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不死講  作者: ふっくん◆CItYBDS.l2
~ようこそ地球さん~
11/12

異世界に飛ばされた僕は探偵家業で食っていく~ようこそ地球さん②


「おお神よ、僕をお救いください」



 隣室の自称神ことパソコン頭は、ちょうどピザをビールで流し込んでいるところだった。といっても、彼の頭には口がない。では、どこからピザを食しているのかというとディスクの挿入口にぎゅうぎゅうと無理やり詰め込んでいるのだ。



「ついに頭がいかれたか……いや、神を自称していた時点で気が付くべきだった」



「食事中に、いきなり押しかけてきて。いったい何だってんだ」



「君の神の力しか頼れるものがないんだ。僕の中から、僕を消去してほしい」



 僕の言葉に、友人は首をかしげた。僕は懇切丁寧に説明をすることにした。今の僕には、はるか宇宙の彼方から送られてきた『僕』という異物が上書きされていること。それが、僕に無上の苦しみを与え続けていること。偽物である僕が消えて、本来の僕に戻ることができれば、この狂った世界を僕は正常に送っていけるであろうということを。



「ごめんよ。神は死んだんだ……」



「ニーチェかよ」



「ネットの神は気まぐれでね、いつどこに降臨するかわからないんだ」



 ふと、窓の外をみると丁度深淵が横切るところだった。僕は、その暗闇をまじまじと見つめていると向こうもこちらに気づいたようで、目が合ってしまう。いや、深淵の目ってなんだよ。



「よっ」



 深淵は、古くからの友人にふと道で会った時のように軽やかな挨拶をおくってきた。



「人の部屋を覗くなよ。この破廉恥出歯亀野郎!」



 僕が、彼の覗き行為に敵意むき出しに抗議の声をあげると、深淵はすごすごと立ち去って行った。



「そういえば、キミには無限の可能性をさずけたじゃないか」



 深淵と僕のやりとりなんか気にもしないで、友人はもぐもぐとピザを味わっていた。



「そんなものは授かってない。なぜなら僕はいまだ亜人ハーレムを築けていないではないか」



「亜人ねえ……亜人って人間の身体に人間の頭がついてるような異形のことだろ。なにがそんなにいいのか私にはわからんね」



 おや、なにか妙なことを言っている。僕は、久方ぶりに自分の探偵としての才能を頼ってみる。

 亜人が異形であることは、まあわかる。だが人間の体に人間の頭が異形だって? ……そうか、この狂った世界における亜人とは、僕の知る正常な人間のことなのだ。


 

 !?



 僕は、亜人という単語から一つの真実にたどり着きつつあった。慌てて、友人を振り返り肩を強く揺さぶる。



「すまんが、もう一度言ってくれ!」



「よっ」 



 深淵が、再び窓の外に現れていた。



「おまえじゃない」



 僕は、窓の外の深淵に渾身のパンチをくらわす。



「そうだ! 僕はもう無限の可能性を授かった! 亜人のハーレムこそ気づけてはいないが、最強のヒロインが僕の下にはいるではないか」



 僕は、天を仰ぎ神を称える。僕に肩を揺さぶられて目を回していた友人が「もう一度言う前に、悟るなよ……」とため息を漏らした。



 自室へと慌てて戻った僕は、床で寝転がっていたシュレディンガーをもちあげクルクルと回った。



「シュレ! 君こそが、神からの授け者だったんだ!」



 狂った世界で、僕は偽物の僕だった。だがシュレディンガーはどうだ。猫の姿をもって、「にゃあ」となく至極正常なこの猫は、この異常な世界から見れば最も狂った存在ではないか。


 彼こそが、この世界での最たるオカルト。彼が神からの授かりものではないなんてことはありえない。



「僕に、キミのすべてを、無限の可能性をみせてくれ!」



 僕は、頭のカセットテープの挿入口をひらき。恭しく、シュレディンガーを招きいれる。猫だけにな!



 シュレは「にゃむにゃむ」と眠そうな声をあげながらも僕の中に入ってくれた。大きさ的に、猫がラジカセの中に入るなんてありえない。なんてことはなく、シュレディンガーの体はどんどん小さくなって、すんなりと僕の中に入ってしまう。



「さあ、帰るんだ!僕たちは僕たちの正常な世界に!」



 僕は、迷わずに再生ボタンを押した。




 目が覚めると、僕は僕の部屋にいた。あの汚らしい探偵事務所ではなく、本物の僕の部屋だ。ただ天井がやけに高く感じられる。どうやら、僕は床で寝ていたらしい。



「おいおい、キミはどこから入ってきたんだ」



 あまり聞きなれない声をした男が、僕の体をやさしく持ち上げた。

 僕は、驚きのあまり「なーご」と鳴いた。ああ、そうかそういうことなのか。



「ふむ。なんでだろうか、僕はキミにシュレディンがーと名付ける気がするんだ」



 僕は、自分の顔をさわってみる。肉球がポムポムしてて、気持ちい。ああ、どうやら僕とシュレディンガーは本当に一心同体になってしまったらしい。だけどまあ、いいさ。



 僕は、僕の偽物だけど、そんな僕でもまたこの正常な世界で生きていけるのならば。猫の体になってしまうぐらい何ともない。友人や、家族とまた会えるならそれ異常にうれしいことはない。



 偽物の僕は、この世界で生きていく。このシュレディンガーの体と、いま僕を持ち上げている本物の僕とともに。

 



――――――


第二夜 異世界に飛ばされた僕は探偵稼業で食っていく


おわり


――――――


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