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5.文字通りのパワーワード

「グングニールは没収です」


「なんでどうしてシノ私に恨みでもあるの?」


「こんなん毎度好き放題振るわれてみろ!受付のお姉さんも困ってたろ!」


「力抑えるから」


「俺が許可するまでは使っちゃいけません」


大魔王はこの世界をドカンと破壊する力を持っていたらしい。

最初は半信半疑だったが、ここ数日のルミアの力を見ていればわかる。

末娘にしてあの力。軽く世界は滅ぶだろう。


そして、同時に数日過ごしてわかった。こいつ、人間の世界の常識がない。

グングニールを取り上げると、ルミアは立ち上がり手をバタバタさせて奪おうとしてくる。

身長は俺のほうが高い。奪われることはない。


「嫌よ返して」


「何を駄々っ子みたいに!もう16だろ!」


「嫌よ嫌よ嫌なのだわ!ふん、16歳ミニスカ美少女魔王候補が日傘を取り上げられて泣きそうな件についてって依頼出してくればすぐに取り戻せるんだから」


「どうしたルミア不安定だぞ精神が安定して何も考えられなくなる薬買ってきてやろうか」


「ひい薬漬けにされるわ」


「いや本当にどうした」


「それないと心細いのよ。いつ世界に訪れた束の間の平和を乱す本気勇者に狙われるかわからないのに」


「今回世を乱したのはお前だよ!」




■■■■■




いつまでもルミアがぐだぐだ言うので、とりあえずここぞと言う時以外使わない約束をして返してやった。

ルミアは俺がグングニールを布で拭いている。


「…男の手汗嫌だったわね。もう大丈夫よグングニール」


「人を汚物みたいに言わないで欲しいんだが」


そうこうしていると、扉のドアを叩く音がした。


「お、まさかのお客さんか?」


「シノ、出て頂戴」


「はいよ」


俺が玄関を開けると立っていたのは数少ない見知った顔。


「ラニです!また来ちゃいました!」


ローブ姿で巨大な杖を持った女の子。先日のラニだった。


「あんた凄いな。あんな目にあってこんなにすぐ来るもんかね」


「いやだってあの瞬間はすっごい怖かったですけど後から冷静になってみたらルミアさんに目の前で魔法使われただけなのに経験値凄かったんですもん!今日はちゃんとお金払いますから!」


「そういやこないだ貰ってなかったな。はじめてのお客さんだからサービスして」


ルミアの言う様に経験値はたくさん入った様だ。

また、どうやらダンジョンのボスと言う職業は負けた冒険者から所持金の半分を巻き上げてもいいらしい。

冒険者とチンピラの違いがわからない、とルミアは前に言っていたが、俺はダンジョンのボスとヤクザの違いがわからない。


「って言うか、あんた街でなんかここが怖いみたいな噂流したろ?」


「はい!だってこんな割の良い稼ぎスポットに他の人が来たら連日大盛況で順番待ち凄そうですし!」


「見かけによらず打算塗れだな。友達いないだろ」


「…王族は孤高なものなんです。十把一絡げの有象無象の所持金より私が谷町スポンサーになった方がお金の入りもいいはずですよ!後、シノさんでしたよね?あんたとか他人行儀でなくラニちゃんって呼ぶ権利を上げます!って言うか呼んで下さい!」


「ラニちゃんめんどくせえ」


嫌な王族しかいないなこの世界。

後ろからやって来たルミアが一瞥して


「これはグングニール使っても良いパターンよね?」


「純粋な疑問だけど、直撃させるとどうなるんだ?」


「消し炭」


「シノさんもルミアさんもつーれーなーいーです!ほらほら常連さんの相手したげて下さいな!」


「「ラニちゃんめんどくせえ」」




■■■■■



「大魔王の末娘以下略はい口上終わりラグナロク」


最早ダンジョンとは名ばかりで家の前でラニを相手するルミア。

ラニは魔法を掠められ、ルミアに降参し代金を支払った後、話したい事があると図々しく家に上がってきた。

入ってくる際、耳をピンと立て、何故か頬を上気させている。なんだこいつ。


「…ギリギリのところを掠められて死の恐怖を味わった後に私の中に経験値が満たされていくと癖になりそうです!」


「どうしたラニちゃん不安定だぞ精神が安定して何も考えられなくなる薬買ってきてやろうか」


「本気でやめてシノ。この子に私に対するネタと同じネタで天丼しないで。不敬よ」


「ごめんごめん。で、ラニちゃんどんな用なんだよ?」


「ふっふっふよくぞ聞いてくれました!」


テーブルの上に街周辺の地図を広げるラニ。


「この辺りにルミアさん以外の大魔王の娘さんがこの辺りの強力な魔物の気配を嗅ぎ付けてやってきたと街で噂になっているのです!」


「あら、お姉様が」


「はい!しかもすっごい異世界知性体ビジターを連れているらしいのです!なんでも巨大人型機械破壊神とかなんとかでして!」


巨大人型機械破壊神とはなんぞ。文字通りのパワーワードだな。


「ルミアのお姉ちゃんそんなん連れてるのか?」


「ええ。それは間違いなく大魔王の長女にして私のお姉様よ。今は21歳になっているはずね。巨大人型機械破壊神を駆り宇宙からこの星の侵略を企む異星人やら新魔王をばったばったと薙ぎ倒しているの。おそらくもう魔王を名乗れるだけの力をつけているはずだけど、この辺りに来ているのね…」


