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4.はい口上終わり

食卓には俺、ルミア、ラニがいる。とりあえず家に上げる形になったのだ。

獣人の国の姫らしいラニが口を開く。




「あらためて、私はラニです。パートナーの異世界知性体ビジターは意思ある聖なる杖のエクスなんとかちゃんです!」


意思ある聖なる杖…喋るのだろうか。


「ちなみにエクスなんとかちゃんは無口なので喋りません!召喚してはじめての時に頭に中に声が聞こえてきて、名乗ってくれたので異世界知性体ビジターなのは間違いないんですが!」


「その、エクスなんとかちゃんって名前は?」


「一回しか名乗ってくれなかったんですけど、滑舌が悪くてエクスまで聞き取れなかったんです…だから、冒険者装備登録もエクスなんとかちゃんで通してます!」


「なんとかちゃんで登録しとるんですか」


少し言葉を交わしただけでわかる。この姫は頭が足りないと見た。所詮ケモノか。

頭の中に響く声がこうして一般会話に入ってくるのも異世界感半端ないが、その声が滑舌悪いとかはじめて聞いたぞ。

と、言うか普段喋らないならそれはただの杖と違いはあるのだろうか。

つっこみ所を絞って欲しい。


「私も少し前に旅立ったんですけれど、大魔王さんとこの娘さんもようやく旅立ったと聞きまして!看板もあったからもしやーと思いましてご挨拶に伺った次第です!」


「ご丁寧なことね」


「あ、こっちの男性がルミアさんの異世界知性体ビジターですか?」


「あ、はい。シノと言います。人間です。18です宜しくお願いします」


「大魔王さんのとこは破壊神と聞いてましたが!」


「うちのお父様が破壊神は面白くないとか言い出してね」


この世界の姫は皆こう、一般人っぽいものなのか?ぐいぐい来るな。

しかし、この姫は最近旅立ったばかりだと言う。つまりはこの世界基準なら14だろう。

その割に体格もよく、胸も出ている。端的に言ってスタイルがとても良い。

16のルミアと比べるととても悲しい。

二人を見比べてしまう俺がいる。


「不敬ね。何考えてたか当ててあげましょうか?当たったらご飯抜きでいいかしら」


「ごめんなさい」


「ルミアさんは16で旅立ったんですよね!凄い遅いですね!何かあったんですか!大魔王さんの末娘なのに召喚出来なかったんですか!後、シノさんが考えてたのは発育の事ではないでしょうか!」


「初対面とは思えないナチュラル失礼ね」


なんかルミアがイラっとしているのがわかる。

自分で自分を卑下するのはいいが、他人に言われるのは嫌いな性格と見た。

ルミアが膝に乗せていたイオちゃんを床に降ろし、プカプカチェアーと共に玄関の方へ向かう。


「なんかイラっとしたから、ボス自ら最初のお客様の相手をしてあげるわ。代金は要らないわ。獣人の姫、外に出なさいな」


「え!いいんですか!やったー!」


そういえば、俺もルミアの力をまだ便利アイテムでしか見ていない。

大魔王の末娘とはどれほどのものなのか。俺も興味があった。




■■■■■




ルミアとラニが家の前で対峙する。

俺はとりあえず今回は審判役で良いそうだ。イオちゃんを抱えながら二人を見る。

ラニは完全武装状態。着ていたローブが魔法で出したらしい鎧に代わり、エクスなんとかちゃんを両手で真正面に構えている。

ルミアはいつもの学生服姿でプカプカチェアーに座ったまま。

サモンブランケットから日傘を取り出し、先をラニに向ける。

戸惑う俺とラニ。




「おいおい、ルミア。大魔王の末娘がどんだけ強いか知らんがハンデにしてもそれは失礼だろ」


「ルミアさん!一応私もそれなりに修行してから旅立ってますから本気でいいんですよ?」


そんな俺たちを見てため息をつくルミア。

両手でやれやれ、みたいなポーズを取っている。


「これだから人間は困るのよ。この日傘は魔王便利アイテムが一つ。私専用魔杖、『グングニール』に普段の実用性を兼ねて傘風にアレンジしてるだけよ」


「いきなり強そうな名前だな。魔王便利アイテムは確かに凄いんだけど日傘にしか見えないぞ」


うんうん、と頷くラニ。

とにかく何を言ってるのかわからない。


「そこまで言うなら、そこそこに本気を出してあげるから。シノ、さっさとはじめて」


「えー?お前本当にいいのか?開店直後から負けてたら魔王なんて名乗れないぞ?」


「いいから」


「そこまで言うならルミアさんも相当の自信あっての事でしょう!見た目には惑わされませんよ!エクスなんとかちゃん、力を貸して!」


「あー、どっちもいいって言うならいいよ。じゃ、はじめ」




俺が合図をしたと同時に、ラニの持つエクスなんとかちゃんが光を放つ。


「私のエクスなんとかちゃんの属性は光!魔族のルミアさんは多分闇属性!相性は抜群です!まだ魔王を名乗っていないとはいえ大魔王の末娘に勝てば私の王位継承権も上がるってものです!」


