9.そんな詰まらない品、どこか別の店で買えばいい
ルミアが山に作ったクレーター部にやってきた俺とラニ。
俺たちだけなのは、ルミアとミナヅキは先日の話で今回の依頼では手伝って貰えないとわかったからだ。
視界には明らかにスライムより強そうな魔物がたくさんいる。
俺と同じくらいの全長のカラスだ。
「侵略的外来モンスターのスカベンジャーなのです」
何そのヒアリみたいなモンスターの区分。
「ルミアさんがやっちゃったたくさんの魔物の魔力を求めてやってきたって依頼書にはあったのです!光属性弱点なので私とは相性がよかったので倒しやすいですが、流石に数が多いのです。シノさんの魔法なら攻撃して逃げるのも簡単だからどんどん攻撃して欲しいのです」
「おっけ。ってか、ラニちゃん前は全身鎧にしてなかったか?メイド服のままでいいのか?」
ラニはメイド服のままだった。
戦闘時は全身鎧になってた気がするが。
「いやー、これルミアさんがブランケットから出した異世界産のメイド服じゃないですか?やたら防御力があっていいのです」
俺がラニに与えたメイド服は、ルミアがサモンブランケットから出した召喚物だった。
異世界のものは耐久性も上がるとか言ってたが、全身鎧よりも良いのか。
耳をピンと立て、エクスなんとかちゃんを構えてスカベンジャーに突貫して行くラニ。
「ではでは、いくのです!近距離からのエクスなんとかちゃんアタック!」
スカベンジャーの頭にエクスなんとかちゃんが触れる寸前、光が現れ、光ごと相手を殴り倒す。
「おう。んじゃ、春風!」
俺も魔法を唱え、今回は虫取り網でなくちゃんとしたナイフを買って貰ったので構える。
一回では無理だが何回も切りつけていると光になって消えていく。光になるまではそこそこエグい絵面だが
「あれ?意外と弱くねえ?」
「思ったより倒せてるのですね。多分、単純に速いので手数が違うのです。相当回数切り付けたんじゃないのですか?」
ラニは一羽スカベンジャーを倒したらまた次へ、と走って行く。
俺は、視界に入るスカベンジャーにどんどん近付いて切り付けていく。
全然反撃を受けない。
「なんかシノさんずるいのですー。安全そうで」
「ラニちゃんもエクスなんとかちゃんアタックを飛ばせば安全にいけるだろ?」
「撃ってから弾道の操作とか出来ないので遠いと当たりづらいのです!」
何匹も俺が倒す中、近づいては一匹近づいては一匹倒すラニ。
これは遂に俺つえーがはじまるのかもわからん。
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周辺のスカベンジャーを掃討し終えた頃、俺は岩の上で横になっていた。
決して休みたくて休んでいるではない。何度も春風を使ってる内にそうなったのだ。
途中で気付いたが、時間が経つと効果が消えるみたいだが重ね掛けが可能で効果も時間も延長される様なので調子に乗ってたらこうなった。
俺つえーはじまらなかった。ラニが俺を見ながら言ってくる。
「魔力切れですね。やっぱりシノさんは程よく無能なのです。魔物は基本的に群れで出てきますからそんなんじゃ役に立たないのです」
「おうおう、好き放題言ってくれるな。けどもう無理」
「うーん。怪我なら治してあげられるのですが、魔力切れはうんともかんとも。この状況で襲われたら、私はともかくシノさんはやばいのです。けどけど私としてはさっさと帰りたい今この瞬間。帰っていいですか?」
「ラニちゃん、俺たち友達だろ?」
「そ、そうでした!おんぶしますか!?」
「ありがとう今までよく生きてこられたなお前」
ラニが背負っていたエクスなんとかちゃんを両手に持ち、俺をおんぶする。
手の支えがないので、しっかりラニをホールドする俺。
「かなり少々恥ずかしいのですが」
「だっておんぶと言ってるがほぼ自分でしがみついとるんだから仕方ないだろ。早く帰ろう今日はお赤飯だよ」
「何言ってるのかわかりません異世界のセクハラですか!?」
「安心しろ俺もよくわからん疲れてるんだよ発育いいですねラニさん」
「急にさん付けで呼ばないでくれませんか!」
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家に戻り戦果を報告する。
「と、言うわけでシノさんはザコは倒せましたが数が多いとスタミナ切れ。強敵には通用する程の火力ではない感じなのです」
「強敵は私の経験値の足しにするから呼んでくれればいいけど、ザコの魔物相手にスタミナ切れは頂けないわね」
「そうは言ってもなあ…いてて」
戻ってくる間に多少は回復してものの、筋肉痛とかそういうのとは違う疲労感。
いやほんと立ってるのも辛いテーブルを手すり代わりにしながら椅子に座る。
「どっこいしょういち」
「おっさんくさいから止めてくれない?」
「どっこいしょうたろう。ほら言い直したぞ」
「ショタくさいのにおっさんくさいのです。不思議」
「ともかく…これじゃ簡単な依頼もこなせないわ。お姉様、何か対策はないかしら」
「そうですねえ…慣れだとは思うのですが、てっとり早く薬使っちゃいますか?」
「ああ、精神が安定して魔法以外何も考えられなくなるやつね」
「おいなんだそれは」
頷くミナヅキ。話を聞くと、この世界には魔法の精神集中用の薬が売っているらしい。
俺の様に魔法ですぐ疲れるのは、使う際に集中が出来ていなくて無駄な力を使うから、らしい。
