5.とんでもない変態ですね!
シノとミナヅキが討伐に向かっている頃。
ルミアとラニは黙々と書類仕事をしていた。
ラニが背伸びをして
「…そういえばですね、私思ってた事があるのですが」
「何よ」
「なんでルミアさん、そんなにシノさんにべた惚れになってるのですか?昨日の武器の管理どころか身の回りの事色々してあげてますね。助けて貰ったとはいえ、そこまで変わるものなのですかね?」
「愚問ね」
ルミアが何かを思い起こす様な遠い目をする。
そして口角が徐々に上がっていき、だらしのない顔になる。
「えへへ…いやもうほんと愚問」
「魔王以前に人としてあるまじき顔になっていると自覚するべきなのです」
「相変わらず不敬だけど仕方がないから教えてあげるわ。私も言いたくてしょうがなかった」
「うは面倒なのを踏んだ気がするのです」
ラニが後悔した顔を浮かべる。
「ふふ、あの夜。新魔王に対峙したシノが相手の仮面を引き剥がしたのを覚えているかしら」
「はい、はい。私も手伝いましたから」
「魔王ルールにおいて、本来なら魔王の証は相手を倒さなければ奪えないの。けど、それを引き剥がした。何故かわかるかしら?」
「魔王ルールはよくわからないのです」
「愛か奇跡か。私へのシノの想いが力になったに違いない。私はそう確信したの」
「全く意味がわからないのです」
「まあ、理由はどうあれ魔王の証を無理矢理剥がすなんて本来ありえないことだから。愛か奇跡がないとありえないわ。以上ベタ惚れの理由よ」
ルミアがうっとりとした表情をする。
「ではでは、もう一つ質問なのです。むしろこっちが本題なのです」
「何かしら。なんでも答えてあげる。今の私は酷く機嫌がいいわ」
ルミアとは対称的に、ラニは真面目な顔で
「あの時の怪我、魔法だけで十分蘇生出来る範疇だったのです。確かに出血量は酷かったですが。ゴブリンキングの時だってシノさんを囮にしてたから、それくらいルミアさんもわかると思ったのです」
ルミアが、それまでの浮かれた表情のままびくっと身体を震わせる。
「なんで血を分けてたのですか?」
「いや、あの時は必死だったから…蘇生出来る範疇だったとか気付かなかったし」
「それでも通るのです。しかし、今明らかに動揺してたのです。何か隠しているのは明白なのです。当時のルミアさんは綺麗なシーツにシノさんを寝かせて消毒したりと至極冷静だったのです。だから私は仮説を立てたのです。私がもしルミアさんの様に魔王候補なら。死体になって魔王の証も奪える魔物になったら困るから自分の配下にしてしまおう、と。なんか格好良く見えてきた異性なら尚の事良し。どうですか名推理!」
どや顔のラニ。
「はあ…打算に塗れた愛を知らない輩は嫌ね」
先程びくついていたのとは打って変わり心底残念そうな溜息をつくルミア。
「ええ?違うのですか?」
「そんな利己的な魔族じゃないわよ私」
「えー。じゃあ今何に動揺してたのですか。びくっとなり具合尋常じゃなかったのです」
「そんなの教えるわけないじゃない」
「なんでも答えるって言ってたのです!魔王的になんでも答えるって言っといて答えないのありなのですか?」
「…痛いところついてくるわね。確かに魔王がなんでも話すと言ったら話すだけど。けども」
そこまで言って口をもごもごさせるルミア。
余程言いたくない理由がある様だ。
「二人っきりじゃないですかー!ガールズトークなのです!内緒なのです!」
ルミアが苦そうな顔で
「だ、誰にも言わない?シノには絶対に」
「絶対言わないのです。私はお金とお友達は絶対に裏切らない事に定評があるのです」
そこまで話して、ルミアが観念した様に小声で