なんだかんだ言っても王族である。一応打算がある様だ。

ラニがエクスなんとかちゃんを大きく振りかぶって叫ぶ。


「恨まないで下さいね!眩い光で敵を穿て!エクスなんとかちゃんアタック!」


エクスなんとかちゃんから放たれた拳大の光の球がルミアに直撃する。


ぺち


軽い音が響く。頬に当たるが無傷のルミア。

自信満々だっただけあった。


「ええ!?エクスなんとかちゃんアタック喰らっても平気なんですか?魔族にはそこそこ威力出るはずなんですけど!」


「私はまだ魔王ではない。しかし、大魔王の娘である私は事実上の魔王候補。魔王ルールが適用されるの。汝魔王を討たんとする者よ、魔王が口上を述べる前に攻撃は通用しない。魔王もまた、口上を終えなければ攻撃を行えない。長い間、大魔王の玉座にも辿り着けずとうとう大魔王の方から和平を結んで貰った情けない人間たちにはそんなお約束も伝わっていないの?」


何それ。魔王ルールってなんだよ。

魔王って単語が多過ぎて耳がゲシュタルト崩壊するよ。


「俺、こないだ目潰し喰らった気がするけど」


「シノはいいの。私のだから」


なんだその理論。魔王ルールガバガバ過ぎないか。

ルミアはプカプカチェアーから腰を上げ、珍しく立ち上がる。


「まあ、あの程度の攻撃なら普通に喰らっても大丈夫だったでしょうけど…よく来たわね獣人の姫よ!この大魔王の末娘ルミアが直々に引導を渡してくれるわ!発育について口にした事を後悔させてやろう!はい口上終わりラグナロク」


「え?あ、はい?」


ラニが混乱している間に、ルミアがラニに向けていたグングニールの先から光を放つ。

エクスなんとかちゃんアタックの何倍も強烈な光に思わず目を瞑る。


瞬間。

遠くから巨大な爆音、耳がキーンとする。強烈な風が吹きイオちゃんを放しそうになる。

え?何が起こったんだ?


俺がゆっくりと目を開けると

ラニが膝から崩れ落ち、歯をガタガタ言わせている。

髪が少し焼けている。けど、全然大丈夫そうだ。

ルミアは相変わらずやれやれ、みたいな雰囲気を出している。


…見ると、グングニールの先にあった遠くにあった山の形が変わっていた。

マジか。こえー大魔王の末娘こえー。

明らかに動揺すべき場面だが、俺は持ち前の適応力で冷静に審判の役目を行う。


「はい、両者無事。ぞっこー」


「ええ?鬼ですか鬼なんですか!?降参です!」


ケモ耳娘は涙目だった。




■■■■■




ラニはぷるぷる震えながら帰っていった。

調子に乗りましたちゃんと修行してまた来ます、と言いながら怯えた様子だった。

まあわかる。


「なんつーかさ、俺必要?」


「要らないけど」


「ですよねー。あの威力は流石にないわ。オーバーキル過ぎるって言うか当たったら殺してたろ」


「だから当てない様にしてあげたのよ」


「って言うか、初心者向けダンジョンであんなん撃つやついたら間違いなく人は来なくね?」


「大丈夫。経験値とは何も倒さなくてもいいの。もちろん、倒した方が経験量は多いけど。イオちゃんを捕獲した時みたいに、何かすれば多少は経験が残るのよ。そうね、私の場合は対峙するだけでそんじょそこらの敵よりも相手は多く経験値を与えられるはずよ。宣伝にもなったんじゃないかしら」


「じゃあさ、俺がルミアと対峙すれば簡単に経験値を」


「駄目よ」


「なんでだよ!」


「中途半端に強くなってイキられても困るし」




わけわからん。会って数日だが何かとわけわからん。

そんな俺の様子を目を細めながらルミアは見ている。




「ふふ。召喚した以上は最低限養ってあげるから。言われたことだけちゃんとしてね?」


「くそう」




■■■■■




翌日。

そのまた翌日。

一応、家の前に開店札を出してみるが誰も来ない。


「誰も来ないじゃないか」


ルミアが首を傾げている。こんなに何日も来ないのは予想外であった様だ。


「私ほどの高レベル魔族と対峙出来るなんて早々ない機会だと言うのに」


「やっぱやり過ぎたんじゃねーの?」


「それにしたって、こんな街から目と鼻の先にダンジョンがあるのに冒険者が一人しか来ないなんて不可解よ。そろそろ買い出しに行って欲しかったし、それとなく情報収集してらっしゃい」


