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8.まずは魔法とは何か

魔法。本来であれば成し得ない事を行う行為。

俺の知る物理法則とは全く違う、異世界のルール。


「だもんで、そもそも深く考えた事なかったんですけど魔法ってそもそもなんなんだ?」


俺は食卓で紙と鉛筆を渡され席に着いていた。

目の前には、ボディスーツから普通のスーツに着替えたミナヅキが眼鏡をかけて立っている。

いわゆる女教師ファッション。まずは形からタイプなのだろう。


部屋の隅ではルミアが本を読んでいる。

また、俺が魔法を覚えて戦力になるまでラニは一人で討伐依頼をこなす事になった。

「一人での依頼はまあ慣れているのです。一狩り行こうぜってやつなのです。その代わり、後でちゃんと手伝って下さいね?」と言っていた。

ぼっち界隈では同じ言葉も別の意味を持つらしい。

ともかく、遂に俺は異世界の醍醐味である魔法を覚える事となった。




「そうですね。まずは魔法とは何か、ですね。うふふ、ルミアが幼い頃にもこうやって教えてあげたのを思い出します」


「お姉様、脱線はいいから話を進めて」


「はいはい…ではシノ様、この世界には召喚と言う力があるのは知っていますね?」


頷く俺。俺がここにやって来た原因だ。当然覚えている。


「はい。ルミアとか呼び出す側が召喚士サモナー。俺みたいなのが異世界知性体ビジターで、この世界は他の世界との境界が薄いから呼び出せるとかなんとか大魔王に聞いた気がします」


「そうですね。魔法とは、基本はそれと同じです。例外もありますが…何かをこの世界に呼び出し適応、固定してしまうのが召喚。一時的に他の世界の法則だけを持ち込むのが魔法です」


「他の世界の法則ですか」


「ええ。例えば魔族は日光は少々苦手ですが浴びても平気です。けれど、光属性の魔法には弱いです。これは、性質は似ていますが根本の部分で『この世界の光』と『魔法による異世界の光』が別物である証明となります」


ふむふむ。なるほどわからない。

俺が理解していない様子に気付いたルミアがまとめてくれた。


「召喚と魔法は別の物を呼び出すけれど、呼ぶ仕組みは似た様なものとだけ覚えておけばいいわ」


「なるほど」


ミナヅキは微笑みながら


「…召喚と魔法については、今はその認識でいいでしょう」


「そうね。シノは理解力に乏しそうだし」


「まあ実際この世界の仕組みはよくわからんからな」


俺はルミアの低評価を甘んじて受け入れる。散々低スペックだの言われてきたので慣れっこである。


「では、じゃあどうやって異世界から呼び込むか」


と言って、紙を取り出して壁に貼り、筆を走らせるミナヅキ。

多分、人間の形だろうか。芸術性の高い、言い換えれば下手糞な人間が描かれる。

そして、絵の頭部を指差すミナヅキ。


「脳が人間の経験を司る部位なのはご存知で?」


「はい。うちの世界でも常識でした」


「よかったです。では」


人間の絵の周りにぐにゃぐにゃミミズがのたくった様な線を描き加えていく。


「精神は脳を、肉体を超えて、広がっているのは?」

「なんですかねそれは」

「物質の上では脳に経験が収まっていますが、精神は物質では収まりきりません。肉体には収まりきらない個々の精神は、普段視認は出来ませんが周囲のありとあらゆるもの…自分他人動物魔物植物その他諸々と常に干渉し合い成長しています」


今描いたぐにゃぐにゃが精神ってことなのだろうか。

巨大スライムに捕食された人間でも描いてるのかと思った。

しかし、なんだこれ。変な話になってきた。


「宗教の勧誘は間に合ってるんですが」


「シノ、黙って聞いていなさい」


「そうですね。では、シノ様も『レベルが上がる』と言えば馴染みがありますか?あれは周囲の行動に影響をされて自身の精神が広がる事を指します。相手の精神が大きければ、状況が自身に強く影響を及ぼすのであれば、その分経験値も多くなります」