「…血が好みだったの」
「は?」
聞き返すラニ。
苛立ったルミアが大声で
「血が好きだったのよ!シノの血の匂いがものすっごく私の好みだったの!嗅いでる内にそれこそ脳内お花畑になっちゃって、シノに私の血を混ぜてブレンドしたくなったの!」
「え?なんですかそれ。よくわからないのですが」
ぽかんとした表情になるラニ。
「血フェチ!血フェチなのよ私は!血が見たいとかそういう物騒なのじゃなくて、血の匂いとかが好きなの!特にシノの血の匂いは、こう、とにかく…ぞくぞくきたの!」
「もう一回言いますが、え?なんですかそれ。よくわからないのですが」
「まだわからないの!?この服だって、シノが洗剤買ってきてくれたけど洗わずに新品で取り寄せたの!シノの血がついた服は私がまだこっそり隠してあるんだから!シノが格好良かったのは本当だけど、それより何より惚れた理由だってつまりそれよ!血の匂い!で、私は私自身の血の匂いも好きなの!混ぜたら最強に決まってるじゃない!ぞくぞくする!」
「ふわわわわ何か言わなくてもいい事まで言い出してるのです。やばいのです酷いのを踏んだのです。シノさんの下着フェチを遥かに凌駕するフェチなのです。血フェチなんて生ぬるいのです。新手の体液交換フェチとでも称するべきですか。確かに背筋がぞくぞくするのです」
ラニに好き放題言われ、涙目になるルミア。
ルミアは脇に立てかけていたグングニールを手に取り
「言わせといてそれは酷いんじゃないの!ガールズトークを滅ぼしてガールトークにしてあげましょうか!?」
「ガールズからガール。複数系じゃなくなるつまり遠回しに私を消すと言う意味の魔王ジョークですね!?わかります、わかりますから落ち着いて下さい!誰にも言いませんしむしろ協力しますから!」
「協力って何よ!」
「今後ルミアさんがシノさんの分の料理にだけ仕上げに血を混ぜてあげたらどうでしょう!」
「何よそれ!」
「いや自分でも何を言っているのかわかりませんが…」
「いいじゃない!」
「へ?」
ルミアが再び惚気てた時と同じうっとりとした表情をする。
流石に困惑するラニ。
「いやもうお姉様にも口裏合わせて貰って、眷族は定期的な血の摂取が必要みたいに適当に嘘を伝えて、シノにもちゃんと私の血だと認識して貰った上でやりましょう。私の血が混じっていると知りながら、ご飯を口にする……凄いわ、想像するだけで、こう、なんか、もう、込み上げるわ。ラニ貴方天才よ」
肩を抱き身悶えするルミア。
「…うぅ。同じ食卓でそんな光景、私は別のものが込み上げそうなのです。酷い話なのです。あまり乗り気になれないのです」
「早速今晩からはじめましょう。ラニ、私が血の匂いが好きなのはシノには内緒だからね。お姉様は知ってるからいいわ。いいわね?絶対に言わない様にね?それにしても今回のこの提案は見事だわ。はじめて貴方をちゃんと友達として認識出来そうよ、私」
「今日の晩御飯は赤黒いものにしましょう!お友達なので一緒に台所に立つのです!むしろ眷属云々の嘘の話なんかなくたって指に包帯巻いてシノさんの分はルミアさんが頑張りましたみたいな感じ出しとけば、シノさんは食べるのです!」
「天才ね。ちょっと小骨が多いものとかにして。シノが口の中切って、血が混ざる可能性を模索したい」
「とんでもない変態ですね!」
「今日ばかりは褒め言葉として受け取るわ」
盛り上がる二人。
いつも通り友達と言う単語に釣られたものの、ラニは珍しく少し調子に乗りすぎた、と罪悪感を覚えていた。
ポイントありがとうございます。いきなり増えてるとびくっとします。嬉しいです。
更新ペースは遅いですが、ちょっとずつ進めます。




