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20.冬が終わる。

数日後。ハープの店。

店には俺と、街に戻ってきたミナヅキが来ていた。

ハープが先日の件について説明している。


「と、言う事があってだなあ」


「そうですか。あの新魔王の情報はハープ様が流していたんですね」


「むしろ、他に誰があんな情報を流せるのだ。こんな若葉マークの街で。察しろ。それにハープ様とは他人行儀だな。前の様に呼び捨てで構わないのだが」


「ふふ、それはお互い様ですよ」


元学友だかってのは本当だったらしい。

二人は既知の間柄の様だ。明らかにラニよりも更に幼い見た目のハープとミナヅキが元学友とは。

相変わらずこの世界はよくわからない。


「ともかくさ、ルミアがもうちょっと広い家にしたがってて」


「ルミアが、シノ様に血を分けたと聞いた時点でわかってはいましたが。数日の間に随分と所帯染みた話題ですね。ああ、なんの為に大きい家が欲しいと言うのですか。家の壁が薄いとでも言いたいのですか」


「いやそこまでは言ってない。けど、そうか。そうか…そうか!」


「シノ様、どこまでいったのか知りませんが何に期待しての反芻ですかそれは」


「妹に先を越されたな。そろそろ相手を探してはどうだ長女魔王。まずは酒癖を直す事を勧める」


ハープの言葉に、ミナヅキは珍しくイラだったのか。


「流石に余計なお世話です。昔借してたお金返してくれませんか?」


「ごめんなさい言い過ぎました。で、だ。話を戻すが家なあ。完全に聞きに来る相手を間違えているぞ」


まあ、実際そう思う。出されたティーカップに注がれているのは水のみ。

客足はなく、借金塗れらしい店だ。


「いやさ、ほら、家を借りるにしても、これからは俺もお金を稼ぐ方法も考えたいなあ、と」


俺の言葉に、今度はハープがイラっとした様で


「考えは立派だが…勘違い異世界知性体ビジターだな。どーせ異世界の商品で大儲けとか狙ってる口だろう?この世界には他にも召喚物もあるんだぞ?知識を持った人間が召喚される事も今までもあっただろう。何が売れるとか、製作にかかるコストとか、考えて言っているのか?元の世界でも一発当てる事を常に夢見てたんだろう」


辛辣。なんだこの言い回しは。今までも似た様な事を言ってきた奴が何人もいましたーって感じだ。

しかし、俺もここで引き下がれない。


「待て待て考えなしに言ってるんじゃないんだ。ついでに商品開発とかじゃない」


「じゃあ、なんなのですか?シノ様が出来る事は失礼ですが限られてますよ?」


「お金を稼ぐ事と、ルミアの最終目標が大魔王だって事。それと、うちのパーティのアドバンテージを考えるに、やっぱりダンジョン経営が一番近いと思うんだ」


ルミアは、忘れていたが一応ダンジョンのボス、という事になっている。


「新魔王とかが出てきた時、魔物の戦力が拡充していれば、前回みたいな危険が薄くなる。ルミアやミナヅキがいれば冒険者への経験値は相当入るんだろ?冒険者全体の強さも底上げ出来れば、手を貸してくれる人も出てくるかもしれない」


「ふむ。そこまではいいだろう。で、なんで私に声を掛けた?察する力を使ってもいいが、ここは普通に聞いてみたいところだ」


「先に質問があるんだけど、前に勇者邸跡地の話してたけどさ…今も街の近くに勝手に家建ててるんだけど、ダンジョンをちゃんと作るとして土地の権利とかってどーなってるんだ?」


ふむ、と一息。ハープは眼鏡をかけて棚から書類を出し


「街中は基本地主がいる。元々は土地は国の物だがな。しかし、街の外は結界があるとはいえ防壁に護れらていない。そこを開拓する人間が出るなら、国としてはむしろ歓迎だ。つまり街の外はいくらでも使っておっけーだ」


よかった。俺の考えている事は、土地がないとはじまらない。


「じゃあ、もう一つ。ハープは商才がないだけで相手が欲しいものは察するくらいは出来るんだよな?」


「ふふ、商才以前に先立つものがないから、あるものを売っているだけですよねハープ様は」


「やかましい…が、その通りだ」


「じゃあさ。その辺の冒険者の欲しがるものは事前情報がなくてもわかるのか?」


「顔を見れば、まあそれなりにわかるぞ」


流石ハープだ。この世界で知り合った中で最も得体が知れない。

しかし、大体俺の構想の条件は揃ってきた。


「この辺、来たばっかりの頃に聞いたんだけど、住む場所もない冒険者が多いらしいよな。欲しがるとしたら、住む場所と、もう一個くらい何か浅く広く誰でも欲しがりそうなものを考えて欲しいんだよ。個々へのアプローチはまだ先として…」