「基本的に魔法を覚えたての人向けのものですから安価ですし、効果は保証されてます」
「じゃあ、明日買いに行きましょう。確か魔法薬の店はイオにもあったはずだわ」
そう言ってルミアは、俺に銀貨の小袋を渡してくる。
「これで買って来いと」
「何を言ってるの?今日はシノも頑張ったみたいだから、お小遣いよ」
「え」
「スライムと違って、スカベンジャーは初心者にはそこそこの相手よ。頑張ったわね。付き合ってあげるから、それを持って明日薬を買いに行きましょう」
おお。死に掛けても貰えなかったお小遣い。遂にお小遣いである。俺の、金。
俺が痛みを忘れて本当に小躍りしているのを、ルミアが目を細めて見ている。
「ずるいのです!私にも欲しいのです!お金はいくらでも欲しいのです!」
「貴方はお友達でしょ?」
「なんか毎度感バリバリですしお金絡みだと騙された感じもありますがお友達ですしいいのです!今夜お部屋でパジャマパーティして下さい!」
「ありがとう今までよく生きてこれたわね貴方」
■■■■■
翌日。ルミアと二人で街中の商店街にやってきた。
ラニは山に討伐に。ミナヅキは家事をしてくれている。
毎度のプカプカチェアーに座り浮いているルミア。俺は休んで多少回復したので普通に歩いている。
「さて、どの店にしましょうか。店によって同じ薬でも効果はばらつきがあるわ」
薬と言っても大量生産ではなく、一子相伝のレシピだったり、生産者の資格や腕でも質が変わるらしい。
「大きい店はあくまで大衆向け商品が売りだから、こういう商店街の個人商店の方が魔法薬の品質がよかったりするの」
「世間知らずのルミアの割によく知ってるな」
「ふふ、本だけは読んでるから。知恵ある引きこもりは本を読むものなの。コスパ抜群の最高の娯楽よ」
見ればルミアは『魔法薬の正しい買い方』という本を持っていた。なるほど。
「で、どの店がいいんだ?」
「こういうのは、大概にして商店街とかの路地裏の怪しい店が凄いのを売ってると相場は決まっているわ。一応、並びにある店も冷やかしつつ探しましょうか」
「はいよー」
二人で適当にぶらつきながら、店を探す。
すると、袋小路の先に明らかに怪しい店を見つける。
一見すると店にも見えないが、扉には張り紙があり『貴方の欲しい魔法道具取扱あります』と書いてある。
「突き当たりすぐ!的な看板も出さない店。ここしかないわね」
「俺の世界なら、言っちゃ悪いが入らないタイプの店だな」
「まあ、駄目な店だったら出ればいいだけよ」
言って明らかに怪しい店に入る俺たち。
中に入ると店内は薄暗く、棚には瓶に入った透明な薬が並んでいた。
そして、店番だろうか。典型的な魔女の格好をした小さな女の子がいて、こちらを見てきた。
店番の子だろうか。女の子が口を開く。
「いらっしゃいませ」
「魔法使用時の集中用の薬はあるかしら」
「そんな詰まらない品、どこか別の店で買えばいい」
なんだこの店。俺がルミアがちらりと見ると、眉根を寄せ困った表情をしている。
すると、女の子が棚からではなく、カウンターに置いてある値札付きの指輪を手に取り。
「貴方に必要なのはこれ。用意しておいた」
「どういう事かしら?」
「強過ぎる力を一時的に抑える指輪。異世界知性体をはじめてのお友達感覚でちょいちょい甘やかす貴方は、死なせかけたり、自分のせいで受けた依頼で魔物と戦わせる事にほんの少し負い目を感じている。これをつければラグナロクによる砲撃の力を抑えられる。地形を変化させない程度の出力で砲撃可能だからザコ狩りを手伝える」
「「!」」
驚く俺とルミア。
女の子は淡々と
「驚いている様だな。私はイオで最も察する力のあるはじまりの街イオの魔女の雑貨屋さん店主」
「察しすぎだろ。何者だよ。って言うか今のが事実ならルミアもぼっちなのか」
「やめてほんとやめて不敬だから。とにかく何者店主よ!?」
「何者店主よってなんだよ」
少し顔を赤らめながら店主を問い正すルミア。言葉がいつもよりも変になっている。
「これだから察する力のない人たちは。私の素性を知りたければ、指輪を買ってくれた上でするべき事がある。察する力は飲み会とかでとても役に立つ力。ついでに私は朝ご飯を食べていない。ここまで言えばわかるはず」
「おいこの何者店主、ラニちゃん並にめんどくさい奴だぞ」
「そうね。指輪だけ買って他の店に行きましょうか。指輪の代金はシノが払って頂戴」
「えー、この世界ではじめてのお小遣いなのに」
「この手の類を女に支払わせる気?お小遣いならまたあげるから」
「それ、俺が買うことになんのかね」
指輪に記載されている代金を置き、買って帰ろうとする俺たち。
それを止めようとする何者店主。
「待ちなさい。まだ話は終わっていない」
「その代金でご飯食べればいいだろ?」
「察しなさい。私はお酒の飲める店でご飯を食べたいと言っている」
「この世界ってお酒何歳からいけんの?」
「特に飲酒について規制はないわね」
「そうか。じゃあ帰ろうか」
「いやほんと待ちなさい!いやちょっと待ちなさい!察しなさい!ノリボケっぱなしはやめなさい!」
なんとなく同じ様なやり取りを何度かした後、このよくわからない店主と3人で食事に行くこととなった。
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