情報量過多である。

この世界に慣れてきたつもりだったが頭痛がして来た。


「で、お姉様の話がどうかしたの?」


「折角なのでパーティ組んで頂いて魔物を倒した経験値少しでいいんで頂きたいな、と!ついでに大魔王の娘さんが狙ってるってことは新魔王の可能性もありますから討伐の経歴を得たいな、と。そこでご家族であるルミアさんに白羽の矢が立った訳ですよ!」


「せこいラニちゃんせこい」


「えへへ褒めたって何も出ませんよう!」


「貴方を連れて行くかは別にして、お姉様の居場所に心当たりはあるの?」


「巨大人型駆動云々なら目立つんじゃないのか?」


「戦闘時か長距離移動の時以外は人間を刺激しない様に亜空間に収納しているはずよ」


「便利ですね。通りで最初以外の目撃情報が出てこないと思いました!しかししかし!私のラニちゃん情報網を甘くみたいで下さい!」


「はあ、どしたどしたはりきり残念娘」


「少しの間にどんどん扱いが雑になりますね!けど友達っぽくていいです!」


こいつ本当にぼっちなんだろうな。

ラニが背をそり胸を強調しながら手配書を出してくる。


「街から数時間くらいの距離のところにある湖で商隊が襲われる事件があったのです!人的被害はなかったそうですが、逃げのびた人たちはゴブリンに襲われたと言っています!今時人間を襲うゴブリンです!馬鹿ですが最低限の知性はある魔物なのにです!元々その辺りにはゴブリンキングと言うユニークモンスターが生息していたので、初心者向けの街近辺ならそこまで大事にならないだろうと新魔王を名乗り始めた可能性なきにしもあらず!」


「人間との和平に至って20年目にして動き出す辺りは大物過ぎるわね。新魔王なんてそうポイポイ発生しないわ。ちょっと強くなっただけで勘違いした魔王未満の馬鹿なゴブリンキングじゃないかしら」


「ともかく!そいつの辺りにルミアさんのお姉さんは来るんじゃないかと!よしんば来なくて、かつ万が一に見つかっちゃったりしても更にゴブリンキングが強過ぎてもルミアさんが居れば安心です!」


本当に打算塗れである。

どうだこの完璧な作戦は、と言わんばかりのドヤ顔のラニ。イラっとする。


「どうするルミア」


「気が進まないわね」


「えー?なんでですか発育足りてない子は頭に栄養が回るのが世の常ではないのですか!こんなに私にとって美味しい話はないと言うのに!」


「相変わらずイラっとするわね。そこよ、お姉様には久しぶりに会ってもいいけど貴方を連れてく必要性を微塵も感じないの」


「えええー。ほらほら私、戦いも出来ますが本業はエクスなんとかちゃんによる回復魔法ですよ?あらゆる回復魔法を操り、死者の蘇生すら出来るのですよ?意外と役に立ちますよ?」


「ルミアが治癒ヒーリングより凄い回復魔法使えないならまあ使えないこともないんでないか?」


「まあ、私はともかくシノは脆いし万が一があるかもしれないわね。いいわ。その代わり足の手配は全部するのよ?お姉様は仕事が早いから明日にでも行かないと終わってる可能性が高いわ」


「やった!はじめてのパーティ結成です!エクスなんとかちゃん喋らないから寂しかったのです!これで友達ですね!」


「友達になるかは検討させて貰うわね」




■■■■■




翌日。早朝。晴れ。

家の前で俺とルミアは、ラニを迎えた。

イオちゃんは家で留守番だ。

家の前にはトラックを運転するラニがいた。


「お待たせしましたー!トラック借りてきました!」


「おー、俺の世界のだぞこれ。こんなんもあるんだな。情緒も糞もない。馬車とかじゃないのかこういう時は」


「馬車とかは結構揺れますからね。これなら舗装されてる道ならそこそこ快適なのです!結構借りるの高いんですから!ささ、助手席は一人分ですよ!到着するまで話相手になって下さいな!私とエクスなんとかちゃんの活躍の日々を話させて下さい!」


「私はプカプカチェアーがあるから、荷台で」


「俺もまだ眠いんで荷台で横にならせて貰うわ。毛布ある?」


「助手席空けて二人とも荷台に乗る必要なくないですか!?」


「私もまだ眠かったから持って来てあるわよ。荷台に防音効果と揺れを感じない魔法道具置いておくわ」


「ルミア流石だ。んじゃ、ラニちゃん到着したら起こしてくれな?」


「二人して無視しないで下さい!」


ラニを無視して寝床の準備をする俺たち。


「しっかし天気いいなー。これから湖に行くんだろ?何か食べ物持ってくればピクニックみたいになったのにな」


「ふふ、サンドウィッチを作ってきたわ。後で食べましょう」


「おー、俺より大分早く起きてたみたいだがそんなん作ってたのか!」


「大魔王の末娘は失敗を経験して食事の用意も抜かりなくなったの」


「俺ルミアに召喚されて良かったわー」


「褒めてもサンドウィッチしか出ないんだから」


「二人が楽しそうにしてると寂しくなるんで早く寝るなら寝てくれませんか!」


「俺、後で運転代わってやるから。運転の資格とか要らないよなこの世界」


「無資格でいけますよ!絶対なのですよ!?お願いしますからね!」




俺たちは旅立ってはじめて冒険らしい冒険に向かった。

シチュエーションがトラックの荷台の上ってのは情緒に欠けるがまあ、いいだろう。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

読者様に感謝を。これから更新頑張ります。

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