「おいおい、話を進めるな。つまりどういう事だ?」


そこで、俺は手を広げて


「どーせ今より大きい家探すなら、居住区も設けた、ダンジョン型商業施設でも建てられないものかな?大魔王の長女と末娘が経営してるなんて唯一無二だろ?で、一応過去にルミアがやらかしてて客足が遠のいてるからさ、客寄せの商品をハープに察してもらいたいんだよ!」


「ほう、ほう。金はどこから出る」


「俺は、今後の展望と、もっと金を生む方法を考えただけだ!ルミアもラニちゃんもミナヅキも、きっと金は唸るほど持ってるぞ!こちとら俺以外王族だぞ!」


「乗った!」




■■■■■




「と、言う事があってだなあ」


家に戻り、居間には久しぶりに四人が揃っていた。

俺は先程の話をする。


「あら、シノったら。先に私に相談してくれたらよかったのに。一緒に行けば、あの何者店主を買い叩けたと思うわ」


「いや、ちょっと探したいものがあってさ。はい、これ」


俺が買い物袋から取り出したのは、洗剤だった。


「ハープの店で買ったんだ。血でもなんでも落とせる洗剤らしい。これでいつもの服もまた着れるんじゃないか?捨ててなかったよな?」


洗剤を見たルミアが椅子ごと俺の方に近付いてきて、手を握ってくる。


「シノったら…そういうちょっとしたサプライズよね。うん、そういうとこ。見てみなさいよラニ。シノってば気が利くでしょう?洗濯係の貴方が気付かなくてどうするの」


「ふわわ、ルミアさんが面倒くさいのです。この吊り橋効果にいつまで付き合わされるのですか。ミナヅキさんが帰ってくるまでいちゃつく二人と一緒に住んでで辛かったのですよ?後、気が利くかって言うなら指輪くらい買ってきた方が」


「いいの。シノにはもう指輪は買って貰っているから」


ラニの言うことももっともだが、しがないヒモ相当の身だ。そこまで自由にお金は動かせない。

前に、ハープの店で買った魔力抑止の指輪があったのでやめておいた。


「ああ、ルミア。随分と先に進んでしまったのね。姉としてはとても妬ましいです。滅びればいいと思います」


「ジョークでもなんでもなく滅びを唱えたぞこいつ。酒も入ってないのに」


「こいつじゃなく、お姉様の事は今後は姉さんとでも呼んであげたら?」


「シノ様。それだけはやめて下さい。なんだか耐えられません」


「ルミアさんがフルスロットルで鬱陶しいのです。がっかり異世界知性体ビジターとくっついて浮かれるルミアさんなんてあまり見たくなかったのです」


「おう調子くれてるなよラニちゃん。そういやスパッツ脱いだか?脱いでないよな?俺が特攻しかける時に脱ぐって約束したよな?今この場で脱いで俺にくれよ」


「あげるとまでは言ってないですし!これルミアさん怒るとこではないのですか?」


「シノが言ってるんだからさっさと脱ぎなさいよ二号姫」


「二号姫ってなんなのです!扱い酷すぎませんかね!」


渋々スパッツを脱いで、俺に渡してくるラニ。


「まだあたたかい…顔をつっこんで嗅いでもいいものか」


「ごめんなさい、私もノってたけどその性癖だけはちょっとどうしても……ど、どうしてもって言うんだったらいいんだけど」


「え?いやほんとルミアさんなんでそんなチョロくなってるんですか」


「やはり壁が薄いこの家のままだと、私は全てを滅ぼしたくなるかもしれません」


「あー…脱線したけども。さっきの話に資金援助してくれるか?家も大きくしたいし」


頷く三人。


「おっけ!じゃあ細かいことはなんにも決まってないけど、前祝いにたまには外に食べに行こうぜ!」


「いいわね。あの何者店主にも声を掛けてあげなさい。今日は私が出すわ」


俺たちは外に出る支度をはじめた。


「そろそろ暖かいかもしれないわね。厚着しなくて大丈夫じゃないかしら?」




外は、異世界知性体ビジターなら野宿しても死なない程度の寒さ。

ルミアが最初に行おうとしたもの。原点に立ち返ってのダンジョン経営。


冬が終わる。

もうすぐこの世界にも春が訪れようとしていた。

ここで第一章完結です。ブックマークして頂いている方々をはじめ皆様ありがとうございます。

地の文が少ないですが、ルミアたちは可愛くなっているでしょうか。

引き続きまったり読んで頂けたら幸いです。

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