「魔王の証、私の場合は玉座たるこのプカプカチェアー。これは、私の精神をダイレクトに感じ取って成長するの。ドラゴンを倒したら蔦が生えたでしょう?」


「そうですね。どうですか、伝わりましたか?」


つまり、ルミアがグングニールでラグナロク砲撃を行う時。

またはゴブリンキングに俺が殺されかけた時。

そんな感じで大物と対峙するとレベルが上がり易く、精神が大きくなると。


「なんとなく。ほんのり。理解した気になりました」


「よかったです。では、早速本題です」


「お姉様は回りくどいわ」


「ルミア、基礎を理解してこそ後が楽になるんですよ?」




ミナヅキは人間の絵の周りに書いたぐにゃぐにゃの精神を現す線からビリッと紙を破った。


「精神はこの世界にあって、物質の法則から外れた概念です。全ての生命体が持つ別世界とも言い換えられます。この力を以って世界の境界を破き、力を取り出すのが魔法です。あまりに小さい精神では無理ですが、今のシノ様なら十分に世界に干渉出来るでしょう。早速実践です。家の中だと危ないので外に出ましょうか」


座学だけなので一切ピンと来ない俺は家の外に連れ出された。




■■■■■




「では、早速やってみましょう」


「少々話がとんでます。精神を集中する、とは」


「目を瞑って、さっき私がした様に紙を破くイメージをして下さい。私が指示するまで目を開けずにイメージを繰り返して」


言われた通り目を瞑り、イメージをしてみる。


すると、ビリッと音がした、気がする。実際は風の音しか聞こえていない。

しかし、確実に世界が破けた気配を感じる。他に例え様のない、知覚した事のない感覚。


異世界知性体ビジターはやはり適応してるだけあって飲み込みが早いですね」


「なんで出来ちゃうのかしら。スライムと互角の頃の期待を常に下回るシノはどこに行ったの?」


「やかましい。出来た時くらい褒めてくれ」


ルミアの野次に答えつつ、そのまま目を瞑り続ける俺。


「いいですね。では、そこから魔法を掴んで下さい。自分の精神を広げて、他の世界に干渉するんです」

「イメージが沸かない。さっきの紙を破くみたいな例えはないのか?」

「ここだけは強いイメージを持つと、それに引きずられた魔法を出してしまう怖れがあります。全く自分に合っていない魔法になってしまうと使いづらいので、最初は何も考えず、魔法を取り出す事だけ考えるんです」