「はいよ」


ルミアからお金を受け取り、俺は街に繰り出した。




■■■■■




情報収集と言っても、俺に知らない人間に聞き込みする程のコミュ力はない。

この間のギルドに寄り、美人受付を指名で呼び出す。


「数日ぶりです」


「はいー!あ、シノさんですね!こちらの受付業にご興味を持って貰えましたか!?」


「いいえ、ノーサンキューです。それよか聞きたいことがありまして」


俺は、ルミアがダンジョンを作ったが冒険者がやってこないことを説明した。


「あー、街の郊外にダンジョンと言う名の一軒家が一夜にして建ったって聞きました!」


「知ってるんですね」


「はい。なんでも山の形を変える程の高出力の魔法を放つ初心者向けとは名ばかりのイカれたダンジョンってもっぱらの評判でしてー!」


ルミアの言っていた通り宣伝にはなっていた様である。悪い方向に、だが。

完全に俺が危惧した通りである。そりゃあんなの居たら初心者は来ないよな。

すっかりこの世界の謎ルールに毒されていたが、そうですよね常識的に。


「ルミアは当てない様に気をつけてくれてるらしいんですけども」


「あ、ルミアさんの事も噂になってますね。動かざる事山の如しと呼ばれた大魔王の末娘がとうとう動き出したと思ったら、はじまりの街の近所に居ついて挨拶に来たどこかの国の姫を泣かせたりしたとかなんとか。ルミアさん大物だったんですね言ってくれれば多少は宿くらい融通出来ましたのに!」


その噂を広めたのはどう考えてもラニだな。今度会ったら一言文句を言っておこう。


「家はなんとかなったんでいいんですが、このままじゃ客が来ないので何かご助言頂けないですかねお姉さん」


「うーん。地道にビラ配りティッシュ配りで危険がないことをアピールするとかですかね?それか、ダンジョンのボスは諦めてルミアさんの力で近所の初心者向けではないのに住み着いちゃったドラゴンとか倒して下さると嬉しいなあ、と。討伐の報奨金も出ますから」


ビラ配りはともかくティッシュ配りなんて文化があるのか…。

ドラゴンの件についてだろう、期待した目でチラチラ伺ってくるお姉さん。


「…持ち帰って検討します」




■■■■■




家に戻り、夕食を食べながら状況を報告する俺。


「つまり偉大なルミア様に恐れをなして人が寄り付かないんだってよ」


「当てないのに」


不満そうなルミア。しかし、いくら当たらないからと言ってもあんな攻撃の前に立つのは皆怖いんだろう。


「16歳のミニスカ娘から放たれる魔法で簡単レベルアップ!一切危険はありません!とか書いた紙入れてティッシュ配るか?」


「びっくりする程いかがわしいわ。何より、ミニスカばかり推して来るの何か気持ち悪いわ。褒めるなら容姿を褒めて」


「じゃあ代替案を出してくれよ」


「褒める気ゼロ、と。そうね…そのドラゴンとやらはどこにいるの」


「お?やる気か?」


持ち帰ると言った手前、ドラゴンの居場所を記した資料は貰ってきている。


「うちから見える山に洞窟があって、そこにドラゴンが住み着いているらしい。強過ぎるんで立ち入り禁止にしてて、街の人たちもどうするか対策を考えてるんだとよ」


「そう。そこそこに強いなら好都合だわ」


「遂に冒険か?ちょっと距離あるけど行っちゃうか?」


「違うわ。ダンジョン業やめたらイオちゃんを捕まえた意味がなくなっちゃうじゃない。ザコ敵なのよ」


「イオちゃんは動く掃除機の如く床のゴミを毎日食べてくれてるじゃないか。うちで一番働いてくれてるぞ。俺らより熱心だ。ザコ敵である必要はないと俺は思う」


「まあ、それはそれとして。そこは本当に立ち入り禁止なの?」


「多分」


ルミアが玄関の方に向かう。


「もう辺りは暗いぞ?今から出発するのか?確かに辿り着くまで半日くらいかかるだろうからいいかもしれんが」


「そんな面倒な事はしないわ。まあ、見てなさい」


ルミアは玄関を出て、プカプカチェアーを高く浮かせて家よりも高い位置まで昇っていく。

そして、先日のグングニールを取り出す。


…おいまさか。


「はじまりの街付近で初心者を脅かすドラゴンめ!この大魔王の末娘ルミアがその血肉を我が力にしてくれるわ!…遠くて聞こえてないだろうけど本当はドラゴンには不要だからいいでしょ。口上終わりラグナロク連射」




ルミアが連続で光を放つ。山が光に包まれる。眩しいけど綺麗だな。

何発か着弾し、山が穴あきチーズみたいになったころ。


「手ごたえあったわ。私の経験値が増えた。魔力が上がったのを感じる。玉座も次の段階に移った様ね」


プカプカチェアーに緑色の蔦が生え絡まっていった。

魔王の玉座の成長ってのはわかりやすいんですね。


「さいですか」


「気のない返事ね」


「俺気付いたよ。これ適応力とかでなく、状況に対する諦めだわ。山が削れた事に花火みたいで綺麗以外何も感じない」


「そう。私と一緒にいる以上いい傾向だわ。明日、私も街に行くから。報奨金を受け取りに行きましょう」


「はい」


翌朝、俺たちが報奨金を受け取りに行くと、当然怒られた。やりすぎだって怒られた。

受付のお姉さんは涙目だった。毎度無駄に明るい感じだったのに涙目だった。

報奨金は貰えたが、ルミアは不満げだった。

うちのダンジョンへの冒険者の足は当然遠のいた。

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