君であり、その夫が亡くなったものの遺体がみつからない。

だから、亡骸を探偵である僕に探してほしい。

そういう話らしい。



 小学生のころ、僕は「将来の夢」の宿題に「シャーロック・ホームズになりたい」と書いた。

もちろん当時の僕は、ホームズがヤク中のイカレだとは知らなかったわけだけど。

今や僕は、その夢を適え探偵となっている。ただ残酷なことに、ホームズの代わりに世界がイカレてしまっていた。



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