むう。難しいがやってみる。

何も考えず、何も考えず………








なんか掴んだ、気がする。


「あ、来た来た。来たよこれ」


「軽いわね」


「では、目を開けて掴んだものをこの世界に呼び出して下さい。それがシノ様の魔法になります」


俺は目を開き、目の前に魔法を呼び出す。

瞬間。俺を覆う薄いシャボン玉の膜の様なものが現れる。


「おおおお何これ!?これ?これが魔法か!?」


「はい。補助魔法の様ですね」


「また地味な魔法ね。けど、一発で成功から要望通り褒めてあげる。えらいえらい」


「地味が余計だがありがと。で、これは何が出来るんだ?」


「さあ?なんとなくわかりません?なんとなくわかるはずですよ」


「そういうのってフィーリングよ」


途中から教え方がアバウトと言うかやたら雑になってないか。

けど、言われてみればなんとなく。


「これ使ってる間は、俺の走ったりとかの速度全般がやたらめったら速くなる、気がする」


「そうそう。そういうのですよ。ほら、実際動いてみて下さい」


言われてちょっと街の方角に走ってみると。

いつもと変わらぬ動作で走ったつもりだが、数秒で街まで辿り着く。

そして、そのまま後ろ歩きをしてみる。すぐに家の前まで戻ってくる。

え、何これやべえすげえ。


「え、何これやべえすげえ。普通に走ったのにどういう原理だこれ」


思ったことそのまま声に出た。


「地味だと思ったけど、便利そうな魔法ね。街まで辿り着いてたわよ今。買い物とか一瞬よ」


「そうですね。原理はわかりませんが、それが他の世界の法則というものです。ゴミ出しとかとても便利そうで何よりです」


「そこそこに使えそうな魔法なのにパシリの算段しかしないのか」


「まあ、それはともかくとして。魔法に名前を付けなさい」


「名前?決まってないのかこの魔法の名前。治癒ヒーリングみたいに」


「魔法の名称は、今の一連の魔法を出す行為を瞬間的に行う為の呪文キーワードですから正直なんでもいいんです。治癒効果の魔法は割と一般的なので皆同じ魔法として扱ってますが。シノ様は慣れていないでしょうから自分で考えた呪文キーワードの方が使いやすいかと」


「そうよ。良かったわね。シノが考えた最強に格好良い呪文キーワードを言う時よ」


なんだなんだ。嫌なプレッシャーをかけてくるなこいつ。

普段使いだと考えると変に厨二なワードが使いづらいじゃないか。


「何を考えてるか大体わかるから教えてあげる。エクスなんとかちゃんアタックみたいな、そのまんまだとセンスを感じないわ」


「そうですね。こう、神に祝福されてそうな名前の方が私も好きです。魔王ですけど」


「大魔王の家のセンスが厨二寄りなのはわかったから」


「まあ、実際に使うのは明日以降でしょうから。それまでに考えるのね」




■■■■■




魔法の習得を終え、家で休んで少しするとラニが戻ってきた。

汚れたメイド服でエクスなんとかちゃんを背負い、ケモノ耳は下を向いている。

こいつ、メイド服のまま行ったのか。


「つーかれたのです。今日は家事代わって欲しいのです」


「仕方ねえな。それくらいはやってやるけど、洗濯だけは代わってやれないからな?」


「あ、シノさんは魔法覚えられました?どうでした?使えます?戦えます?依頼手伝えます?予想では大して役にも立たない魔法を覚えて無意味な時間を過ごしたに一票なのです!」


「言ったなこいつ。おい、ラニちゃん補助魔法も出来るんだったよな?ちょっと表でろ。競争しようぜ」


「えー、もの凄い疲れてるのにハンデ有り過ぎなのです」


言いながらも渋々外に出るラニ。

ルミアとミナヅキも一緒に出てくる。審判役だ。


「では、向こうの一本杉まで競争して下さい」


「やるからにはへっぽこ異世界知性体ビジターには負けないのです!エクスなんとかちゃん加速トップギア!」


「おうおう言ってろ」


淡い光に包まれるラニ。こいつどんな魔法も適当に呪文考えてるんだろうな。

俺も意識を集中して、またさっきの魔法を自分にかける。再度現れるシャボン玉の膜。

ルミアが手を上げて


「はい、じゃあ一本勝負待ったなし。よーいドン」


スタートと同時にものの2秒で戻ってくる俺。駆け出したばかりのラニ。

俺が走った動きの風圧でラニのスカートが捲くれる。


「黒か。ラニちゃん大人だな」


「ちょ、なんなのですかっ!?」


顔を真っ赤にして慌ててその場から飛び退くラ二。事態に気付いていない様だ。


「俺の勝ち」


「え?何どういうことなのですか?」


「シノ様、もう一度。今度は歩くくらいで」


「はいよ」


もう一度、今度は歩いて帰ってくる。またラニのスカートが捲れる。

今度はラニの目でも追えた様だ。


「いやなんですかそれ!卑怯なのです!」


「と、言われてもな」


「シノ様はルミアが召喚してますから。世界への適正が高いので、自分に最も適した魔法を覚える事が出来た様ですね」


「俺はこの魔法を春風トリックと名付ける事に決めた」


「何かわかりませんが薄っすらセクハラな感じがするのですよそれ!」


「シノ、私の近くで使う時は気を付けて頂戴ね」


そんなこんなで俺は遂に魔法を取得したのだった。

ちょくちょく投稿済のも直していきます。

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